松田哲夫の王様のブランチ出版情報ニュース

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.8.23)

2008年08月23日

『おそろし』と「特集・山本文緒『アカペラ』」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・8/10~8/16)
① Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
② Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
③ J.K.ローリング『ハリーポッターと死の秘宝』(静山社)
④ Jamais Jamais『AB型自分の説明書』(文芸社)
⑤ 上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)
⑥ 有川浩『別冊図書館戦争Ⅱ』(アスキー・メディアワークス)
⑦ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑧ つるの剛士『つるっつるの脳みそ』(ランダムハウス講談社)
⑨ 編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)
⑩ 宮部みゆき『おそろし』(角川書店)


<特集・山本文緒『アカペラ』>
◎山本文緒『アカペラ』(新潮社)



『プラナリア』で直木賞を受賞、再婚し、すべてを手に入れたかに思えた時、重度の抑鬱状態に陥った山本文緒さん。望んだ再婚生活なのに、心と身体がついてゆけず、家族、友人、仕事のはざまで苦しみ抜いた日々。そこから再生を果たし、6年ぶりに新作が発売されました。病弱な弟と暮す50歳独身の姉。20年ぶりに実家に帰省したダメ男。じっちゃんと二人で生きる健気な中学生。人生がキラキラしないように、明日に期待し過ぎないように、静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちと深い共感を呼び起こす感動の物語。新作『アカペラ』の思い出の地である三浦半島でインタビュー。病気になる前後で、小説に対する思い、書き方などがどう変わったのかなどについて伺いました。


谷原 松田さん。6年ぶりの新作ということで、『アカペラ』どんな印象でした。
松田 そうですね。山本さんというのは、もともと小説の名手なんですけども、今度の作品を読んでいて、登場人物の人間描写とか物語とか、ひときわ彫りが深くなったような気がするんですね。やっぱり、ああいう経験が生きてきていると思います。癖のある、だけど愛すべき人物たちの演じるドラマから目が離せないですし、読み終わった後に、ホッコリと温かいものが残るという素敵な作品集なんです。これからもいい作品を読ませていただきたいなと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎宮部みゆき『おそろし』(角川書店)



松田 時代小説、ホラー、ファンタジー、宮部みゆきワールド全開の最新作『おそろし』です。
N 宮部みゆきさん待望の最新時代小説『おそろし』。ある事件を境に、他人に心を閉ざした17歳のおちかは、神田三島町に叔父夫婦に預けられた。そこへ訪ねてくる人びとが語る不思議な怪談の数々によって、おちかの心のわだかまりが少しずつ溶けていく。生きながら心を閉ざす者、心を残し命を落とした者。そして、心の闇に巣くう人外のもの。それは、長い長い「百物語」の始まりだった。>
松田 まず、主人公の「おちか」のたたずまいが素敵なんですね。彼女は、自分の身近に起こった悲惨な事件をきっかけにして心を閉ざしてしまって、それを、叔父さんが、何か心を開くきっかけになるんじゃないかっていうんで、人びとの怪談話を聞くように、怪談セラピーみたいなことを始めるんですね。人びとの血生臭い話を聞いていくうちに、犯罪だったら犯罪に関わる被害者も加害者も、みんな心に闇を抱えているんだということに気がつくんです。それで、「おちか」は自分の「弱さ」を「強さ」にかえて、心の隙間に忍び込んでくる邪悪なものに対して、毅然と戦いを挑んでいくんですね。その姿は素敵ですし、美しいし、「おちか」がかっこよく見えてくるんですよね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、その「百物語」をしてくる人たちのなかに、「おたかさん」という人がいるんですね。その「おたかさん」は家族である家に住んだら百両あげるよ、という言葉にのせられて行くんですよ。で、「おたかさん」が身の上話をしていって、「でも、その家に住んで、何にもなかったのよ、百両貰って。とってもよかったの。あら、おちかさん、あなたもそこの家に似合うわよ、一緒に行かない」って誘うんですね。ところが、おたかが語っていたことは全部嘘で、本当は、おたかじゃなくて、一緒に住んでいる清太郎というのが来るはずだったんです。何か用事があって来れない隙に、おたかが抜け出して、勝手に語りに来ていたんですよ。で、清太郎はおたかを連れ去り、実は、どんなことがあったかというと、そこに住んで、1年経って、全員亡くなってしまっていて、最後生き残っていたのはおたか一人で、彼女はもう天涯孤独の身で、生ける屍になってしまった、というんです。そこを読んだときに、ぼくはゾクッとして……。おちかさんのたたずまいが素敵だって、松田さんがおっしゃったんですが、これは静かな心の冒険活劇だなと思いましたね。本当に面白いです。是非読んでいただきたいです。宮部みゆきさんファンに関わらず、ぜひ、ぜひ読んで下さい。

