『星守る犬』と「磯﨑憲一郎『終の住処』」


<文芸書ランキング> (ブックファースト新宿店調べ・7/27~8/2)
① 村上春樹『1Q84 BOOK1(4月-6月)』(新潮社)
② 村上春樹『1Q84 BOOK2(7月-9月)』(新潮社)
③ 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
④ 北方謙三『楊令伝 10』(集英社)
⑤ 神林長平『アンブロークンアロー』(早川書房)
⑥ 畠中恵『ころころろ』(新潮社)
⑦ 誉田哲也『武士道エイティーン』(文藝春秋)
⑧ 北村薫『鷺と雪』(文藝春秋)
⑨ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑩ 高村薫『太陽を曳く馬 上』(新潮社)


<特集・磯﨑憲一郎『終の住処』>
◎磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)



「妻はそれきり11年、口を利かなかった――。」過ぎ去った時間ほど、侵しがたく磐石なものがあるだろうか。ひとは、過去に守られているのだ――。30を過ぎて結婚した男女の、遠く隔たったままの歳月。ガルシア=マルケスを思わせる遠大な感覚で、人の幸不幸を超越して流れてゆく時間と、この世の理不尽と不可思議をあるがままに描きだす。今回は、第141回芥川賞を受賞された磯﨑憲一郎さんに英玲奈さんと私(松田)がインタビューしてきました。40代にして作家になった磯﨑さんにどのようにして『終の住処』が生まれたのか、家族の話や会社員としての仕事、小説の書き方などについて伺ってきました。
谷原 松田さん、『終の住処』読んでいかがでした。
松田 かなり風変わりで不思議な小説なんですね。ひとつひとつの場面は現実と地続きでリアリティがあるんですけれど、それが繋がっていくと、どこか不思議なところに連れて行かれるようなんです。でも、最後、「終の住処」って、家を建てることで安らぎを得るんですけども。何か、あったかい大きなものに包み込まれるような心地よさがあるんです。不思議な小説ですね。


<今週の松田チョイス>
◎村上たかし『星守る犬』(双葉社)



松田 温かい涙が流れるマンガ、村上たかしさんの『星守る犬』です。
N 放置された自動車から二つの遺体が発見された。それは、中年男性と飼い犬のものだった。いったい彼らに何があったのか。これは、どこまでも飼い主を慕う犬の物語。捨て犬だったハッピーは、ある家族に拾われ、楽しく暮らしていた。しかし、家族はバラバラになってしまった。すべてを失ってしまったおとうさんと忠実な犬の、哀しくもおかしいふたり旅。涙なしには読めない感動作。>
谷原 さあ、「松田の一言」は。
松田 「優しさと切なさと……」(松田の一言) 犬を飼ったことがある人は、いろんな場面で優しさと切なさにうたれて心が動かされると思うんです。それと同時に、読んでいると、温かいものがどんどん伝わってくるという感じがするんですね。その温かさはどこからくるんだろうと思うと、この作品が、いつも真っ直ぐに飼い主を見ている犬の気持ちに寄り添って描かれているからなんですね。だから、どんなに厳しい現実がこようと、この犬は大らかに、優しく、けなげに受け止めていく。その姿を見ていると、本当に限りなく切ない気持ちになっていくんですね。本当に、犬好きにはたまんない一冊です。
優香 犬好きのわたしも読みまして。この本のこと自体は知っていたんですよ。結構、話題にもなっていて、知人にも「いいよ」ってオススメしてもらっていて。もう号泣です。何回読み返しても、泣いてしまいますね。とにかく、この犬が可愛いのと、他の動物と違うのは、忠実じゃないですか、犬って。それで、このお話の中でも、ズーッと敬語なんですよ。それが忠実さを物語っているような。
松田 飼い主に語りかける言葉がね。
優香 「おとうさん、おとうさん」って呼びかけていて。それが……切ない涙もあったり、温かい涙もあったり。こんな短い一冊なんだけど、こんなにいっぱいの気持ちをもらえるんだって。本当にオススメです。麻里奈ちゃんも読んだんですよね。
麻里奈 最短記録の涙の出し方でした。あんなにすぐ涙がポロポロ出てくるのは……。いま、思い出しても……。
谷原 ぼくも犬を飼っているんで、読んでみます。
松田 人前で読まない方がいいと思いますよ。
麻里奈 電車で読んで失敗しました。