増田寛也/まちを行政に任せる時代は終わった
政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されてから1年が過ぎた。全国の自治体は今年度中に長期ビジョン・総合戦略を策定することが求められており、今その作業は佳境にある。この問題は、結婚・出産・子育て支援から若者の雇用の創出、コンパクトシティの形成まで多岐にわたる。単にビジョンや戦略をつくって終わりではなく、PDCAサイクルを長期にわたって回していく必要があり、そのしくみづくりも重要だ。行政が旗を振り続けるだけでは自ずと限界がある。地域の産業界や教育機関、そして何よりも住民自身が、自治体と問題認識を共有する姿勢が求められている。
本書は、「コミュニティデザイン」を各地で実践してきた著者が、高校生を対象に、これからの人口減少時代に、中山間離島地域を元気にするには何が必要かを考えてもらうために執筆したものである。まちづくりは、住民の意見を反映させながら進めていくことが多いが、著者は住民の「文句は言うが前向きな意見を言わない」主体性の無さが、賑わいのあるコミュニティの出現を阻んでいると指摘する。その上で、ハードの整備を前提とせず、地域の課題に対して「住民たちがアイデアを出し合い、最善と思う解決策を探り当て、住民たちの手で実行する」そのしくみ、ソフトをつくることが、まちを元気にするために今求められているコミュニティデザインであると説く。
著者が示すキーワードは「風の人」、「土の人」だ。よそ者の新鮮な視点でまちづくりを支援する著者のような存在を「風の人」、自分が暮らしているまちの魅力を探り、住民や地域のためになる楽しさを創造し実践する人を「土の人」と表現し、「風の人」と「土の人」のふたつの担い手が揃い、互いに化学反応を起こすことで中山間離島のような地域が活性化し、持続的なコミュニティを作り出しているという。特に、著者が注目するのは「土の人」の存在で、本書では、彼らの具体的な取り組みを丁寧に紹介している。そして、「土の人」の働き方の魅力として「自らの存在感を実感できること」を挙げる一方で、多くの若者が、都会の大学に進学し、大手企業に就職することを目指すライフモデルを疑うことなく歩もうとする姿勢に警鐘を鳴らす。
確かに、このような単線的な職業選択志向が、地方から若者の流出を促し、地方の衰退、さらには国全体の人口減少に拍車をかけたことは事実であろう。農家や漁師、商店主など様々な職業の仕事があってこそ社会は成り立つ。それを踏まえれば、様々な働き方の選択肢があり、若者が自分の指向に合わせ、選択できるよう価値観を変えていくことが望ましい。私自身、岩手県知事時代になるべく多くの高校生を東大に進学させることを目指していたが、今考えれば、自ら進んで若者に単線的な生き方を示していたわけであり、これで地方が元気になるはずはなかった。若者を支える大人たちが、自らの地域の仕事の魅力を確認し、地元で生活する楽しさを体現し、若者に伝承していくことが大切だ。
著者も言うように、まちづくりは行政だけに任せる時代ではなくなっている。行政側が住民の意見に耳を傾けることが重要であることは言うまでもないが、住民も当事者意識を持ってまちづくりに参画できるしくみがあれば、著者が言う「自走する」まちが生まれるであろう。あえて付言するとすれば、本書は、中山間離島地域という住民同士の顔が見える小さなコミュニティに焦点を絞って書かれたが、今後、人口減少が進んだとき、最も困難が予想されるのは、大規模な政策を打つには規模が小さく、合意形成を図るには規模が大きい、人口10~15万人程度の自治体であろう。このような規模の地域に、著者がこれまで培ってきた知見やノウハウをどのように応用していくのか――。著者は今後、東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科の学科長として、後進の育成にも力を注ぐという。これからの著者の研究、取り組みに期待したい。
(ますだ・ひろや 日本創成会議座長)
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