『風花』と「特集・2008年上半期BOOKムーブメント総まとめ」

2008年08月17日

<特集・2008年上半期BOOKムーブメント総まとめ>


*文学界に続々シンデレラ誕生!
★川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)



・第138回芥川賞作家。(インタビューVTRあり)


★小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



・ブランチ絶賛本。(インタビューVTRあり)


★和田竜『のぼうの城』(小学館)



・ブランチ絶賛本。(インタビューVTRあり)


*ビジネス本の二大ヒットメーカー!
★勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
  『お金は銀行に預けるな』(光文社)ほか
・(インタビューVTRあり)
★水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
・上半期ベストセラー第1位 。(インタビューVTRあり)


*超簡単!3ステップレシピ本ブーム
★西健一郎『日本のおかず』(幻冬舎)
★編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)


*驚異のリバイバル「蟹工船」大ヒット!
★小林多喜二『蟹工船』(新潮文庫)


*タレントの赤裸々自伝本がバカ売れ!
★田村裕(麒麟)『ホームレス中学生』(ワニブックス)

・222万部突破。コミック&ドラマ&映画化もされました。
★大島美幸『ブスの瞳が恋されて』(マガジンハウス)
・8万部突破
★上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)
・初のフォト&エッセイ集。発売3日で28万部突破!(インタビューVTRあり)


谷原 松田さん、タレント本は本当に盛り上がりましたが、上半期、文芸書のメガヒットというのがなかったじゃないですか。
松田 そうですね。ただ、そのかわり、次々と魅力的な作品を書く新人作家が登場したんで、これからメガヒットになる作品を書いてくれるんじゃないかと期待したいですね。


<今週の松田チョイス>
松田 ぼくが上半期に読んで一番面白かった本を取り上げてみました。
◎川上弘美『風花』(集英社)



N ある日突然、匿名の電話で夫の不倫を知らされた主人公のゆり。「自分はいったいどうしたらいいのか」。途方に暮れ、そしてのゆりは夫婦の意味、自分の人生を問い直し始める。女性心理をきめ細かい筆致で描いた恋愛小説の傑作。「登場する夫婦を通して、川上さんが伝えたかったこと」、そんな質問への答えは?
川上 たぶんね、小説書いてて、伝えたいことって、私はないかもしれない。私が書いた通りのそのものを、「ああ、そうですか」って受け取って、その通りのものっていうことじゃなくて、一行があったら、その一行で自分のことを考えたり、今までのことを思い出したり、それで全然違うことを考えたり。とにかく、読んでいただいて、読んだ方が何かを感じてくだされば嬉しい。>
谷原 本当に、いまでも覚えていますよ、この本。二人、優香ちゃんとぼくで読んで、意見がそれぞれ違ってたじゃないですか。
優香 読む人によって、全然違っていて。特別大きいことがあるわけじゃないんだけれど、日常がすごくリアルなんですよね。女性目線が上手だなあというのを覚えています。
松田 そうですね。読む人によって、というのは、何となく、ぼくなんかもそうなんですけども、トリコにされるというか、いつの間にか主人公の気持ちになっているみたいな。やはり、川上さん独自の日本語の力だと思いますね。すごく、しなやかで、柔らかい、本当にきれいな日本語なんですよね。その言葉に乗せられて、いつの間にか女性の気持ちになって体験をしていく。だから、ものすごく苦しいこともあるし、楽しいこともあるっていう。で、それをズーッと体験していると、あっ、人間って不思議な動物、生き物だなあって、人間のことをすごく考えさせられる、単なる恋愛小説というレベルを超えた小説だなあっていう気がしますね。
谷原 あらためて、女性は本当にこわいです。

