岡尾さんとの旅の話

保里享子

 いつからか好きで集めた雑誌の切り抜きを見返してみると、そのページのほとんどが岡尾さんのスタイリングしたページだったことに気がつきました。それが岡尾さんの名前を知るきっかけになり、その後雑貨店で働きはじめてからときどき岡尾さんご本人にお会いしてお話しするようになりました。  

 今でも雑誌で岡尾さんのページをみつけるとワクワクした気持ちになります。岡尾さんのスタイリングは、それがよく知っているものと同じものであっても、違った表情にうつるのが魅力的だなと思います。私が描いていたイメージも変わったり、以前より良くなることが多く、いつも刺激があります。  

 私たちのお店「サンク」の本を出すことが決まった時に、スタイリングはぜひ岡尾さんにと思って、お願いしてみました。岡尾さんはこころよく引き受けてくださり、さらにスウェーデンでのロケを提案してくださいました。  

 というわけで、冬のさなかスウェーデンの田舎、ダーラナ地方にでかけることになったのです。出発の日、成田に到着すると、なんと二時間も飛行機が遅れて、そのためにストックホルムからダーラナ地方に向かう最終電車に乗り継ぐことができないという事態に……。  

 旅に予想もしないことはつきものですが、まだ飛行機にすら搭乗していない最初からそんなトラブルに直面しても、旅慣れている岡尾さんはとても冷静でした。  

 結局、ストックホルムで電車を逃してしまった私たちは、タクシーに三時間、その後迎えに来てくれた現地のコーディネーターさんの車に一時間半乗って、ようやくめざすダーラナに着いたのです。思いがけない長旅に車中、全員爆睡してました。  

 やっとの思いでたどり着いたダーラナは、見るものすべてが雪に包まれて、素晴らしい自然の中にある村でした。まるで、現実のこととは思えないような。  

 十二月のダーラナは日照時間が四、五時間と短く、写真を撮るには暗く思えて、光の調子なども心配でしたが、撮影は順調に、そして楽しい雰囲気のなかで進んでいきました。  

 気温は氷点下でしたが、戸外での撮影も多くて、雪の積もった庭の物干し竿に布をかけたり、私たちが泊まっていた宿の主人のアンさんに籠を持ってもらい、彼女が飼っている羊たちと、今は使われていない村の雑貨店の店内などで撮影しました。  

 撮影はもちろん、撮影の後の食事の時間や近所のスーパーへおしゃべりしながら歩いて一緒に買い物へいったこと、夜はオーロラを見たこと……、仕事とはいうものの、楽しいことが多く、よい思い出になりました。  

 さて最後の日、翌日の遅い電車で帰る岡尾さんと別れ、私は朝一番の電車に乗ることになっていました。寒くて暗い朝の五時頃に出発です。なるべく起こさずに出ようと思っていたのですが、岡尾さんは「朝、絶対に起きるから」と言って、その言葉通り、わざわざ起きてくれてコーヒーを淹れてくれました。  

 帰国後、出来上がったダーラナの写真を見ていると、その時の楽しかったことがよみがえり、私は岡尾さんが言った「本作りの現場の雰囲気というのは出来上がったものからも伝わってくる」というのを思い出しました。  

 なんで岡尾さんの仕事にひきつけられるのか、きっと岡尾さんのお仕事の現場はいつもきびきびとしたなかにも岡尾さんのやさしさがあって、それが良い雰囲気になるからかな……、と私はその理由が少しわかった気持ちになりました。

(ほり・きょうこ 「CINQ」店主)

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岡尾 美代子 著

定価1,680円(税込)