ちくまの教科書 > 国語通信 > 連載 > 舞姫先生は語る第一回(1/6)
第一回 『舞姫』のモチーフについて
第二回 太田豊太郎の目覚め
第三回 エリス――悲劇のヒロイン
第四回 太田豊太郎と近代市民生活
第五回 『舞姫』の政治的側面
第六回 結末
鈴原一生(すずはら・かずお)
元愛知県立蒲郡東高等学校教諭
第一回 『舞姫』のモチーフについて
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 『舞姫』が冷遇されていると聞きます。長い(時間がかかる)、難しい(文体)、生徒の共感が得られない、等々。ある程度時間がかかるのは仕方ないと思います。少ない時間の中で遣り繰りするしかないでしょう。泡沫のごとき教材を多数教えるより、たまには自己の生き方・時代・国家を考えざるを得ないものをぶつけるのも良いのではと思います。

『舞姫』のあらすじ

 難しいといっても話の内容は単純です。

 「普請中」の国家・日本の若きエリート官僚である主人公が、国家と生家の期待を担ってドイツに留学する。そこで、日本の封建的な空気とは異なる「自由な」環境の中で、次第に従来の自己に疑問を抱き、所属する官僚機構にも疑問を持ち、自他に批判を強めていく。そんなある日の散歩の帰り道、彼は裏通りの古びた教会の閉ざされた門の扉に寄りかかって泣いていた美しい少女と出会い、その危機を救ったことから少女と恋愛関係に陥る。しかし、日頃の優等生ぶりと付き合いの悪さから同僚たちに妬まれていた彼は、そのことをネタに讒言に遭い、免官になってしまう。だが結果的には、当時日本では得られなかった近代市民生活の幸せを少女と経験することになる。一方で出世をあきらめ切れない彼は、その幸せを捨てて帰国してしまう。愛する女性を犠牲にしてしまったという罪悪感から逃れ得ぬ彼は、手記を書くことによって少しでも忘れようとする。

 ざっとこんな話です。読み進むに従って、生徒は主人公・太田豊太郎の苦悩を共有することになります。幾多の障害を乗り越えて読み終えたとき、その感動は生徒・教師ともに生涯忘れ得ないものになるでしょう。私は卒業生から「舞姫先生」と呼ばれることが多々あります。決して『舞姫』だけを扱っているわけではありませんが、強烈なインパクトを与えていたのは確かでしょう。こちらが既に忘れてしまっているのに「あの時、先生はこうおっしゃった。」と細かい部分まで取り上げて思い出を話してくれます。そうした思い出を語ってくれるのは、決して「できる」生徒ばかりではありません。

 この取っ付きにくい『舞姫』をどうしたら面白く読めるのでしょうか。その秘密をこれから数回にわたってお話ししようと思います。

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