松田哲夫の王様のブランチ出版情報ニュース

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.09.20)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.9.5)

『3月のライオン』と「川上未映子『ヘヴン』」


<総合ランキング> (三省堂書店全店調べ・8/24~8/31)
① 香山リカ『しがみつかない生き方』(幻冬舎)
② 伊坂幸太郎『あるキング』(徳間書店)
③ 『私服だらけの中居正広増刊号~輝いて~』(扶桑社)
④ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑤ 野中広務・辛淑玉『差別と日本人』(角川書店)
⑥ 松本ぷりっつ『うちの3姉妹 10』(主婦の友社)
⑦ 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
⑧ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑨ 平子理沙『Little Secret』(講談社)
⑩ 野口敏『誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール』(すばる舎)


<特集・川上未映子『ヘヴン』>
◎川上未映子『ヘヴン』(講談社)



構想と執筆に2年かけた芥川賞受賞後初の長編小説『ヘヴン』。「わたしたちは仲間です」……14歳の僕に届いた1枚のメモ。それは、クラスメートの「コジマ」からのものだった。斜視の僕に日常的に暴力をふるう彼ら。コジマもまた、外見を不潔と罵られ、女子生徒から日常的に苛められていた。ひそやかに不器用に始まったコジマとの交流は、やがて、陰鬱でしかなかった僕の「世界」に輝きを与えていく。そうしたコジマとの友情は永遠に続くはずだった。もし彼らが僕たちを放っておいてくれたなら……。人は何のために生きるのか。僕の悲痛な問いが胸を打ち、涙がとめどなく流れる、魂を揺さぶる感動作です。今回は、川上未映子さんになぜいじめを題材にされたのか、長編小説と短編小説の違いはなどについてインタビューします。
優香 受賞後初の作品ということですが、松田さんは読んでいかがでした。
松田 オススメですね。素晴らしい作品ですね。暗くて重いテーマを扱っているんですが、いろんな意味で読者の心を鷲掴みにする魅力的な作品なんです。「いじめ」っていう問題ををギリギリと問い詰めていくんですけども、現代における「善と悪」の意味をとことん描いているんですね。ある意味では『1Q84』と肩を並べる力作・問題作だと思いますね。是非お読みになるといいと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎羽海野チカ『3月のライオン』1~3(白泉社)



松田 ついに3巻目が刊行されました羽海野チカさんの『3月のライオン』です。
N 厳しい勝負の世界に生きる天才少年棋士・桐山零。彼が負う心の傷。それは幼い頃、交通事故で家族を失ったこと。そんな零の前に、太陽のような三姉妹が現れた。『ハチミツとクローバー』の人気漫画家が描くハート・ウォーミング・ストーリー。彼女たちとの交流が零の心を優しく癒していく。>
谷原 「松田の一言」お願いします。
松田 「コントラストの美しさ!」(松田の一言)
これは、物語としても漫画表現としても、コントラストが鮮やかな作品ですね。少年漫画のもつ研ぎ澄まされた真剣さみたいなものがありますし、一方で、少女漫画のもっている柔らかく包み込むような優しさもありますし、その両面をもってる作品なんです。少年の孤独と将棋の世界を描くところでは、コントラストがクッキリした背景が印象的で、モノローグが強い字でガンガンと書かれています。一方、三姉妹の温かい家庭を描くところでは、猫や家具とか小物とかゴチャゴチャ描かれていて、独り言やつぶやきが溢れんばかりに書かれている。この対比が凄く見事で、この二つの世界を行き来しながら、少年は成長していくっていう物語なんですね。たくさんの伏線が引かれているんですが、まだまだ謎が多くて、物語の先行きから目が離せませんね。
優香 私も読みましたけども、その対比が凄く面白いですよね、陰と陽という感じで。そして三姉妹がとっても明るいんですよ。特に、一番下のモモちゃんがとっても可愛くって、モモちゃんが発する言葉が浮かんでくるっていう感じで。本当に癒されるんですよね。ご飯も美味しそうですよね。
松田 美味しそうですね。ただ、この三姉妹にも、どうも謎があるらしい。まだまだわかんないんですけどね。
優香 うーん。
谷原 これから先、どうなっていくのか、楽しみですね。
優香 本当に、男性も女性も楽しめる作品なので、是非読んでみてください。



<ごあいさつ>


いつも、「王様のブランチ」本コーナー及びコメンテーターの私に対してご支援、ご協力いただきありがとうございます。
突然の話で申し訳ありませんが、この9月末をもちまして、私は「王様のブランチ」から降板することになりました。スタッフから、視聴率アップのための番組リニューアルの一環として、本コーナーにはレギュラー・コメンテーターを置かないという方針になったとの通告があったのです。
この番組には、1996年4月の第1回から始まり、途中1年間のブランクはありましたが、通算12年半もの間、出演させていただきました。おかげさまで、たくさんの本を読み、紹介することができました。また、番組の出演者、スタッフ、さらには出版社、取次、書店、作家の方々とも本を通じて楽しくおつきあいすることができました。その上、『「王様のブランチ」のブックガイド200』(小学館101新書)という本までまとめることができました。そういう意味では、実りの多い時間を過ごさせていただけたことに深く感謝しています。
私は、番組開始当時から、出演者、スタッフ含めても最高齢でしたので、どんどん若返る番組の中では、一人場違いな年寄りが紛れ込んでいるという感じだったかもしれません。いつまでも出演し続けるわけにはいかないので、このあたりで一区切りつけるのも潮時かもしれないと個人的には思っています。
今後、私としては、「新刊ニュース」や「オリコンビズ」の連載エッセイなど、本を紹介し出版界の動向を報告する仕事は続けていくつもりです。また、来年にはラジオ番組へのレギュラー出演の打診も来ています。これからも引き続き、皆さまのお力添えを賜りたく、お願い申し上げます。
ところで、「本コーナー」そのものは10月以後も持続します。番組スタッフによりますと、レギュラー・コメンテーターにかわる魅力的な工夫を考えていくそうです。リニューアル後の本コーナーにも、是非ご注目いただければ幸いです。


