『警官の血』と「山崎ナオコーラ」


<第138回芥川龍之介賞・候補作品>
☆川上未映子「乳と卵」(「文學界」12月号)
☆田中慎也「切れた鎖」(「新潮」12月号)
☆津村記久子「カウソウスキの行方」(「群像」9月号)
☆中山智幸「空で歌う」(群像」8月号)
☆西村賢太「小銭をかぞえる」(「文學界」11月号)
☆山崎ナオコーラ「カツラ美容室別室」(「文藝」秋号)
☆楊逸「ワンちゃん」(「文學界」12月号)
松田 女性作家が候補者の過半数を占めています。なかなか華やかな顔ぶれですね。中でも、本業が歌手だという川上未映子さんですね。饒舌な関西弁で独特の色気がある文体なんですけども、ちょっと注目したいなあと思っていますね。


<特集・山崎ナオコーラ>
◎山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』(河出書房新社)



コーラ好きなので、自分の名前にもコーラを入れてしまったという山崎ナオコーラさん。2004年、『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞してデビュー。同作品が、第132回芥川賞の候補作になり、さらに、この1月には永作博美、松山ケンイチ主演で映画化されるなど、大注目されている若手実力派。そういう山崎さんの最新作が『カツラ美容室別室』。美容室とそのお客たちとの、恋愛とも友情ともつかない微妙な関係を描いた作品。小説の舞台になっている高円寺を散策しながら、作品について語ってもらいました。
谷原 松田さん、ナオコーラさんの候補作はいかがでした?
松田 随所に出てくる、キャッチフレーズのような言葉がとてもリズムがいいんですね。ちょっと短歌みたいな感じでポーンと入ってきたりして。ドラマにならないような日常を描きながら、そこに、人と人との微妙な距離を感じさせる作品なんですけどもね。なんか、「地上10センチのリアル」といった感じがして、とっても不思議なテイストの作品ですね。面白かったです。


<第138回直木三十五賞・候補作品>
☆井上荒野『ベーコン』(集英社) 
☆黒川博行『悪果』(角川書店)
☆古処誠二『敵影』(新潮社)
☆桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)
☆佐々木譲『警官の血』(新潮社)
☆馳星周『約束の地で』(集英社)

谷原 今年の直木賞は重量級のミステリーが揃っているという印象なんですけども、さあ松田さん、本命に選んだ作品は?
松田 力作揃いで、いろいろ悩んで、「ダブル本命」ということで2作あげたいと思います。1作目は桜庭一樹さんの『私の男』ですね。
◎桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)



松田 「松田チョイス」でも取り上げましたけども、男と女の強烈で濃厚な物語を、臆することなくグイグイ書ききった筆力は並大抵のものじゃないなと思いましたね。
谷原 たしか、これは優香ちゃんが読んでショックを受けたという。
優香 衝撃的、かなりの衝撃作です。
谷原 ぼくも衝撃を受けてみたいのですが、さあ、もう1本の本命作品は?
松田 もう1本はですね、佐々木譲さんの『警官の血』という上下二巻の作品ですね。
◎佐々木譲『警官の血(上・下)』(新潮社)



松田 『このミステリーがすごい!』の国内部門でも1位に輝いています。実直な警官として生きようとした3代の男たちの物語なんですけども、戦後の闇市から全共闘、そして現代の経済犯罪まで、その時々の事件を織り込みながら、この男たちの人生が描かれていくんですよ。本当に大河小説といっていいと思うんです。そして、第3部の和也という男の話あたりになると、サスペンスがすごくて、最後に本当に衝撃的な「真実」が明らかにされるという、ミステリーとしての醍醐味もあるんですけども、警察とは何かという、警察の姿を赤裸々に描いている問題作でもあるんですね。非常に迫力のある力作だと思います。
谷原 ぼくも是非読んでみたいですね。はい、芥川賞、直木賞の決定は来週の16日になります。松田さんの予想当たるのでしょうか。皆さん、注目しましょう。