「王様のブランチ」本のコーナー(2008.8.2)

2008年08月03日

『ひゃくはち』と「特集・話題の芥川賞&直木賞作家」


<特集・話題の芥川賞&直木賞作家>


<芥川賞> 楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)



『時が滲む朝』で中国人として初めて芥川賞を受賞した楊逸(ヤン・イー)さん。日本語を全く話せなかった楊さんが大学生の時、何を思いたって日本に来たのか。そして、なぜ日本語で小説を書くようになったのかに迫ります。お話を伺うのは中華街。楊さんは大学生の時、日本に来たいと思ったキッカケが、実は、中華街でお店を経営する叔父からの一通の手紙に挟まれていた一枚の写真。そこに、叔父の家族が裕福そうに、そしてアカ抜けた姿で写っていたのに衝撃を受けたのだそうです。楊さんの半生をインタビューで明らかにするとともに、楊さんの感じる日本人と中国人、日本語と中国語の違いについて語っていただきました。


<直木賞> 井上荒野『切羽へ』(新潮社)



夫以外の男に惹かれることはないと思っていた。彼が島にやってくるまでは……。静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆で描ききった哀感あふれる恋愛小説。今回、荒野さんのよく通うという喫茶店でインタビュー。愛人に入り浸り、家に帰ってこなかったという、作家であるお父さんのこと、1作目から13年間のスランプ、そして、受賞作を書くことになったきっかけなどを伺いました。


谷原 対照的なお二人でしたが、作品の方はどうなんですか。
松田 そうですね、作品も対極的ですね。楊さんは、骨太のドラマチックな物語の底に哀しみが滲み出ているような作品です。井上さんの方は、本当に「何も起こらない」小説なんです。でも、その下に激しい感情のうねりのようなものが描かれています。どちらも、人間の強さとか弱さ、喜びとか哀しみを本当に見事にとらえている作家さんだと思いますね。これからも期待したいですね。


<今週の松田チョイス>
◎早見和真『ひゃくはち』(集英社)



松田 野球小説としても、青春小説としても新しい1ページを刻んだ傑作、早見和真さんの『ひゃくはち』という作品です。
N 甲子園行きてぇ、でも遊びてぇ。レギュラー入りを目指してあの手この手、でも女の子にも興味津々。「ひゃくはち」=108とはボールの縫い目と煩悩の数を表しています。主人公は強豪校の補欠部員。煩悩を全開にして夢にすがり、破れ、大事なものに気付いていく高校球児の姿が描かれます。8月9日には映画も公開。>
松田 主人公たちは、甲子園という夢に向かってまっしぐらに突き進んでいく球児たちなんですね。特に主人公は、「補欠」なので、懸命に努力を重ねていくんですけども、監督との関係とか、チームメイトとのつきあいとか、試合での駆け引きとか、野球をめぐるドラマは手に汗を握るし、とっても面白いんですよ。ただ、それだけでは終わらない、「純粋無垢」な高校球児だけでは終わらないところが、この小説のミソなんですけども。そこから、家族や友情をめぐる新しいドラマがからんでくるんです。若い新人作家のデビュー作なんですが、すごく読ませる力がある傑作だなと思いましたね。
優香 わたしも読みました。野球青春小説って、もっと熱いのかなって思ったんですけども、そういう「甲子園に行きたい」という思いを表に出さずに、心の中でふつふつと「行きたい」っていうのは今っぽいのかな、新しいなって思いました。それから父親との関係がとても素敵で、「もっと頑張りなさい」「こうしなさい」という感じじゃなく、ちょっとひいた感じで応援しているお父さん……。
松田 いいお父さんですよね。
優香 お父さんからもらう手紙が素敵で。
松田 それが支えになるんですよね。
谷原 映画も面白いです。

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