2009年9月
松田哲夫

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.09.05)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.8.29)

「2009上半期BOOK界ムーブメント」


<特集・2009上半期BOOK界ムーブメント>
2009年上半期に起こったBOOK界でのムーブメント、ニュースなどを紹介。


★漢字本がバカ売れ!?
◎出口宗和『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(二見書房)



麻生総理の誤読発言から売上げが急上昇。テレビ番組などでも特集され漢字本が一躍ブームに。2009年上半期のオリコン書籍ランキングで1位を獲得。


★村上春樹最新作『1Q84』が大ヒット!!
◎村上春樹『1Q84』1・2(新潮社)



今年5月に発売された村上春樹7年ぶりの長編小説。発売前から予約が殺到し純文学としては異例の売れ行きをみせた。この「1Q84」の現象は村上春樹の過去作にまで影響を及ぼし『ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』が再び売上げを伸ばし、また。作中に登場したクラシック音楽ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」もCD売上げが急上昇したとのこと。新潮社担当編集の方にインタビュー。
優香 松田さん、まもなくノーベル文学賞が発表されるということですが、村上春樹さんの可能性は、あるんでしょうか?
松田 今年も、村上さんが有力候補だと言われていますね。特に、エルサレムでのスピーチは大きなインパクトを与えたと思いますから、今年は一番のチャンスかもしれませんね。『1Q84』は、抜群に面白い作品ですが、過激な表現があることがマイナスになるという見方もあるようですね。


★ブランドムック本
◎『キャス・キッドソンへようこそ』1~2(宝島社)



◎『Cher 2009 Spring/Summer Collection』(宝島社)



宝島社のブランドムック本が大人気となっている。購入者の目的はムック本に付属されるブランドアイテム。ブランドショップで買えばそこそこの値段がするものがムック本だと本の値段で買えるということで大ブームに。ムック本のほかにも人気女性ファッション誌にもアイテムを付属することで売上げが上昇しているのだとか。


★脳ブーム 
◎茂木健一郎『化粧する脳』(集英社)



脳に関する書籍が売上げを伸ばし、書店では特設コーナーを設けるなど脳ブームといえる現象が。脳科学者である茂木健一郎さんの著書「脳を活かす」シリーズなど脳関連の本がベストセラーになった。さらに、新聞でもコラムで取り上げられたり、ゲームソフトになっていたりと脳に関するモノは本だけでなく様々な分野に影響を与えている。


★ミステリー作家が大活躍!
◎湊かなえ『告白』(双葉社)   本屋大賞2009を受賞



◎天童荒太『悼む人』(文藝春秋)  第140回直木賞受賞



◎北村薫『鷺と雪』(文藝春秋)   第141回直木賞受賞



◎道尾秀介『龍神の雨』(新潮社)  このミス2009年版作家別投票1位



優香 湊さんの『告白』は、読んでいて引き込まれました。松田さん、ミステリーファンじゃなくても楽しめる内容ですよね。
松田 そうですね。ここのところ人気のミステリー作品を見ていると、単なる謎解きではなく、社会的な問題に切り込んだり、人間心理を深く探ったりといった要素を加味した、上質のエンタテイメント作品になっているものがヒットしている。そんな感じがしますね。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.08.25)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.8.22)

『身の上話』と「JUNON」


<総合ランキング> (ジュンク堂書店池袋本店調べ・8/10~8/16)
① 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
② 上橋菜穂子『獣の奏者Ⅲ探求編』(講談社)
③ 上橋菜穂子『獣の奏者Ⅳ完結編』(講談社)
④ 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
⑤ 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
⑥ 石田衣良『ドラゴン・ティアーズ――龍涙』(文藝春秋)
⑦ 平子理沙『Little Secret』(講談社)
⑧ 香山リカ『しがみつかない生き方』(幻冬舎)
⑨ 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)
⑩ 福岡伸一『世界は分けてもわからない』(講談社)
谷原 さあ、松田さん、何か気になる作品はありましたか。
松田 2位と3位に入った『獣の奏者』ですね。Ⅰ・Ⅱ巻もすごい迫力のあるファンタジーでしたけども、ますますスケールアップしています。クライマックスシーンでは涙が流れて止まらなくなる、本当に感動的な素晴らしい作品ですね。世界のファンタジー史上に残る大傑作じゃないかなと思います。
谷原 気になるよね、優香ちゃん。
優香 わたし、Ⅰ・Ⅱ見てるんで、見たいですね。
谷原 見たいですね、Ⅲ・Ⅳ巻。


<特集・「JUNON」>
◎「JUNON」10月号(主婦と生活社)



8月22日発売予定の「JUNON」10月号の撮影風景に密着しました。今回は、昨年のJUNONボーイコンテストファイナリストの11名による海での撮影です。テーマは「JUNON夏恋☆告白!」。グループデート風に遊んでいたり、男同士で遊んでいる様子が思春期の女の子にとってはまぶしく映る、というイメージだったりです。グランプリを受賞した市川知宏くんを始め、JUNONボーイに撮影への意気込みや感想を聞いたり、編集者・カメラマンに撮影のコツやどうしたらいい表情が引きだせるのかなどをインタビューしました。


