浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

第三章 俳句

冬三句

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a いくたびも雪の深さを尋ねけり  正岡子規

(筑摩書房『国語総合 改訂版』P.166)
| 指導案 |
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 この句を詠んだとき、子規が寝たきりのような病状であったことを知っていれば、この句の意味は明瞭と思われるでしょうが、授業では「明瞭」ということでかえって授業がしづらいということがあります。読めばわかるというより、要説明の方がある意味歓迎されるのが良くも悪くも教室です。

①感動の中心は?――気づきの「けり」

 「切れ字」といえば「や」「かな」「けり」ですが、特に「けり」は、「そういう事態なのだと気がついた。」という、気づいていないことや、記憶にないことが目前に現れたり、あるいは耳に入ったりしたときに用いられます。それを一種の驚きをこめて表現する場合が多いので、一般的には「詠嘆の助動詞」だといわれています。しかし、基本は「気づき」「発見」です。俳句や和歌の「けり」は、何かに気づいたことを示しているのです。ちなみに「や」は、本来は掛け声であり、相手に発する間投助詞ですし、「かな」は、詠嘆の「かも」が変化したものとされています。

 この句の場合、子規が気づいたのは、何度も雪の深さをたずねたという自分の行為です。ふと気づけば、自分は再三にわたって雪の深さを聞いていたなあ、という発見です。この発見に伴う詠嘆の分析が、この句のヒミツなのです。雪が降り積もるのを子どものように喜んでいるのを表した素朴な句だとは、そう簡単にいえないのです。

 この「けり」には、雪が降ることについて喜んでいる自身の無邪気さへの驚きもあるでしょうし、雪へのこだわりの強さに対する再認識もあるでしょう。しかし、重要なことは、ここで子規は自分自身を驚きの目で見ているということです。「おれはまるで子どもみたいに雪の降り積もることにはしゃいでいるではないか。」という自己発見です。ここには自分を冷静に見ているのとは違い、ある意味「いい年をして子どもみたいに。」というように、自分をあきれて見ている、言い方を変えれば「自分は、なんてやつだ。」というように、自嘲的に見ているのです。確かにそれを諧謔・ユーモアと見て取ることも可能だとは思います。

 子規の自己発見の句といえば、辞世の句である「糸瓜咲いて痰のつまりし仏かな」があります。この句については、死の病床で自らを冷徹に見つめているという鑑賞が見受けられます。

 特に最初の「糸瓜咲いて」の句は糸瓜の花陰で今にも絶命しようとしている自分を「痰のつまりし仏」などと笑っている。そこには病苦にあえぐ自分自身をただの物体であるかのように冷静に眺め、しかもそれを戯画にしておかしがる筋金入りの滑稽の精神が存在している。(長谷川櫂『俳句的生活』中公新書)

 自身を戯画化する姿勢に強靱な精神と俳諧の精神を見て取っているのですが、そうすると「いくたびも」の句も、子どものように雪の降ることにはしゃいでいる自分を戯画化し、そこには冷静な視線があるということになります。しかし、どうもこの手の鑑賞には、「自己の戯画化=客観的な自己分析」というパターン化したものがあるように思えます。しかし、自身を戯画化することは自分を滑稽だと見なすことであり、ある意味自己否定や自嘲につながる面も否定できないのです。

 そういえば、『山月記』の李徴には自嘲癖がありました。郷党の鬼才の李徴は、詩で名を成そうと思いながらも思うようにはならない自分を常に自嘲的にとらえていました。「こんなはずではない。なのに、こうなってしまった。」という思いが自嘲を生んでいるのです。それはプライド、自尊心の裏返しなのです。そこには自分を冷徹に見据えるのとは逆の深い絶望と悲しみの思いがあるのです。

 床に伏したままで何度も雪の深さを家人に尋ねている自分自身に思い至った時の子規の心情は、如何ばかりだったのでしょうか。「忸怩」という言葉がありますが、情けない、恥じ入るという心情なのかもしれません。ここでの作者の心情は、「冷静」「客観的」とは対極にあると思えます。

 確かに、作者の心情が「忸怩」か「冷静」かは、鑑賞する側にまかせられるべきものなのでしょうが、私の教室ではここでまで踏み込んでいきます。鑑賞の深さを教えることが重要だと思うからです。生徒の自由な読みを大事にするあまり、自分勝手の何でもありの底の浅い感想を生徒の個性として尊重しても、生徒自らが俳句に親しむ契機とはなり得ません。やはり、作品の持つ深さを実感することで、初めて生徒に作品に向かう意欲が生まれてくるといえるのです。教師の思い込みの強い勝手な鑑賞は厳しく戒められるべきですが、だからといって、鑑賞を深めないのはあまりにもったいないと思います。

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