「特集・阿川佐和子『婚約のあとで』」


 <総合ランキング>  (3/24~3/31 有隣堂書店アトレ恵比寿店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 小栗左多里、トニー・ラズロ『ダーリンは外国人 with BABY』(メディアファクトリー)
 3位 小宮一慶『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 4位 福田健『女性は「話し方」で9割変わる』(経済界)
 5位 Jamais Jamis『B型自分の説明書』(文芸社)
 6位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 7位 大庭史榔『1分骨盤ダイエット』(三笠書房)
 8位 勝間和代『勝間和代のインディペンデントな生き方 実践編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
 9位 『はたらきたい ほぼ日の就職論』(東京糸井重事務所)
10位 中野明海『大人の赤ちゃん肌メイク Make-up book』(扶桑社)
優香 哲夫さん、『食堂かたつむり』1位ですね。
松田 やりましたね。小川糸さんに登場していただいて、特集を組むことになっていますので、是非楽しみにしてください。
優香 楽しみです。


<特集・阿川佐和子『婚約のあとで』>
◎阿川佐和子『婚約のあとで』(新潮社)



<VTR>
金田美香 今回、私が阿川さんにお会いするためにやってきたのは軽井沢です。こちらに阿川さんの別荘があるということなので、うかがってみまーす。
N 冬の名残をとどめる軽井沢。明治大正の頃から作家・文豪に愛され、多くの名作がここから生まれました。>
金田 こんにちわー。
阿川 まあ、ようこそ。はるばるいらっしゃいました。
金田 はじめまして。
N 鮮やかな春の装いで阿川佐和子さんのご登場。>
金田 目の前に浅間山が見えるんですね。
阿川 いいでしょう。借景でね。
金田 いい景色です。
阿川 ちょうど正面に見えるというのが気に入ったみたいで、父が、この土地を買って小屋を建てたのが40年前ぐらいなんですけどね。
N 作家である阿川弘之さんが愛した、この別荘は、佐和子さんも子どもの頃、よく訪れていたのだとか。今では、お父様から引き継ぎ、大事に使っているこの場は、大切な執筆場所でもあります。>
金田 こちらで執筆されたりもするんですか。
阿川 そうですね。いまや、私の持ち物でございますから。東京だと、いろんな雑事なんかで気が散ると、「よし、この1週間は山に籠もる」なんていうときには、こっちに来て……。小説を書く時って、2~3日かかるんですよね。「よし書ける」っていう風に思うまで。
N そんな阿川さんの新作が『婚約のあとで』。主人公の波は、29歳にして、心に決めた人との婚約を発表。ところが、飛行機で偶然隣に居合わせた老人から思いがけない言葉を告げられる。「もったいないよ、急いで結婚するのは」。そこから、決めたはずの波の心に波紋が広がっていく。本当にこの人でいいのか、どこがよくて婚約したのか。周りを見れば、許されぬ恋に走る妹、男を踏み台にのし上がる「都合のいい女」、7年前の夫の浮気を心に刻み続ける主婦。この作品は、性格も、生きる世界も違う7人の女性達が入れ替わり登場し、それぞれに違う恋愛のかたちが描かれる。>
金田 私も読ませていただいたんですけども、私には、共感というよりは、信じたくないようなという部分もあり。まだ夢を見ていることが大きいので。
阿川 どうなりたいの?
金田 常にラブラブで……。
阿川 ラブラブのままで結婚して、結婚後もラブラブのまま生きていきたい。
金田 という夢はあります。
阿川 わたしも若い頃は、そう思っていましたね。
N 「堂々と公表できない関係なんて、今幸せだったとしても、いずれつらくなるだけ」「好きな男のそばにいたいなら、その人に合わせて生きていく」。この物語では、人によって違う恋愛との向き合い方が描かれます。>
金田 「恋愛感情のない結婚はしたくない」というのは、うんうんと思いました。
阿川 それはそうだったのよ。それが失敗で結婚できなかったから、そこそこ妥協した方がいいかもしれないわね。
金田 これだけ、いろいろな、7人もの恋愛のパターンというか、全部違うじゃないですか。やっぱり、恋多き女性しか、こんなことは書けないのかなあと。
阿川 やっぱ、そう思う。だれもそう思ってくれないんですよ。かつて渡辺淳一さんはね、「恋愛小説はすべて経験しなければ書けないものなんだ」って。「へえー」って言ったことがあるけど、そうはいきませんよ。だから、いろんな友だちとのお喋りなんかの場面で、ちょっと印象に残る話や、つらい悩み事の告白も、頭の中に残っている、ちょっとひっかかったエピソードを集合させて、「全部出てこい」っていって、これをこの話にいれてみようかなとか、そういう風にかき集めて作ったんですね。