<今週の松田チョイス>
◎佐藤正午『身の上話』(光文社)



松田 色んな意味で、とんでもない小説、佐藤正午さんの『身の上話』です。
N 地方の書店に勤務する平凡な女性ミチル。ある日、お使いを頼まれた彼女は、そのまま東京行きの飛行機に飛び乗った。大好きな妻子ある人を見送るだけのつもりだったのに。突然始まった東京での生活。ミチルは流されるまま、ある事件に巻き込まれていく。佐藤正午が放つ、とんでもない身の上話、人生の不可思議を突きつめる。>
谷原 さあ、「松田の一言」お願いします。
松田 「胸のドキドキが止まらない!」(松田の一言) これは心理的ホラーともいうべき作品ですが、怖いんです、本当に。伏線の張り方が非常に見事で、その伏線がズーッと繋がっていくと、思いがけない幸運がやってきたり、とんでもない不運に見舞われたりするんです、主人公が。本当に、ジェットコースターに乗っているようなハラハラドキドキ感があって、そして終盤になって、「語り手」というのが姿を現してきて、その時に、とんでもない真実が明らかになるんですね。小説という作り話の面白さをとことん楽しませてもらえる小説でしたね。
谷原 これ、基本的に独白で進んでいくので、湊かなえさんの『告白』に近い感じがしたんですね。違うのは、湊さんのは本人の独白なんだけど、これはミチルの旦那さんが「ミチルは過去こうこうこうで」と、身の上話を第三者がしているところから始まっている。読んでいって思ったのは、人生って選択があるじゃないですか、二者択一の。もし、こっちを選んでいたら、どうなっていたんだろうなって、過去の自分のことを考えてしまうんですよ。で、最終的に読み終わって考えたのは、もうぼくは間違った方を選んでるのかなあ、選んでなければ良いなって。いろんな選択を二者択一でしてくるんですが、本当に大事な選択ってそうそうなくて、片っぽを選んだら、その蟻地獄や蜘蛛の巣からは逃れられなくなっている。ぼくは、その巣にいるのかどうなのか。
はしの 谷原さんの感想が、最終的にそっちなのって思いますよね。
優香 自分のことを考えてしまう。面白そうですね。
松田 怖いです。
谷原 何より一番怖いのは人間です。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.08.17)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.8.15)

『学問』と「こうの史代『この世界の片隅に』」


<総合ランキング> (啓文堂書店全店調べ・8/3~8/9)
① 『Cher 09-10 AUTUMN/WINTER COLLECTION』(宝島社)
② 『MARC BY MARC JACOBS 2009 FALL/WINTER COLLECTION』(宝島社)
③ 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
④ 畠中恵『ころころろ』(新潮社)
⑤ 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
⑥ 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
⑦ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑧ 広岡友紀『日本の私鉄 京王電鉄』(毎日新聞社)
⑨ ビートたけし・所ジョージ『復刻版 FAMOSO』(ネコパブリッシング)
⑩ 『Number PLUS 9月号 完全復刻版 清原和博』(文藝春秋)


<特集・こうの史代『この世界の片隅に』>
◎こうの史代『この世界の片隅に』全3巻(双葉社)



戦前から戦後の広島県の軍都・呉を舞台にした家族ドラマ。主人公のすずは広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑いながらも一日一日を健気に過ごしていく。リンさんという友達もでき、夫婦ゲンカもするようになり、ようやく呉の街にも馴染んできた。しかし戦況は厳しく、配給も乏しくなり、日々の生活に陰りが……。そして昭和20年3月、ついに呉の街にも大規模な空襲が。戦争という容赦のない暗雲の中、すずは、ただひたすら日々を誠実に生きていく。空襲のシーンはほとんど無く、戦争の悲惨さなどではなく、戦前、戦時中、戦後の長い時間を過ごした人々のささいな日常生活を綴った、今までにない戦争マンガ。今回、著者のこうのさんに戦争マンガを描こうと思ったきっかけをインタビュー。製作にあたっての膨大な資料や原画などを拝見させて頂きました。また、こうの作品の映画化作品に主演した麻生久美子さんのコメントも頂きました。
松田 このお話全体が民話みたいな語り口なんですね、「むかしむかし」っていう感じで、すごく優しいんですね。そして描かれている日常も、みんなけなげに明るく生きているという感じなんで、余計に、そういう日常を断ち切ってしまった戦争の悲惨さがより鋭く迫ってくる、素晴らしい作品だと思いましたね。


<今週の松田チョイス>
◎山田詠美『学問』(新潮社)



松田 山田詠美さんの青春小説『学問』です。
N 恋愛小説の大家山田詠美が思春期の輝きを描いた最新作『学問』。人気者の心太、食いしん坊の無量、すぐに眠ってしまう千穂、そして東京から仁美。彼らは不思議な友情で結ばれていた。はたして、それぞれがもつ欲望とは? 4人の少年少女が、性の目覚めを経て大人へと成長していく近づいていく濃密な日々を描く。「私ねえ、欲望の愛弟子なの。」>
谷原 松田の一言、お願いします。
松田 「この輝きを永遠(とわ)に……」(松田の一言) これは、4人の少年少女のお話なんですけども、友情とも恋愛とも違う、もっと強く確かな絆で結ばれた4人なんです。この絆は、小学生から高校生まで、奇跡的に永く続いていくんですね。その楽園のような世界の中で、一人一人が自分の欲望とか好奇心に忠実に、未知のことを学んでいって、お互いを優しく見つめていくんです。それが、彼らにとっては学校で学ぶよりも大事な学問だったんだというお話なんです。本当に、かけがえのない輝きに満ちていた青春の日々がそこに確かにあったんだということを、しみじみと教えてくれる青春小説の傑作です。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.08.09)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.8.8)

