『ともしびマーケット』と「外山滋比古『思考の整理学』」


<文庫ランキング> (三省堂書店全店調べ・7/13~7/19) 
① 伊坂幸太郎『終末のフール』(集英社)
② 佐伯泰英『侘助ノ白』(双葉社)
③ 外山滋比古『思考の整理学』(筑摩書房)
④ 道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮社)
⑤ 城山三郎『官僚たちの夏』(新潮社)
⑥ 佐藤多佳子『一瞬の風になれ 1』(講談社)
⑦ 森見登美彦『きつねのはなし』(新潮社)
⑧ 林真理子『本朝金瓶梅』(文藝春秋)
⑨ 明野照葉『汝の名』(中央公論新社)
⑩ 道尾秀介『片眼の猿』(新潮社)


<特集・外山滋比古『思考の整理学』>
◎外山滋比古『思考の整理学』(筑摩書房)



<VTR>
N トップクラスの知能が集結する東京大学と京都大学、その大学生たちに今、一番読まれている本……。
東大生A すごい引き込まれる感じで、すごく楽しんで読みました。
東大生B 大学に入って勉強する時に使える本です。
東大生C 読むと、考えることについて、また考えるようになると思います。
N 天下の東大生たちがこぞって絶賛するのがこちら、『思考の整理学』。昨年、東大と京大の生協で一番の売上げを達成。今年もますますの売上げをみせています。さらに一般書店での売上げでも快挙、今週の文庫ベストテンで3位、三ヶ月連続でランクインしているんです。発行部数は80万部以上。全国的にもベストセラーとなった『思考の整理学』、その作者を直撃。
英玲奈 「王様のブランチ」の英玲奈と申します。外山さんでいらっしゃいますか。
外山 はい、そうです。外山です。
N こちらが作者の外山滋比古さん、86歳。お茶の水女子大学名誉教授でいらっしゃいます。
英玲奈 『思考の整理学』が東大生、京大生に一番読まれているということですが、その理由はなぜでしょうか?
外山 全然わかりませんね。身に覚えがないですね。
N 実は、この本、外山さんが20年以上前に書いたもの。独創的なアイディアを産み出すためのヒントがたくさん詰まったエッセイ集。
外山 新しいことを考える力をつけるには、どうしたらよいかということを、読者の人と一緒に考えるつもりで書いたんですね。
N その内容も、もちろんユニーク。常識にとらわれない目からウロコの考え方が満載です。例えば、「知識があるほどアイデアは湧かない」。えっ、知識ってあればあるほどアイデアの素になるんじゃないですか?
外山 本を読むとか人の話を聞くとかいうことで、知識を得られますが、考えるというのは、人から教えてもらうわけにはいきませんから、自分でやる。面倒なんです。面倒だから、知識があればわざわざ考えない。知識が増えれば増えるほど、考えることは少なくなる。
N 外山さんによれば、考える力が一番あるのは、言葉を覚える前の赤ん坊なんだとか。
外山 赤ん坊は3年も経てば、だいたいしゃべることができるようになっちゃう。その能力というのは、学校で教えるんじゃないんです。生まれてから数年の間、考えて考えて考えて、そして文法をこしらえるんですからね。普通、大学で勉強している人でも、文法つくるなんて簡単にできないんですよ。その能力をもっているのに、学校教育で、知識を覚えなさい、忘れちゃダメってやってるから、頭が知識で全てのことを解説しようというコンピューター人間のようなものを作っちゃったんですよ。
N 目からウロコの外山理論。実は東大生たちも……。
東大生D 東大生だからこそ、知識に偏った勉強をしてきたからこそ、それじゃいけないんだなという……。
N 知識だけでは、社会で通用しない。『思考の整理学』が売れたのは、東大生自身もそう強く感じていたからなんです。さらに支持された理由がもう一つ。読者論、日本語論などさまざまなジャンルで活躍してきた外山さんの経験を生かし、アイデアを生み出す具体的方法を幅広く提示してくれているんです。中でも注目なのが、「メモとノートとメタ・ノート」。
外山 何か思いついたとしますね。それをそのままにしていたら、必ず忘れちゃうんです。いっぺん忘れたら、絶対に返らない。そこで枕元に紙切れを置いておいて書くんです。
N 年に1万項目をメモしたこともあるという外山さん、いつでもどこでも書けるように、紙を持ち歩いています。しかし、気付いたことをメモするというのは、比較的スタンダードな方法。実践している人も多いのでは。しかし、ここからが外山流。
外山 メモで、これはましかもしれないと思うものをね、写すんですよ。
N これはと思うものだけ、メモからノートに写す。しかし、その時に重要なポイントが。
外山 その場で写しちゃったらダメですから、一晩おくと、忘れるんですよ、かなりのものは。なんで、こんなこと書いたかと、自分で書いててわからなくなっちゃうんですよ。これは、もちろんダメね。
N 頭をスッキリさせるために、一日寝かせ、いいと思ったものだけを写す。しかし、これで終わりじゃあありません。
外山 ここでしばらく寝させておくんです。
英玲奈 まだ、寝かせるんですか。
外山 もう一度、寝させて、ノートの中で眠らせたり、あたためたり、熟させたりしているもので、ちょっとおもしろいものを、このメタ・ノートに写して……ノートのノートだからメタ・ノート。
N 日々、書き留めている気になったこと。それをノート、さらに熟成させてメタ・ノートへと写していく。この三つの段階を踏むことによって、思考が整理され、オリジナルなアイデアが生まれてくるんです。
 先日行われた『思考の整理学』講演会(東大駒場キャンパス)では外山さんが東大生相手に熱弁。他にも新刊の発表や雑誌の連載を精力的にこなす外山さん、86歳にして、その若さの秘訣とは。
外山 歳なんて忘れちゃうんです。歳なんか考えるのは、そもそも間違いなんです。年齢という数字の知識にやられちゃってるんです。いまは、100歳になるとワーワーワーとかやるでしょう。それによって、歳を取ったとかね……。ぼくが歳取ったなんて考えないのは、歳をあんまり気にしないんです。
<スタジオ>
谷原 松田さん、この本はいかがでしたか。
松田 とっても読みやすい本なんですね。それで、読んでいるとスーッと頭の中に風が通っていくような爽快感があって……。四半世紀前に書かれた本なんですが、まったく古びていないんですね。自分の頭で考えることの基本をしっかりおさえているからじゃないかなあと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎朝倉かすみ『ともしびマーケット』(講談社)



