「松チョイHYPER・天童荒太『悼む人』」


<総合ランキング>(オリコン調べ・11/17~11/23)
① 『ミシュランガイド東京2009日本語版』(日本ミシュランタイヤ)
② マーシー・シャイモフ『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』(三笠書房)
③ 太田あや『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋)
④ 竹中平蔵『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)
⑤ 『かんたん年賀状素材集2009年版』(技術評論社)
⑥ 『世界一簡単にできる年賀状2009』(宝島社)
⑦ Vジャンプ編集部『クロノ・トリガーNDS版 PERFECT BIBLE』(集英社)
⑧ 東野圭吾『聖女の救済』(文藝春秋)
⑨ Jamais Jamais『O型自分の説明書』(文芸社)
⑩ 五木寛之『人間の覚悟』(新潮社)
谷原 『ミシュランガイド』、1位に入ってきましたね。
松田 そうですね、やっぱり、東京が世界一のグルメシティだということが、これでまた証明されたような気がしますね。


<松チョイHYPER・天童荒太『悼む人』>
◎天童荒太『悼む人』(文藝春秋)



*スタジオ*
松田 ぼくが21世紀になって読んだ本のナンバーワンです。本当に感動的ですし、いろんなことを考えさせられます。
優香 そうですね。私も読みまして、涙しました。
谷原 涙した。
優香 涙しました。ねえ。
松田 感動が、いろんな意味で、後まで残っていくんですね。
谷原 そんな感動的な作品なんですけども、作者の天童荒太さんに英玲奈ちゃんがインタビューに行ってきました。
英玲奈 はい。昨年の『包帯クラブ』映画化の時以来、1年ぶりにお会いしてきました。今回の作品は、なんと構想7年、その創作ノートを特別に見せていただきました。どうぞ。
*VTR* 
英玲奈 こんにちは。お久しぶりです。
天童 こんにちは。お久しぶりでした。『包帯クラブ』以来ですね。
英玲奈 よろしくお願いします。
天童 こちらこそ、よろしくお願いします。
N 常に傷を受けた側によりそって、心の物語を書き続ける作家・天童荒太。作品を発表するのは数年に一度、しかし、深いテーマを追求する作品は、必ず話題になってきました。そんな天童さんが、7年もの歳月をかけて取り組んだ最新作『悼む人』がついに完成。連日繰り返される事件や事故のニュース。それを伝える新聞などを頼りに、亡くなった人を亡くなった場所で「悼む」ための旅を続ける主人公・坂築静人。一体、彼は何のために人を悼み続けるのか。そこにどんな意味があるのか。彼を巡り、人間不信の雑誌記者、夫を殺した女、末期ガンの母たちのドラマが繰り広げられていく。愛と憎しみ、生と死が交錯する感動巨編です。>
英玲奈 この作品が出来上がったいま、どんな心境でしょうか。
天童 こういう作品を読者と共有できて、幸せだなあと思っているところです。
英玲奈 悔いは何も残っていないんですか。
天童 あるとすれば、ちょっと時間がかかっちゃたかなあという。
英玲奈 7年間ですものね。
天童 それぐらいかな。まあ、ぼくの能力では、これが精一杯だったので、本当のところを言うと悔いはないです。
N 「7年が精一杯だった」、この言葉の裏には、天童さんの凄まじい努力がありました。>
英玲奈 『包帯クラブ』の時にも創作ノートを見せていただいたんですが、今回もお持ちいただいたということで……。
天童 言われたので、一応、持ってきましたけど。これが……。
英玲奈 たくさん。こちら、何冊あるんですか。
天童 えーと、創作ノートが10冊あります。
N 天童さんが持ってきてくれた10冊の創作ノート。中を見てみると、小説を書き始める前の緻密な下準備の後が伺えます。>
天童 いつもぼくは、「その人になる」という書き方をするんで……。
N 主要なキャラクターすべてに自分が同化できたと思えるまで、設定をつきつめるという天童さん。中でも圧巻は、そのプロフィール作り。一人の登場人物のために、何10ページにもわたって、それまでの人生を作り込んでいきます。さらに、持ち前のユーモアと勇気をもって自らの末期ガンと向き合う、主人公の母巡子。彼女については、もっと丹念な取材と作り込みがなされていました。>
英玲奈 なぜ、あそこまで巡子の心境がわかるんだろうと、すごく不思議に思ったんですが……。
天童 ぼくは、いま言ったように、病気になった彼女になるので、日々薬を飲みますよね。その薬の色を知らないわけがない。だから、「薬の色はどんな色ですか」みたいな、ほんとに小さなことから、お医者さんに実際に訊いていくことになるんですよ。
N 膨大な資料をもとに、まずは巡子のカルテを考えたという天童さん。どうしてもわからないことは、実際の医師に細かく聞いていったといいます。>
天童 そこまで細かくやって、ようやく、自分が巡子という病気を得た58歳の女性になっていく、一つの手がかりにしていくというのかな。
N 同じく、静人の悼む旅をリアルにするためには、天童さんは、あらゆることを試みていました。静人が、いつどのあたりを歩けばリアリティがあるのかを計算。そして、毎日何を食べ、いくらぐらい使っているのかまで、細かく設定されています。しかし、それでも天童さんには肝腎な部分が、長い間実感できなかったといいます。>
天童 「悼む」ってどういうことだっていうことを、自分自身でも分からなかったんですね。じゃあ、自分も一回、静人になって、人が亡くなった場所に行ってみようと……。