『星守る犬』と「磯﨑憲一郎『終の住処』」


<文芸書ランキング> (ブックファースト新宿店調べ・7/27~8/2)
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
③ 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
④ 北方謙三『楊令伝 10』(集英社)
⑤ 神林長平『アンブロークンアロー』(早川書房)
⑥ 畠中恵『ころころろ』(新潮社)
⑦ 誉田哲也『武士道エイティーン』(文藝春秋)
⑧ 北村薫『鷺と雪』(文藝春秋)
⑨ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑩ 高村薫『太陽を曳く馬 上』(新潮社)


<特集・磯﨑憲一郎『終の住処』>
◎磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)



「妻はそれきり11年、口を利かなかった――。」過ぎ去った時間ほど、侵しがたく磐石なものがあるだろうか。ひとは、過去に守られているのだ――。30を過ぎて結婚した男女の、遠く隔たったままの歳月。ガルシア=マルケスを思わせる遠大な感覚で、人の幸不幸を超越して流れてゆく時間と、この世の理不尽と不可思議をあるがままに描きだす。今回は、第141回芥川賞を受賞された磯﨑憲一郎さんに英玲奈さんと私(松田)がインタビューしてきました。40代にして作家になった磯﨑さんにどのようにして『終の住処』が生まれたのか、家族の話や会社員としての仕事、小説の書き方などについて伺ってきました。
谷原 松田さん、『終の住処』読んでいかがでした。
松田 かなり風変わりで不思議な小説なんですね。ひとつひとつの場面は現実と地続きでリアリティがあるんですけれど、それが繋がっていくと、どこか不思議なところに連れて行かれるようなんです。でも、最後、「終の住処」って、家を建てることで安らぎを得るんですけども。何か、あったかい大きなものに包み込まれるような心地よさがあるんです。不思議な小説ですね。


<今週の松田チョイス>
◎村上たかし『星守る犬』(双葉社)



松田 温かい涙が流れるマンガ、村上たかしさんの『星守る犬』です。
N 放置された自動車から二つの遺体が発見された。それは、中年男性と飼い犬のものだった。いったい彼らに何があったのか。これは、どこまでも飼い主を慕う犬の物語。捨て犬だったハッピーは、ある家族に拾われ、楽しく暮らしていた。しかし、家族はバラバラになってしまった。すべてを失ってしまったおとうさんと忠実な犬の、哀しくもおかしいふたり旅。涙なしには読めない感動作。>
谷原 さあ、「松田の一言」は。
松田 「優しさと切なさと……」(松田の一言) 犬を飼ったことがある人は、いろんな場面で優しさと切なさにうたれて心が動かされると思うんです。それと同時に、読んでいると、温かいものがどんどん伝わってくるという感じがするんですね。その温かさはどこからくるんだろうと思うと、この作品が、いつも真っ直ぐに飼い主を見ている犬の気持ちに寄り添って描かれているからなんですね。だから、どんなに厳しい現実がこようと、この犬は大らかに、優しく、けなげに受け止めていく。その姿を見ていると、本当に限りなく切ない気持ちになっていくんですね。本当に、犬好きにはたまんない一冊です。
優香 犬好きのわたしも読みまして。この本のこと自体は知っていたんですよ。結構、話題にもなっていて、知人にも「いいよ」ってオススメしてもらっていて。もう号泣です。何回読み返しても、泣いてしまいますね。とにかく、この犬が可愛いのと、他の動物と違うのは、忠実じゃないですか、犬って。それで、このお話の中でも、ズーッと敬語なんですよ。それが忠実さを物語っているような。
松田 飼い主に語りかける言葉がね。
優香 「おとうさん、おとうさん」って呼びかけていて。それが……切ない涙もあったり、温かい涙もあったり。こんな短い一冊なんだけど、こんなにいっぱいの気持ちをもらえるんだって。本当にオススメです。麻里奈ちゃんも読んだんですよね。
麻里奈 最短記録の涙の出し方でした。あんなにすぐ涙がポロポロ出てくるのは……。いま、思い出しても……。
谷原 ぼくも犬を飼っているんで、読んでみます。
松田 人前で読まない方がいいと思いますよ。
麻里奈 電車で読んで失敗しました。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.08.02)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.8.1)

『星間商事株式会社社史編纂室』と「三浦しをんの夏休みマンガ祭り」


<特集・三浦しをんの夏休みマンガ祭り>
今週は、直木賞作家でマンガにも造詣の深い三浦しをんさんを生ゲストとしてスタジオにお招きしました。スタジオでは三浦しをんさんオススメのマンガを3タイトル紹介しました。
◎東村アキコ『海月姫』1~2(講談社)



「人のふり見ても我がふりは直らない」(しをんのキャッチフレーズ)
謎の腐女子集団尼~ず参上!! クラゲ大好きの女の子・倉下月海が暮らすアパートは男子禁制・ヲタ女子オンリーの天水館。ある日、月海が溺愛するクラゲ・クララのピンチを救ってくれたおしゃれ女子を部屋に泊めたら……!?


◎水城せとな『黒薔薇アリス』1~2(秋田書店)



「ステキな夢にひたる」(しをんのキャッチフレーズ)
恋人を救うため、自分の命を差し出した菊川梓。彼女の魂は、ある少女の中へ入り、眠りの中をさまよう。そして目覚めた彼女を待っていたのは、4人の吸血鬼たちだった……。愛と繁殖のヴァンパイア・ロマネスク!!


