『聖域』と「特集・茂木健一郎『脳を活かす勉強法』」


<BOOKニュース>
15日、第139回芥川賞・直木賞が決定しました。芥川賞は楊逸(ヤン・イー)さんの『時が滲む朝』、直木賞は井上荒野さんの『切羽へ』でした。
◎楊逸『時が滲む朝』(文藝春秋)



◎井上荒野『切羽へ』(新潮社)



谷原 松田さん、楊さんが中国人として初の芥川賞受賞で話題になっていますけども、直木賞の井上さんはどんな方なんですか。
松田 微妙な女性心理の揺らぎを繊細に描いていることで定評がある作家なんですね。これからも、成熟した女性の恋愛小説をいろいろ読ませてもらえるんじゃないかと思って、楽しみな作家ですね。


<特集・茂木健一郎『脳を活かす勉強法』>
◎茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)



脳と心の繋がりをわかりやすく解説して、現在65万部を突破した『脳を活かす勉強法』。その内容をより多くの学生に理解してもらおうと、都内の中学校で実践授業が開催されました。そこでは著者の脳科学者・茂木健一郎さんが壇上に立ち、脳の血流の流れる様子のグラフィックをリアルタイムでモニターで見られる装置を生徒に装着し、その状態で問題を出して、負荷を掛けたときの脳の状態を解説していました。今回は、その装置をレポーターのちえみちゃんにも体験させて頂きます。簡単な計算問題を解く際、時間の制限がない場合とある場合でどのように脳の状態が変化するのかをチェック。ゲーム感覚で進んでいく授業……。茂木さんの狙いはそこにありました。実は茂木さんもはじめから勉強ができたわけではないと言うことです。あることがきっかけになって、勉強を楽しいと思うようになり、それで脳内物質のドーパミンが分泌され、意欲を引き出していったんだとか。夏休みを機会に色々なことを体験し、楽しいと思うことを発見してほしいと語っていただきました。


<今週の松田チョイス>
◎大倉崇裕『聖域』(東京創元社)



松田 フレッシュな山岳ミステリーの傑作、大倉崇裕(たかひろ)さんの『聖域』です。
 安西おまえはなぜ死んだ? マッキンリーを極めたほどの男が、なぜ難易度の低い塩尻岳で滑落したのか。事故か、自殺か、それとも――。好敵手であり親友だった安西の死の謎を解き明かすため、山に背を向けていた草庭は、再び山と向き合うことを決意する。気鋭のミステリー作家が満を持して挑戦する山岳ミステリーの大傑作。>
松田 この作品は、グイグイと読まされる力とか、大自然や人物たちがクッキリと立ち上がってくるとか、本当に骨太な、読み応えのある力作なんですね。特に自然描写が素晴らしくて、特に山の描写が。たぶん、山に行ったことがある人も、ない人も、雪山の厳しいけれども美しい情景には惹きつけられると思うんですよね。そういう自然の中で育まれていく山の仲間たちのものすごく篤い友情と、それがそのままいかないように俗世間のいろんなことがからんでいって、事件が起きるんですけども。で、謎解きも意外性がありますし、最後には感動的なラストシーンが待っているという。今の暑さを吹き飛ばすよな、爽快なミステリーという感じがしましたね。
谷原 松田さんがおっしゃったように、ぼくも1日半でグイグイと引き込まれて読んでしまったんです。山の小説ということで、ぼく自身、山に登ったことはないんですけども、なんか、ぼくも山に登ったことがあるんじゃないだろうか、と知ったような気持ちになすなるような、「山もの」の読み物としての楽しみもありますし、あと、ミステリーとしても、事件の発端は山で起きるんですけども、どんどん展開していくのは街の中なんですね。現在進行形で謎が進んでいって、最後がまた山に行くんですね。だから、「山もの」としての楽しみもあるし、ミステリーとしての楽しみも二つあるんですね。みなさん、山に登りながら、夏休み、読んでみて下さい。