実録・二十六歳無職の就職活動

川崎昌平

 大学を出てからこっち、引きこもったり、ニートに身をやつしてみたり、ダラダラとネットカフェ難民をやったりなどしていたわけですが、僕もこの歳になってようやく目覚めたと申しますか、もうこれじゃあやっていけないなと感じまして、さすがに将来が真っ暗だなと気づきまして、ならばそろそろ真っ当に生きてみようかと性根を入れ替えてみました。きちんと働こう。そう決意したわけであります。
 無職の二十六歳が本腰を入れて就職活動を開始、さあ、はたして本当に正社員という身分になることができ、誰もが欲してやまない安定した生活を手に入れられるのか。その苦難の道筋をつぶさに記したドキュメンタリー、それが本書です。
 就職活動という行動が本書の主筋となっていますが、いわゆる新卒採用などの就職活動とは一味も二味も違い、僕のそれは簡単には説明しきれない悲哀と困難に満ちています。大学を卒業してからずいぶん時間が経っている、かといって何か資格取得のために刻苦していたわけでもない……そんな立場ですから、そう簡単に就職先など見つかるわけがありません。門前払いを何度となくくらい、ようやく書類選考を通過して採用面接の段になっても、
「大学を出てから今まで何をしていたのですか」
 と面接官に問われれば、
「はあ、その、フラフラと、いや、いろいろと試行錯誤を……」
 としどろもどろに応じ、
「ウチの会社で何をやりたいわけ?」
 と言われれば、,
「ええと、御社のために、ハイ、精励恪勤、努力したいと……」
 と要領を得ない答えを発する……そんな具合ですから失敗につぐ失敗という体たらく。
 自分の無能さに直面して絶望するシーンもたびたび出てきます。長年の堕落した生活のせいでコミュニケーションがとことん下手くそになってしまい、まともに人と話せないようなあり様。だからといって、黙っていても相手が驚いてくれるような特技などあるわけもなく、まったくもってアピールポイントがない状況。されど真面目に働きたい、正社員になりたいという願いだけは並々ならぬものがあり、熱意のみが虚しく空回りするわけです。
「ダメな若者」が真摯に「ダメな自分」と向き合う現実はこんなにも悲惨で苦しいものなのか……そんな風に感じていただければ僕としては満足です。あるいはそこに滑稽さを感じてくれてもよいでしょう。結局のところ、僕が「ダメ」であるのは、他の誰でもない、僕自身の責任なわけですから。いや、これは安易な自己責任論に落とし込もうとするわけではなく、何と申しますか、日本社会の構造的問題を踏まえたうえで、あえて自分に責任があると考えたい……そうした決意からの発言だと思ってください。
 フリーター、ニート、ネットカフェ難民、ヒキコモリ……現代の日本には世間から問題視されがちな、そうしたさまざまな層の人間がいますが、僕も歴としたそれらの一分子であるという自覚を持っています。そうした生き方を否定するのではなく、すべて肯定し、自分の素地と認めたうえで、脱しようとする点に本書の大きな特徴があるかもしれません。
 本書のタイトルは、「若者はなぜ正社員になれないのか」です。この「問いかけ」をめぐって僕は、全力で、実際のアクションを通じて、思考を積み重ねました。そうした一連の試行錯誤のなかに生まれた新たな問いかけこそが、本書の訴えようとする核心なのです。
 そこを念頭に置きつつ、具体的に展開するさまざまなエピソードを楽しんでいただければ、ついでに僕の思考の軌跡を眺めていただければ、筆者として、現代の若者として、これに優る喜びはありません。
(かわさき・しょうへい 無職)

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