松田 朝倉かすみさんの『ともしびマーケット』、リズミカルな語り口がとても楽しい小説です。
N 札幌の閑静な住宅街にある「ともしびスーパーマーケット鳥居前店」。そこには、思いを伝えられない片思いの女の子、定職をもたず自分探しをしている若者など、さまざまな事情を抱えた人たちがやってきます。そんな彼らの日常に訪れる「いい日」。人生の転機となる「いい日」の一場面には、必ず「ともしびスーパーマーケット」と、そこに集まる人たちの姿がありました。作者の朝倉かすみさんも、実際にスーパーで働いた経験をお持ちだそう。心にポッと灯がともるハートウォーミングな作品です。>
谷原 今週の「松田の一言」をお願いします。
松田 「人生、捨てたもんじゃない。」(*松田の一言*)このお話には、華やかな登場人物が出てくるわけではないですし、派手な活劇やロマンチックなドラマがあるわけではないんですね。出てくるのは、普通の、どちらかというと冴えない人たちばかりなんです。そういう人たちの中にも「物語」はあるし、それなりに輝く瞬間もある。そういうお話をリズミカルな語り口で語ってくれるので、読んでいると、なんだかとっても良くできたミュージカルを観ているような楽しい雰囲気になってくるんですね。それで最終章では、そういうノリの良い感じが一気に弾けていく感じで、すごく素敵なエンディングが待っているんです。先行き暗いというか、見えにくい時代、こういう世の中にちょっとした「ともしび」を灯してくれる、本当にあたたかいお話だなと思いました。
優香 私も読みまして、本当に派手な人たちが出てくるわけではないんですが、だからこそ、その人たちの日常を1ページ切り取って、こっそり見ているような感じで、終わり方も「ハイ、終わりです」というんじゃないので、まだまだ続いていくんだなという感じがしました。私が特に好きだったのは、片思い中の女子中学生のお話があるんですけども、それが特にミュージカルっぽいですね。
松田 そうですね。なんか、音楽が聞こえてくる感じなんですね。
優香 中学生の時に、好きな男の子に電話するときに、お金入れて電話しようとするんだけど、なかなかその手が動かなかったり、繋がったけど、なにしゃべっていいかわかんないし、そのもどかしさ、「好き」ということを伝えられないもどかしさ、その懐かしい感じの思いが蘇ってくるお話でした。