◎杉本亜未『ファンタジウム』1~4(講談社)



「一つのことに打ちこむ人の美しさ。」(しをんのキャッチフレーズ)
少年は何ものにも従わず、軽やかに己の道を歩む。マジシャンとして天性の才能を持ちながら、何ものにも縛られることなく自由に生きる少年・長見良。マジシャンだった祖父・龍五郎に憧れて育ったサラリーマン・北條。龍五郎が生前にとった唯一の弟子だった良には、ある秘密があった。そして、良の才能に魅入られた北條は、ともに歩んでゆく。


<今週の松田チョイス>
◎三浦しをん『星間商事株式会社社史編纂室』(筑摩書房)



松田 面白さ満載、三浦しをんさんの最新作『星間商事株式会社社史編纂室』です。
N 川田幸代。29歳。会社員。腐女子。ある日、いきがかり上、会社が隠す過去のスキャンダルを探ることも。彼女にできるのは同人誌作りと妄想だけ。しかし、知りたくなったら止まらないオタク魂で突き進む。怒濤のエンターテインメント。>
谷原 松田の一言、お願いします。
松田 「笑って暑気払い!」(*松田の一言*) きょうは、しをんさんがとっても楽しいマンガをいろいろ紹介してくれたんですけども、これらの作品に負けず劣らず面白い。マンガで言えば、ラブコメあり、スポ根あり、社会派あり、会社ものありと、いろんなものが盛りだくさんに入っています。それだけではなくて、主人公が書く「ボーイズラブ小説」が途中途中に挟まれていて、それが抱腹絶倒ものなんですね。猛暑の季節、本当にいい涼しさを与えてくれるお笑いの一冊だと思いました。
三浦 ありがとうございます。
松田 しをんさんに質問があるんですけども、腐女子、オタクな女性を主人公にしたのはなぜですか?
三浦 自分もオタクだからっていうことなんですけども。それと、好きなことに熱中してる女の子っていいなあと思って、その人を主人公にして、巻き起こる騒動みたいなものを書いてみたいなあと思ったんです。
松田 年代を超えて、おじさんたちも巻き込んでいくというのが面白いですよね。
三浦 はい。
松田 あと、「ボーイズラブ小説」は書いていて楽しかったですか?
三浦 むっちゃくちゃ楽しかったですね。もっと書きたかったです(笑)。
松田 ボーイズラブ小説作家になっちゃうんじゃないですか(笑)。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.07.26)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.7.25)

『ともしびマーケット』と「外山滋比古『思考の整理学』」


<文庫ランキング> (三省堂書店全店調べ・7/13~7/19) 
① 伊坂幸太郎『終末のフール』(集英社)
② 佐伯泰英『侘助ノ白』(双葉社)
③ 外山滋比古『思考の整理学』(筑摩書房)
④ 道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮社)
⑤ 城山三郎『官僚たちの夏』(新潮社)
⑥ 佐藤多佳子『一瞬の風になれ 1』(講談社)
⑦ 森見登美彦『きつねのはなし』(新潮社)
⑧ 林真理子『本朝金瓶梅』(文藝春秋)
⑨ 明野照葉『汝の名』(中央公論新社)
⑩ 道尾秀介『片眼の猿』(新潮社)


<特集・外山滋比古『思考の整理学』>
◎外山滋比古『思考の整理学』(筑摩書房)



