『考える人生相談』の面白いワケ

南 伸坊

 本書は「考える人生相談」というタイトルがついていて、そうついてるならつまり、この本は「人生相談」の本ということになるけれども、よくある「人生相談」とこの本は違っている。
 この本のもとになったのは「ウェブちくま」の「21世紀を生きるために必要な考え方」っていう問答で、そのさらにキッカケになったのは『spore』っていうリトル・マガジンの編集部から、加藤典洋さんに出された質問に、ひとつひとつ答えていったもの、なんだそうです。
 その質問というのはこんな具合。
——「わからない」ことと向き合うために、必要なもの(こと)は何か。
——21世紀にペン(もしくは本)が必要ならばなぜか。
——美しい日本人として生きるために必要なものは何か。
——我々の生活に花が必要ならば、なぜか。
 これは「人生相談」っていうより、試験問題ですよ。私は試験がダメで(まァ勉強がダメだったからですが)もし、こんなものが、リトル・マガジンだかなんかしらないが、そんなとこから送られてきたら、やだよこんなのって、ポイとくずかごに捨てちゃうと思います。ところが、さすが加藤さんは違います。
 こういう「問題」を前にすると、けっこう元気の種になると感心したそうです。そうして「問題」を解いていった。それがそれぞれすごくいい。実は問題を前にして元気が出るっていう加藤さんの答えに、私はちょっと「感心」しちゃったりしていたんですが、その解答ぶりの鮮やかなのを見て「う 〜 ん」てうなっちゃいました。
 すごい。さすがにいつも、物事を考えている人は違う。勉強はやっぱりちゃんとしている人が偉いのだ。と思いました。
 質問も、縦横無尽っていうか、いろんな所に投げてきてるけど、来るタマを打つ、その打ち方に、なんかイチローがバッティングセンターで、全部のタマ打ち返してるところ見てるみたいに見事なんです。
 たとえば、我々の生活に花が必要ならば、なぜか? って問題出されて、何て答えますか? フツー。加藤さんはどう答えたか? (答えは本、買って読んで下さい。)
 その後質問は「ウェブちくま」で継続されるようになって、もっと本当に「人生相談」みたいなものも入ってくる。それは「試験」じゃなくて「相談」だから、答え方も変わります。
 でも、一貫してるのは、模範解答みたいな、いかにもな、どこからも文句の出ないような、そういう答えは一切しないってことです。一つ一つの解答に「へえー」っていう、おどろきがあるし、おもしろさがある。そこに加藤典洋さんの顔がある。
 とっても面白い読み物でした。
 私は、本を読むのが遅くて、なかなか読書がススまないので、読書がニガテです。だから、こういう本が好きなのかもしれませんが、以前に、西部邁さんが『学問』という本をお出しになって、これもおもしろかった。
 この本は編集者の質問に対して西部さんが見開き2頁で、簡潔に答えるっていう形式です。これの何が面白かったかっていうと、簡潔なとこなんです。なにしろスペースが限られてるから、ズバッと肝心なところが書かれて、しかも本人の文章だから、その短い中にその人らしい表現やその人らしさが出る。
 こういうスタイルの、つまり「試験の答案」のような本、っていうのは新しい読者をつかむんじゃないか、と私は思います。
 ともかく、『考える人生相談』は、本のカタチ、つくられ方としてとてもおもしろかった。それは、すべての質問に順ぐりに答えていったその時系列も、本にするときに編集したそれなりのまとまりも、いったんメチャクチャに「シャッフル」する、アイポッドシャッフル方式にした試みにもいえることです。
 順番メチャクチャなんだから、読者はどこから読んだっていいわけです。
 この本は、人生相談としても、問答集としても、答案としても箴言集としても読めるわけですが、その魅力の本体は、加藤典洋さん自身にあると思う。
 たとえばガンジーの歯が抜けちゃって、おもらいさんみたいになっちゃってる情けない顔が「カッコイイな」と思うようなところ、答えられないことは答えられないと書くし、いかにもなまとめ方はしないところ。
 質問者が何を言わせたがってるのかするどく見越して、新しい視点を出してくるところ。そういう考え方の魅力が横溢している本だと思いました。
 私はだから、この本が、当然本好きの、本を読むことに慣れている人にも面白がられるとは思うけれども、本を読まなくなったといわれる学生(私と同じように本を読むのを億劫がってるオジさんやオジイさん)にも、とても面白い本になるだろうと思う。そういう人に読んでほしいと思います。
 こんなこといっちゃアレですが、この本一冊読むことで、加藤さんの本や加藤さんが読んだ何冊もの本のエッセンスが、ヒョイっと手に入るんですからね。

(みなみ・しんぼう イラストレーター)

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考える人生相談

加藤 典洋 著

定価1,575円(税込)