生活即反撃大々的全人的解放/入江公康
本書冒頭をめくり「貧乏で生きづらくて、自分を責めてしまいそうな時には?」という問いがあり、答えはすぐそのあとに――「反撃する」。
ややふいてしまった、不覚にも。「反撃さん」の反撃。本書を読めばこんなユーモアがちりばめられ、著者のこの感性は随所で発揮される。ただ「社会問題」を扱った本ではこうはいかない。しかもただ笑えるのでなく、そこには独特の批評性が込められ、それを微妙に表現するのは紛れもなく著者の天分だ。ともすれば無味乾燥にみえる「労働問題」にそんな感覚を持ち込んだ。むろん「大まじめ」が前提なのはいうまでもない。
この間「インディーズ系労組」(絶妙な命名だ)や「もやい」などの運動が数多くの成果をあげてきた。それはひとえに著者も含め、デモで集会で街頭で声をあげ、実地に魅力あるアイディアをだし、真摯に問題に取り組む人々がいたからである(もちろんそれまでもいて、その上で)。本書はそれら活動の溂たる紹介であり、数々の運動を活用できるようにとの計らいから生まれた、親切かつ実直な手引き書、愉快だが深刻な実録読み物だ。漫然としたルポ解説のたぐいじゃないところに著者の面目がある。
破廉恥で凶悪な搾取実態とその反撃法の紹介、それに笑い(ときにブラック)と直な(き出し的感性の)批評が添えられる。運動へのアクセス確保という意味では敷居がめっぽう低い。いや、こういう言い方は間違いで、敷居がないことを確認させてくれるというべきか。だから具体的。内容も労働法に関する一問一答、セクハラ撃退、アキハバラ解放、鍋、誰でも生活保護、ラテン系労組、ロリータちゃんの争議、ドナルド弾圧、メーデー旅団、職場占拠等々てんこ盛り。対談もついて、相手は湯浅誠/鶴見済氏。湯浅氏の生活保護の話など私も活用させてもらうし(冗談抜きで)、鶴見氏は体験的"「病」としての新自由主義"からベーシックインカムや"別世界"への共感にまで話がおよぶ。
と、こう眺めてこれほど多彩になりうるということにあらためて驚いてみたりする。そう、ひとつには表現だ。欠けたのはこういう自在な表現だった(正確を期そう、あったがなくした、みずから検閲し規制した)。だからここに登場する行動は労働/生存運動とはいうものの、それは全人的解放運動の趣きすら帯びる。
ところで本書で紹介されたような、自由で逸脱的、権威や権力的なものに敵対する活動はよく世間の反感に遭遇することがある。なにが偉いのかすぐ点数をつけたがったり、引き算で人や物事を見ないと気が済まない、そんな空気がこの国ではひとしお強い。企業漬けに優等生漬け、秩序漬け広告漬けに危機管理漬けされた冗談みたいな感性には、そんな表現は素じゃ届かないし、届いたとしてもときに激しい拒絶反応すら惹き起こす。奔放雑多得手勝手、でたらめっぷり壊れっぷり、ふざけてやってるようにみえるその振舞いに、自身の自縛性が反転して反感嫌悪になるメカニズムが働く(端的にいって嫉妬、劣等感ないし見たくないものはイヤイヤの退行だ)。束縛を解かれた振舞いを前にそれだけ動揺しているのだが、その根強さの解除――著者の関心はそんなところにもありそうだ。
プレカリアートは混ざりあい触発する。そうやってわらわら湧いて、その要求や行動は溢れかえって、不埒かつ不敵にまだまだエスカレートしなければならない。というわけで少しでも反撃を生活の中に埋め込んで、機会あらば読んだ人にももっとムカついて過剰に行動/運動を起こしてもらおう、というのが本書の眼目だ。重要なのはここだし、それこそ著者最大の願いなのだ。
彼女は貪欲に学び展開し続ける。ともかくも同じように文章をものす私なぞは書いてどれだけ影響があるのか怪しいものだが、こうやって盛大に騒いで世論をみ込んで人心に喰い込んでゆくその健啖ぶりには目を見張らされる。雨宮処凛は人心に火を付けてまわる。そういえばパリ・コミューンには火付け女というのもいた。
(いりえ・きみやす 社会思想・労働運動史)
『「生きる」ために反撃するぞ! 労働&生存で困ったときのバイブル』
雨宮処凛
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