<VTR>
N トップクラスの知能が集結する東京大学と京都大学、その大学生たちに今、一番読まれている本……。
東大生A すごい引き込まれる感じで、すごく楽しんで読みました。
東大生B 大学に入って勉強する時に使える本です。
東大生C 読むと、考えることについて、また考えるようになると思います。
N 天下の東大生たちがこぞって絶賛するのがこちら、『思考の整理学』。昨年、東大と京大の生協で一番の売上げを達成。今年もますますの売上げをみせています。さらに一般書店での売上げでも快挙、今週の文庫ベストテンで3位、三ヶ月連続でランクインしているんです。発行部数は80万部以上。全国的にもベストセラーとなった『思考の整理学』、その作者を直撃。
英玲奈 「王様のブランチ」の英玲奈と申します。外山さんでいらっしゃいますか。
外山 はい、そうです。外山です。
N こちらが作者の外山滋比古さん、86歳。お茶の水女子大学名誉教授でいらっしゃいます。
英玲奈 『思考の整理学』が東大生、京大生に一番読まれているということですが、その理由はなぜでしょうか?
外山 全然わかりませんね。身に覚えがないですね。
N 実は、この本、外山さんが20年以上前に書いたもの。独創的なアイディアを産み出すためのヒントがたくさん詰まったエッセイ集。
外山 新しいことを考える力をつけるには、どうしたらよいかということを、読者の人と一緒に考えるつもりで書いたんですね。
N その内容も、もちろんユニーク。常識にとらわれない目からウロコの考え方が満載です。例えば、「知識があるほどアイデアは湧かない」。えっ、知識ってあればあるほどアイデアの素になるんじゃないですか?
外山 本を読むとか人の話を聞くとかいうことで、知識を得られますが、考えるというのは、人から教えてもらうわけにはいきませんから、自分でやる。面倒なんです。面倒だから、知識があればわざわざ考えない。知識が増えれば増えるほど、考えることは少なくなる。
N 外山さんによれば、考える力が一番あるのは、言葉を覚える前の赤ん坊なんだとか。
外山 赤ん坊は3年も経てば、だいたいしゃべることができるようになっちゃう。その能力というのは、学校で教えるんじゃないんです。生まれてから数年の間、考えて考えて考えて、そして文法をこしらえるんですからね。普通、大学で勉強している人でも、文法つくるなんて簡単にできないんですよ。その能力をもっているのに、学校教育で、知識を覚えなさい、忘れちゃダメってやってるから、頭が知識で全てのことを解説しようというコンピューター人間のようなものを作っちゃったんですよ。
N 目からウロコの外山理論。実は東大生たちも……。
東大生D 東大生だからこそ、知識に偏った勉強をしてきたからこそ、それじゃいけないんだなという……。
N 知識だけでは、社会で通用しない。『思考の整理学』が売れたのは、東大生自身もそう強く感じていたからなんです。さらに支持された理由がもう一つ。読者論、日本語論などさまざまなジャンルで活躍してきた外山さんの経験を生かし、アイデアを生み出す具体的方法を幅広く提示してくれているんです。中でも注目なのが、「メモとノートとメタ・ノート」。
外山 何か思いついたとしますね。それをそのままにしていたら、必ず忘れちゃうんです。いっぺん忘れたら、絶対に返らない。そこで枕元に紙切れを置いておいて書くんです。
N 年に1万項目をメモしたこともあるという外山さん、いつでもどこでも書けるように、紙を持ち歩いています。しかし、気付いたことをメモするというのは、比較的スタンダードな方法。実践している人も多いのでは。しかし、ここからが外山流。
外山 メモで、これはましかもしれないと思うものをね、写すんですよ。
N これはと思うものだけ、メモからノートに写す。しかし、その時に重要なポイントが。
外山 その場で写しちゃったらダメですから、一晩おくと、忘れるんですよ、かなりのものは。なんで、こんなこと書いたかと、自分で書いててわからなくなっちゃうんですよ。これは、もちろんダメね。
N 頭をスッキリさせるために、一日寝かせ、いいと思ったものだけを写す。しかし、これで終わりじゃあありません。
外山 ここでしばらく寝させておくんです。
英玲奈 まだ、寝かせるんですか。
外山 もう一度、寝させて、ノートの中で眠らせたり、あたためたり、熟させたりしているもので、ちょっとおもしろいものを、このメタ・ノートに写して……ノートのノートだからメタ・ノート。
N 日々、書き留めている気になったこと。それをノート、さらに熟成させてメタ・ノートへと写していく。この三つの段階を踏むことによって、思考が整理され、オリジナルなアイデアが生まれてくるんです。
 先日行われた『思考の整理学』講演会(東大駒場キャンパス)では外山さんが東大生相手に熱弁。他にも新刊の発表や雑誌の連載を精力的にこなす外山さん、86歳にして、その若さの秘訣とは。
外山 歳なんて忘れちゃうんです。歳なんか考えるのは、そもそも間違いなんです。年齢という数字の知識にやられちゃってるんです。いまは、100歳になるとワーワーワーとかやるでしょう。それによって、歳を取ったとかね……。ぼくが歳取ったなんて考えないのは、歳をあんまり気にしないんです。
<スタジオ>
谷原 松田さん、この本はいかがでしたか。
松田 とっても読みやすい本なんですね。それで、読んでいるとスーッと頭の中に風が通っていくような爽快感があって……。四半世紀前に書かれた本なんですが、まったく古びていないんですね。自分の頭で考えることの基本をしっかりおさえているからじゃないかなあと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎朝倉かすみ『ともしびマーケット』(講談社)



松田 朝倉かすみさんの『ともしびマーケット』、リズミカルな語り口がとても楽しい小説です。
N 札幌の閑静な住宅街にある「ともしびスーパーマーケット鳥居前店」。そこには、思いを伝えられない片思いの女の子、定職をもたず自分探しをしている若者など、さまざまな事情を抱えた人たちがやってきます。そんな彼らの日常に訪れる「いい日」。人生の転機となる「いい日」の一場面には、必ず「ともしびスーパーマーケット」と、そこに集まる人たちの姿がありました。作者の朝倉かすみさんも、実際にスーパーで働いた経験をお持ちだそう。心にポッと灯がともるハートウォーミングな作品です。>
谷原 今週の「松田の一言」をお願いします。
松田 「人生、捨てたもんじゃない。」(*松田の一言*)このお話には、華やかな登場人物が出てくるわけではないですし、派手な活劇やロマンチックなドラマがあるわけではないんですね。出てくるのは、普通の、どちらかというと冴えない人たちばかりなんです。そういう人たちの中にも「物語」はあるし、それなりに輝く瞬間もある。そういうお話をリズミカルな語り口で語ってくれるので、読んでいると、なんだかとっても良くできたミュージカルを観ているような楽しい雰囲気になってくるんですね。それで最終章では、そういうノリの良い感じが一気に弾けていく感じで、すごく素敵なエンディングが待っているんです。先行き暗いというか、見えにくい時代、こういう世の中にちょっとした「ともしび」を灯してくれる、本当にあたたかいお話だなと思いました。
優香 私も読みまして、本当に派手な人たちが出てくるわけではないんですが、だからこそ、その人たちの日常を1ページ切り取って、こっそり見ているような感じで、終わり方も「ハイ、終わりです」というんじゃないので、まだまだ続いていくんだなという感じがしました。私が特に好きだったのは、片思い中の女子中学生のお話があるんですけども、それが特にミュージカルっぽいですね。
松田 そうですね。なんか、音楽が聞こえてくる感じなんですね。
優香 中学生の時に、好きな男の子に電話するときに、お金入れて電話しようとするんだけど、なかなかその手が動かなかったり、繋がったけど、なにしゃべっていいかわかんないし、そのもどかしさ、「好き」ということを伝えられないもどかしさ、その懐かしい感じの思いが蘇ってくるお話でした。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.07.20)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.7.18)

