第26回太宰治賞

第26回太宰治賞受賞作が決定いたしました

2010年5月10日(月)午後5時30分から、第26回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の選考委員会が、三鷹市「みたか井心亭(せいしんてい)」で開かれ、選考委員四氏(加藤典洋、荒川洋治、小川洋子、三浦しをん)による厳正な選考の結果、以下のように受賞作が決定しましたので、お知らせいたします。※加藤典洋氏は文書による参加となりました。

第26回太宰治賞受賞作
「あたらしい娘」 今村 夏子

【あらすじ】
田中あみ子は今祖母と二人で暮らしている。両親と兄とは十五歳で別れた。
幼い頃からあみ子は、父も母も兄も学校の友達も大好きだった。でも、学校から一緒に帰るとき、兄は友達を見つけると隠れる。母は自宅の習字教室にあみ子を入れてはくれない。大好きなのり君は、あみ子が大声で話しかけると友達にからかわれ下を向いて黙る。
あみ子はもうすぐ来る赤ちゃんを楽しみにしていたが、お腹がぺちゃんこになって帰宅した母は赤ちゃんを連れて帰らなかった。優しいが元気のない母のために、あみ子は「弟の墓」の木札を母にプレゼントした。それなのに……そのときから、母は部屋に閉じこもって口をきかなくなり、父はほとんど家にいなくなり、やがて兄は不良になった。
そして、中学卒業を前に、あみ子は父から「引っ越しするか」と言われたのだった。



著者略歴
今村 夏子(いまむら・なつこ)(30歳)
1980年生まれ、大阪府在住。

受賞の言葉を読む



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第26回太宰治賞授賞式は2010年6月16日、東京會舘にて行われ、
受賞者には、記念品及び賞金100万円が贈られました。


【贈呈式レポート】
 6月16日(水)、東京丸の内の東京會舘で、第26回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の贈呈式が行われました。
 まず挨拶に立った三鷹市の清原慶子市長は、昨年、太宰治生誕100年にあたり、三鷹市が行った様々な活動を紹介、三鷹の町に愛される太宰治の存在について語り、文学の世界にまた新しい作家が誕生したことを称えました。続いて、筑摩書房の菊池明郎社長が、太宰治賞受賞者のみなさんの最近の活躍を紹介し、出版不況が続き、また電子出版元年とも言われるが、さまざまな新しい試みも生まれており、今後とも良い本を作り続けてゆきたいと述べました。
 そして、選考委員を代表して小川洋子氏による選考過程と選評の発表がありました。
 今回の選考会は、4人の選考委員のうち3人が「あたらしい娘」を推し、かつてないほどスムースに受賞作が決まった。とにかく、あみ子の存在感が圧倒的である。それは数頁読めばすぐにわかるだろう。この作品は、主人公のあみ子の視点で一貫して書かれており、それはそう簡単なことではない。どうしても作者の都合で、話をスムースに進めるため、全体にかたちを整えるために、余計な説明を加えてしまいがちなのだが、それを今村夏子さんはいっさいしなかった。今村さんはあみ子の自意識に踏み込まず、あみ子の網膜に留まる。そのために読み手はあみ子の瞳の一点に吸い寄せられるように、彼女の心の奥深いところに触れることが出来る。その、今村さんの勇気はすばらしい。あみ子は、自分が主人公になれるとは思わない、自分がヒロインであることに気づかない、そういう少女だと思う。そういう人物こそ物語に書かれるべきである、という物語の根本的な役割について、私は今村さんと共鳴する。だから、選考委員としてというより一読者として、この作品に出会えてよかったと思う。
 以上のように述べました。そして、表彰状、正賞および副賞目録授与のあとに、今村夏子さんが挨拶をしました。
 このようなことになるとは思っておらず、今は幸せより不安のほうが大きい、それでも、自分で決めて始めたことなので、言い訳だけはしないで、今後頑張っていきたい、と決意を述べられました。
 その後、津島園子さんより受賞者への花束贈呈が行われ、三浦しをん氏による乾杯の音頭で、パーティへと移りました。
*選評と受賞作、それに最終候補作品は『太宰賞20010』にて読むことが出来ます。