共喰いのはじまった国に未来はない/石井光太

 現代の若者が飢えた獣のように金銭的かつ経済的に枯渇していることを、どれだけの日本人が認識しているだろう。
 本書が読者に叩きつけるのは、「貧困大国・日本」に生まれ育った若者たちの旧世代への憤怒だ。
 現在、オレオレ詐欺をはじめとする詐欺事件の被害総額は、年間五百億円以上の規模になるのだそうだ。その被害者の八割が六十歳以上の高齢者だという。
 従来のマスメディアの構図では、こうした犯罪は傍若無人な若者が社会的な「弱者」である高齢者を喰い物にしているというふうに語られてきた。実際、暴力団の世界ですら、老人に対する詐欺は卑怯者のすることとして古くから下に見られるのが常だった。
 だが、本書はそうした構図は過去のものであり、今は逆転して正反対の意味を持つという。つまり、老人こそが社会を作り、金を貯め込んで逃げ切った「強者」であり、その孫にあたる「失われた世代」と呼ばれる砂漠のように枯れ果てた世の中に生まれ育った若者は、一滴の水を求めてさまよい歩く「弱者」であり、彼らは貧困の世を生き抜くために富める老人に喰らいつくのはやむを得ないのだ、と。
 ここまでお読みになった方の中には、勝手な理屈だと憤りを覚える方もいるかもしれない。正直、最初は私もそう思った。だが、本書を読み進めていくうちに、あながちそうも言えなくなったのである。
 日本の貧困問題がマスコミによって語られだしてから十年以上が経つ。日本の相対的貧困率は六人に一人にまで達し(先進国の中で世界三位)、多くの子供たちが経済的な理由で学業をあきらめざるをえず、かろうじて大学に入学した子供たちにしても半数は、社会に出る前に奨学金という名のローンを数百万円かかえなければならない。
 こうした若者を待ち受けている未来は過酷だ。大卒者であっても非正規雇用の将来の保証のない立場で働かなければならない。ブラック企業に骨の髄までしゃぶられながら何年働いても、収入は上がらず借金を返す当てすらない。現実はコストカットとリストラの連続だ。三十歳を過ぎれば非正規雇用の仕事すら乏しくなり、実家に引きこもるほかなくなる。
 だが、景気の良い時代をすごした年寄りたちは、そんな若者たちの窮状を理解しようとはせずに一括りに「無気力」だの「ゆとり」だのと決めつけて見下し、そのくせ子供や孫にだけは銀行に貯め込んだお金を湯水のごとく与える。こうした格差社会にあって飢えた若者たちが、貧困大国・日本を作ったのは年寄りたちだと恨みを抱き、彼らが貯め込んでいる金を奪って何が悪いと考える者が出てくるのは、ある意味自然の流れだ。
 オレオレ詐欺は、こうして誕生したわけだが、若者たちはそれを会社事業のようなものとして行う。「会社」はビジネス街にオフィスとして設けられ、「店長」と「社員」が縦の関係を持って存在する。彼らはサラリーマンのような格好で「出勤」し、毎朝集まって「朝礼」を行い、新人には「研修」を施した上で、「定時」まで働く。詐欺がビジネス化しているのだ。
 異様である。だが、五百億円規模の市場で勝ち抜くには、中堅企業並みの規模と統制がなければ難しい。一般企業とオレオレ詐欺企業が共存するほど今の日本は歪んでいるのだ。
 本書を読み終えた後、私は日本がどこへ向かっているのか底知れぬ不安に襲われた。弱者としての若者が富める老人を喰うということは、日本の資産が共食いによって減りつづけているということに他ならない。これが続けば、いずれ日本は干上がった砂漠と化してしまう。
 本書は、「共喰いのはじまった国に未来はない」と日本の未来を痛烈に警告しているように感じる。
(いしい・こうた ノンフィクション作家)

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