『弩』と「祝!直木賞作家・北村薫を直撃!」


<総合ランキング> (文教堂書店全店調べ・7/6~7/12)
① 『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 大冒険プレイヤーズガイド』(集英社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
③ 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
④ 天野明『家庭教師ヒットマンREBORN!隠し 3』(集英社)
⑤ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑥ くるねこ大和『くるねこ 其の4』(エンター・ブレイン)
⑦ 藤井旭編『欠ける太陽を見よう!皆既日食』(星の手帖社)
⑧ 小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL 天皇論』(小学館)
⑨ 加藤由子ほか『くらべる図鑑』(小学館)
⑩ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)


<特集・祝!直木賞作家・北村薫を直撃!>
◎北村薫『鷺と雪』(文藝春秋)



7月15日に第141回芥川賞・直木賞が発表されました。そこで、急遽、私(松田)と英玲奈さんで北村薫さんを訪れ、直撃インタビューしてきました。北村さんはデビューから20年、直木賞候補に選ばれたのは6回目でした。受賞作は昭和初期を舞台にした作品、当時の世相を織り交ぜながら上流階級のお嬢様英子とおつきの女性運転手ベッキーさんの活躍を描いたミステリー短編集です。インタビューでは「魅力その① 女の子が大活躍」、「魅力その② 殺人のないミステリー」、「魅力その③ 超!読書家」など北村作品の魅力を徹底解剖しました。
谷原 松田さん、今回の北村さんの受賞作、いかがですか。
松田 北村さんのファンとしては嬉しいですね。今回の受賞作は北村ミステリーの集大成みたいな作品なんですね。昭和初期という時代を背景にして、日常の中の謎を優しい語り口で解き明かしていくお話なんですが、そこに日常を踏みにじる戦争の足音が聞こえてくる。最後には劇的なクライマックスがやってくるんです。面白いです。


<今週の松田チョイス>
◎下川博『弩』(小学館)



松田 ドラマチックな歴史小説の傑作、下川博さんの『弩』です。
N およそ650年前、今の鳥取県智頭町に侍を雇った村が実在した。野心はあるが、無名の農民・吾輔。家族を、そして村を豊かにしたい、彼は溢れる行動力で道を開いていく。そんな村に巻き起こる悪党集団との戦い。吾輔たちの味方したのは青い目の侍、そして日本には馴染みの薄い武器「弩」(クロスボウ)だった。史実をもとに描かれた農民たちの熱き人間ドラマ。>
谷原 さあ、松田さんの一言は?
松田 <*松田の一言*「村人たちの息づかいが聞こえる」>
これは、ある村の人たちが自ら武装して悪党集団を撃退する、というお話なんです。でも、クライマックス・シーンに行くまでの、この人たちの悩みや葛藤などがドラマチックに描かれていて、最後の人びとが戦に立ち上がっていくシーンも感動的です。こういう時代に、こういう人たちが一生懸命生きていたんだということが切々と迫ってくるお話なんですね。人間ドラマとしても戦の物語としても素晴らしい傑作だなあと思いました。
谷原 時代小説好きなもんで、読ませていただきました。今回のお話はノンフィクションをベースに、とても読み応えのあるフィクションが展開されているんですね。もともとは、一つの史実をもとにしてるんですよ。この小説は、史実から始まり、壮大なフィクションが展開されて、最後はたんなるハッピーエンドに終わらず、ちょっとしたリアリティのある、納得の終わり方をするんですよ。
松田 歴史の中にとけ込んでいくという感じが素晴らしいですね。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.07.12)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.7.11)

「直木賞予想」と「森見登美彦『宵山万華鏡』」


<総合ランキング>  (有隣堂全店調べ・6/29~7/5)
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
③ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
④ 藤井旭『欠ける太陽を見よう!皆既日食2009/7/22』(星の手帖社)
⑤ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑥ 山崎豊子『運命の人 4』(文藝春秋)
⑦ トレーシー・アンダーソン『ザ・トレーシーメソッドDVD-BOOK』(マガジンハウス)
⑧ くるねこ大和『くるねこ 其の4』(エンター・ブレイン)
⑨ 三木谷浩史『成功の法則92ヶ条』(幻冬舎)
⑩ 森見登美彦『宵山万華鏡』(集英社)


<特集・森見登美彦『宵山万華鏡』>
◎森見登美彦『宵山万華鏡』(集英社)



森見登美彦氏さんの新刊『宵山万華鏡』は、奇怪、痛快、あったかい、傑作幻想小説。祇園祭宵山の京都。現実と妖しの世界が入り乱れる夜に、幼い姉妹、ヘタレ大学生、怪しい骨董屋、失踪事件に関わる叔父と姪などが次々と迷い込み……。森見流ファンタジーの新境地がここに誕生。京都に住んで京都についての作品を書いてきた森見さんに、作品の生み出し方などを、いつも持ち歩いているメモや小学生の時描かれた初作品を見せていただきつつインタビューしました。また今回は、出版を記念して、ファン感謝イベントが開催されており、なぜ女性に人気なのか、ファンの方や、イベントに参加されていた本上まなみさんに伺いました。
谷原 松田さん、森見さんの新作はいかがでした。
松田 <*松田の一言*「妖しの世界に連れてって!」>
お祭りっていうのは、町をあげての一大ページェントですけども、胸躍る妖しい世界でもあるんですね。そういう風に、お祭って魅力とともに魔力もあるんで、それをふんだんに盛り込んだ面白い物語なんです。本上(まなみ)さんもおっしゃっていたんですが、連作短編なんですが、前のお話に出てきた場面や出来事に、次の話で違う光が当てられていって、どんどん大きなパノラマが見えてくるという迫力満点の物語でもあるんですね。