N 登場する女性達が、自分の人生を歩もうとする反面、男性達は、どこか頼りないタイプばかり。>
阿川 意外に、ダメ男好きなのね、わたくし。ちょっと欠陥商品みたいな男だけども、憎めないっていう人は傾向としては好きですね。
金田 阿川さんが思う、いい男の見分け方というか……。
阿川 そんなものできたら、この歳まで一人でいませんよ。でもね、いま「この人素敵な人だなあ」って思う人に、もし20代の頃に会ってたら、素敵と思っただろうかというと、全然思わなかっただろうっていう人なのね。私にとっては、人間関係を大事に思う人、それから、相手が誰であろうと、地位とかで人を見ない人は大事だなあって思ったり、後は、つらかったり、くらーい空気になったときに、ちょこっとユーモラスな部分をもって余裕が持てる人って偉いなあって。すると、顔じゃないわよ。
金田 そうですかね。お父様の阿川弘之さんも、ユーモアは大事だと。
阿川 ねえ、父は口ばっかりなんですよ。
金田 佐和子さんの本も読まれているとおっしゃっていたんですが。
阿川 なんか、読んだらしいですよ。
金田 なんておっしゃっていたんですか。
阿川 言いたくないですよ。やっぱりね、父親が娘の恋愛小説を読むっていうのは、相当照れがあると思うんですよ。第一声が「まあ、よくこんな長いものを書いたもんだ」と言って、「どこまで経験した話か知らないが」って。だって、小説家なんだから、そんなこと……。「これはお前の経験か」という質問自体がおかしいと思うのに、どっか疑ってんのね。
N 「女性ってのはね、今が大事だから。(中略)未来の夢を語るより、現在を満足させればその方が安定する」……思わず、なるほどと肯いてしまう一節が小説の随所に。その背景には、数々のインタビューをこなしてきた阿川さんならではの出会いに秘密がありました。>
阿川 例えば、1章で波のお父さんに「人生は、二者択一の繰り返しだ」と言わせたんですが、あれはね、中国のチャン・イーモウ監督、「初恋の来た道」という映画を作った監督にインタビューに行った時に、監督がおっしゃった言葉なんですね。チャン・イーモウ監督は中国で貧しい、すごく限られた社会に閉じこめられてて、大学を卒業していれば、なにかの職にありつけるだろう、という動機で、映画大学に入り、たまたま映画監督になり、世界的な映画監督として認められるようになったっていうんです。で、監督は「人生ってそんなものじゃないかと思うんです」、つまり、自分の目の前に突きつけられた二股の道のどっちを行くか、ということを一つずつ、例えば、右に行くと怖いイヌがいそうだからやめておこうとか、左に行けば可愛い女の子がいるから行ってみようとか、そういう不純な動機も含めて、一所懸命に考えて、どっちかの道を選ぶことを繰り返し繰り返し積み重ねていって、最終的に、自分の思ってもないところにたどり着いたとしても、それもまた自分が選んできた人生だと思うんです、って。私自身も、本当はお嫁さんに行くはずだったのに、なんだかちっとも決められないまま、何になりたいか決められない人間はダメな人間か、というコンプレックスをもってたんです。でも、目の前のことをちゃんと誠意を持って選んでいれば、いつか道は開けるという考え方で、なんか救われた気がして。あっ、高邁な目標とか夢とかをもたなくっても、いいんじゃないかなって思った、その時の気持ちを、波のお父さんに託してみたんですけどね。
N 最新作『婚約のあとで』が話題になっている阿川佐和子さん。この作品に託したのは、今を懸命に生きる女性へのエールでした。>
阿川 私は、どの道を選んだ女性が偉くて、どの道を選んだ人がちょっとマイナスだなんていうことはないと思うんですよ。専業主婦だろうとバリバリと仕事をやろうと、年取って新しい恋人が出来ようと、全部それぞれの不満も抱え、悩みも抱え、幸せももってると思うから、みんなそれぞれなんだっていうことを最終的には思ってはいますね。なんか、ささやかな喜びで明日も元気に生きていけるって、みんなちょこちょこっと思ってるっていうこと。かろうじて伝えたかったと言えば、そういうことかしらね。


<スタジオ>
谷原 松田さん、この阿川さんの新作『婚約のあとで』の感想を一言で言うと?
松田 面白くて奥が深い、最高の恋愛小説だと思いますね。まずね、構成が面白いんですよ。オムニバスなんですけども、主人公の視点で書かれているかと思うと、次には、ほんの脇役の視点だったりして、いろんな角度から恋愛に光を当てていくんで、恋愛をめぐる人間関係とか心理がきめ細かく、複雑に描かれているという面白い構成になっているんですね。
優香 奥が深いんですね。
松田 単に恋のときめきとか喜びだけじゃなくて、嫉妬とか裏切りとかも描いているんですけども、そういうビターテイストも含めて、すごく美味しい味わいになっているという、本当に最高の恋愛小説なんだと思いましたね。
谷原 阿川さんのような素敵な大人を目指したいですね。