N 静人は事件や事故の現場に行き、亡くなった人のことを聞いてまわる。そうすることで、その人を唯一無二の存在として心に刻みつけていきます。そんな主人公の悼む気持ちと同化するために、天童さんも、どんな人が、どんな風になくなったのかを読み込んでから、実際の事故現場に行ってみました。そして、静人の気持ちを追体験してみたんだそうです。>
天童 そうすると、すごくつらくて、死んだ人が入ってくるので、もうちょっと耐えられなかったんですよね。で、ああこれは、静人になっていくことが、もっと「悼み」を自分のものにできると思って、「静人日記」というのをつけはじめるんですね。
N その「静人日記」というのがこちら。毎日一人、報道で知った、亡くなった人のことを悼む日記。もし、亡くなった場所に行ったら、何が聞けたのか。静人の気持ちになって想像を巡らせるといいます。>
天童 例えばこの「雨より風の方が苦手です」とか、「野宿の時は強風が怖いです」とかいうのは、実際に自分が静人として、風が強い日だったんでしょうね、強風の方が怖いなあというのが率直に出てきたんだろうなあと思うし。それから、「何も残らないと言われた」という記述もあるのは、そういう風に続けていくことによって出てきたものですね。
英玲奈 批判する方もたくさん出てきましたもんね。
N 小説の中に、静人が用水路に転落して死んだ幼児のことを祈ろうとするシーンがあります。邪険に追い払おうとする男がいる一方、遺族らしき男は不審の目をむけながらも、静人にこう語る。「本当に優しい子だったんだと祈っていて。ママにな、用水路脇に咲いてた花をプレゼントしようとしたんだ。そういう子だったんだよ」>
天童 「悼む人」なんていうものがいたら、無関心あるいは敬遠されるのが一番でしょうけども、一方で、身近な人が死んだときには、真面目な態度で「聞かせてほしい」って言われたら、不審に思いながらもしゃべりたくなることがあるんじゃないかと。そのしゃべることが救いになることもあるだろうということも、やはり日記の中で見出していって、作品にそのままいかす形になっているんですけどね。
N 天童さんは、この「静人日記」を、一日も欠かさず、作品を書き終わった今も続けていると言います。>
英玲奈 何の意味もないと思うような瞬間はなかったですか。
天童 意味がないというのは、常に思っていて。意味がないと人に言われる行為を積み重ねていく行為が一番尊いと、ぼくは思っていて。だから、静人の行為が意味あるものになってはいけないと、むしろ思っていたというのかな。
N 7年もの歳月をかけて書き上げた作品『悼む人』を発表した天童荒太さん。亡くなった人を悼む旅を続ける静人を通して、天童さんが伝えたかったこととは。>
英玲奈 ここ(「創作ノート」の始め)に「いま、世界で最も必要とされる人物の物語」っていう風に書かれていますよね。
天童 今でも、大きな事件が、ここのところ続いていますけども、クローズアップされるのは犯人の方だったりすると思うんですよ。で、犯人の方を社会は、覚えていってしまって、ついつい、本当にどんな大切な人が亡くなったかが忘れられていくというかな。それが今、命の軽さともつながっていると思うので。本当に大事なのは犯人のはずはないんで。懸命に生きていた人が亡くなった。その亡くなった人のことを覚えておくっていう姿勢が、少し社会が変わるだけで、何かが大きく変わるような気がしているんですよ。
N 傷を受けた側の視点に立つ天童さん。そんな彼が生み出す作品に注目です。>
*スタジオ*
松田 この物語が語りかけてくるのは、「あらゆる人間の死を悼めるか」という、非常に重いテーマなんですね。だから、本当に息苦しくなるような場面も沢山あるんですけども、ただ終始、爽やかな風が吹いているような、気持ちよさがある。それは、いまVTRで見たように、天童さんが、本当につらい、身を削るような思いをして書いていって、そこで得た優しさみたいなものをもって物語を書いているからだろうと思うんです。
優香 わたしも読みまして、7年かかった重みっていうのが、この1冊にあるなあっていう風に感じたんですけども。私は、このなかでも、お母さんの話がとてもジーンときて、お母さんが出てくるたびに、毎回毎回、涙しながら読んでいたんですけども。このお母さんがガンという重い病気に罹って、死んでしまうかもしれないというのを抱えているのに、周りに対して感謝の気持ちとか、本当に温かくて大きい心を持っているお母様で、素敵だなあ、こんな風になれたらいいなあと思いながら読みましたね。
谷原 えみちゃんも読み始めたそうですね。
はしの 読み始めて、私は、あんまり読書慣れしていないので、まだ三分の一ぐらいしか読めていないんですけども。静人がなんで「悼む人」になっているのか、それは聖者なのか、それとも偽善者なのか。いま、静人に関わっている人たちがどんどん出てきて、どんでん返しが待っているのか、どうなのかというのがすごく気になりながら読んでます。
松田 そうですね。重い作品なんですけども、ひょうきんで明るい、面白いキャラクターも出てきますし、優香ちゃんが言ったように、お母さんもしょっちゅう冗談をいったり、明るいところがありますし……。
優香 そうですね。
松田 そして、最後までいくと、本当に激しくて美しいラブストーリーになるんですね。本当に圧巻だと思うんですけども。本当にスケールの大きい、読み応えのある作品だと思うんですよね。
谷原 どう翔太、読んでみたくなった。
翔太 もう、読まないとまずいなっていう感じですね。読みたいです。
谷原 みなさんも温かい涙を流して、心の洗濯をしてみたらいかがでしょうか。