<今週の松田チョイス>
*直木賞・芥川賞予想!*

優香 今週は、松田チョイス特別編ということで、先日発表された直木賞ノミネート作品を松田さんに解説していただきます。
松田 どれも面白く、魅力的な作品ばかりなので悩ましいですね。
出水 来週15日に決定する芥川賞の候補作品はこちらとなっています。
<芥川龍之介賞候補作品>
●磯崎憲一郎「終の住処」(「新潮」)
●戌井昭人「まずいスープ」(「新潮」)
●シリン・ネザマフィ「白い紙」(「文學界」)
●藤野可織「いけにえ」(「すばる」)
●松波太郎「よもぎ学園高等学校蹴球部」(「文學界」)
●本谷有希子「あの子の考えることは変」(「群像」)
谷原 この中で、松田さんが気になるのは?
松田 今回は、劇作家が二人、戌井昭人さんと本谷有希子さんがノミネートされていますが、ぼくは本谷さんに注目したいなあと思っています。
谷原 続いては直木賞ですね。
出水 直木賞の候補作品はこちらです。
<直木三十五賞候補作品>
●北村 薫『鷺と雪』(文藝春秋)
○西川美和『きのうの神さま』(ポプラ社)
●貫井徳郎『乱反射』(朝日新聞出版)
●葉室 麟『秋月記』(角川書店)
●万城目学『プリンセス・トヨトミ』(文藝春秋)
●道尾秀介『鬼の跫音』(角川書店)
出水 北村薫さんは6度目の候補。映画監督の西川美和さん、映画「鴨川ホルモー」の原作者万城目学さん、「このミステリーがすごい!」で1位に輝いた道尾秀介さんも候補となっています。
谷原 こちらはどうですか?
松田 前回の天童荒太さんのように、「この人!」という決め手がないんですが、ぼくは敢えて映画監督の西川美和さんを本命にしたいと思います。
N 以前、「ブランチ」の特集でも紹介。僻地の医療をテーマに描いた短編集。公開中の映画「ディア・ドクター」のアナザーストーリーでもある。>
松田 この短編集は、単なる映画のアナザーストーリーじゃないんですね。映画では絶対に表現できないような心の揺らぎや気配や匂い、そういうものをものすごくうまく使って小説を書いているんですね。ところが、読んでいるとぼくたちの頭の中には鮮やかな映像が浮かんでくる。すごい文章力だと思いますね。

「王様のブランチ」本コーナー情報 (2009.07.05)

「王様のブランチ」本コーナー(2009.7.4)

『IN』と「タレント本ランキング」


<今週の松田チョイス>
◎桐野夏生『IN』(集英社)



松田 蒸し暑い季節にピッタリ、背筋も凍る小説、桐野夏生さんの最新作『IN』です。
N 小説家のタマキは恋人で担当編集者の青司と別れた。深く愛していた思いは憎しみへと変わる。自分の都合で相手との関係を絶ち、その存在を消すことはできるのか? 『OUT』から12年、桐野夏生が恋愛の奥底を描く衝撃作『IN』。小説は悪魔ですか。それとも、作家が悪魔ですか?>
谷原 さあ、松田さんの一言は?
松田 「『怖さ』にシビレル!!」(*松田の一言*)本当に怖い小説なんですね。なまじのホラーやスプラッターなんかが敵わないような怖さなんです。二つの愛の物語が、息苦しいまでに絡まり合っていって、読んでいると、背筋がゾクゾクしてきます。それに、激しい恋愛の果てにたどり着いたの世界というのは、目を背けたくなるようなすさまじい世界なんですが、桐野さんの独特の文章力で引っ張られて読んでいくと、暗さの底から怪しい光が見えてきて、なんか、その正体を見届けたいという気持ちになっていくんですね。恋愛と小説のもっている怖さと美しさみたいなものを、とことん見せつけてくれる傑作だと思いましたね。
谷原 ただの恋愛小説ではないという。
松田 読んでみるとわかるんですが、なかなか複雑な仕組みになっていて……。でも、怖いです。


<特集・タレント本ランキング> (日販オープンネットワークWIN調べ・5/19~6/18)
① ベッキ-『ベッキ-の・心のとびら』(幻冬舎) ※
② 君島十和子『ザ・十和子本』(集英社)
③ 中山美穂『なぜならやさしいまちがあったから』(集英社)
④ 郷ひろみ『Next』(講談社) ※
⑤ 長門裕之『待ってくれ、洋子』(主婦と生活社)
⑥ さだまさし『アントキノイノチ』(幻冬舎)
⑦ 上原美優『10人兄弟貧乏アイドル』(ポプラ社) ※
⑧ 市原隼人『HigH  LifE』(SDP) ※
⑨ 桃華絵里『ももえり』(竹書房) ※
⑩ くわばたりえ『クワバタのくびれダイエット』(アスコム)


<BOOKニュース>
◎柳原可奈子『柳原可奈子の気になっちゃう感じですか?』(幻冬舎) ※
◎坂東英二『天然坂東英二のゆでたまご伝説』(ワニブックス) ※


<※印がついているタレントさんにはコメントをいただきました。>

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