世界規模で起こる貧乏人の逆襲

松本哉、鶴見済、雨宮処凛

 「タダで生きる」のは革命的なこと
——松本哉さんの『貧乏人の逆襲!——タダで生きる方法』が刊行されました。格差社会に反乱を起こし、貧乏人が勝手に生きるための前代未聞の実用書ですが、いかがでしたか。
鶴見 すごくよかったです。第一章の金を使わない生活の方法にしても、第二章のリサイクルとか、地域でモノを回していくこととか、自治にしても、第三章の貧乏人の反乱にしても、金持ち連中に食い物にされているところを取り返していくようなことで一貫してるところがすごいと思う。松本君は「資本家」とか「支配層」とか言わないで「金持ち」という言葉を使うけど、まるで最初に理論を学んで、「こうすれば資本主義をやっつけられる」と考えてこれらのことを全部やってるみたいに思える。だけど、この本を読むと、単に小さい頃からこういうことをずっとやってたと。
雨宮 「天然」というのが、あり得ないですよね(笑)。私も本(『雨宮処凛の闘争ダイアリー』)にも書いたけど、この本は死ぬほど面白かった。大多数が実は貧乏人だという松本さんの貧乏観にも共鳴しました。この本は貧乏人がどうやって「ボッタクリ社会」に抵抗して大反乱を起こしながら生きてくか、具体的な方法が詰まってますね。この国でそうやって生きてる松本さんのような人がいるだけで、この国も捨てたもんじゃないって気になります。
鶴見 松本君の言う「タダで生きる」っていうのはめちゃくちゃ革命的なことですよ。水を飲むとか、衣食住やすべてのことで人から金を取ろうとしてる企業に対して、松本君の主張ややってることは完全に敵対していると思う。企業は人が生きるためのあらゆるところにビジネスチャンスがあると思ってて、どうやったらうまく金を取れるか企んでるから。
松本 無駄な消費社会に巻き込まれないということが一番打撃を食らわすことができますよね。リサイクル業もそうかもしれないけど。

 「素人の乱」って?
松本 「素人の乱」は高円寺にあって、リサイクルショップ、古着屋、カフェ、イベントスペースとかがあります。さびれた商店街のなかにとりあえず入って安く貸してもらってやってます。商店街の人たちも、「若い者でも呼べば、なんとか活性化するんじゃないか」ということで、結構仲良くて、地域のおじいちゃん、おばあちゃんともまじりながら居ついているという感じです。そして時々デモとか何か騒ぎを起こす。
雨宮 私が「素人の乱」のことを人に言うときは、松本さんの経歴から話しますね。それが一番わかりやすいと思います。「法政の貧乏くささを守る会」という人たちがいて、大学を出たあとは「貧乏人大反乱集団」をやってると聞けば、だいたいどういう感じかわかりますよね。それから、「俺のチャリを返せデモ」(二〇〇五年八月二十日。放置自転車撤去反対のデモ)とか「家賃をタダにしろデモ」(〇六年九月)とかをやりつつ、リサイクルショップもやっていて、訳のわからない人たちが溜まっている場所、コミュニティです。
 私が出た「素人の乱」の「家賃をタダにしろデモ」は、プラカードがほんとにくだらなくて「築三十年」とか「四畳半」とかいうプラカードで、「画鋲を刺させろ」とかの要求で、「一揆」というのぼりを掲げてた。出発すると人がバンバン入ってきて、台の上にちゃぶ台がある移動式の居間があって、松本さんがそこに座って一升瓶を持ってアジっているという、こんなマヌケな絵が二十一世紀の日本にあるのかみたいな……(笑)。
鶴見 「家賃をタダにしろ」という主張も、実はこの『貧乏人の逆襲!』を読むと、土地所有制度のことと関係があって、もともと土地は誰のものでもないのに、勝手に「俺のものだ」とぶん取った奴が人に貸しているのはおかしいじゃないかという話になってるから、松本君はちゃんと考えているんじゃないかと思った。

 まったく新しいメーデーデモ
雨宮 私は五月一日は福岡の「フリーター/貧民メーデー」に参加して出られませんでしたが、その日の高円寺のデモはどうでしたか?
松本 いよいよ拍車がかかってとんでもなくなってきたというか、もうデモじゃなくなってきましたね。全国のメーデーに呼応してやる意味も一応あったんだけど、よくよく考えたら、あんまり働いている人が近所にいない。働くにしても、週三日とかテキトーな人が多いから切迫感を持って要求することがない。でも、うちらの生き方というのは正しいと主張したい部分もあるから、祝日の祭りみたいな感じになっちゃう。
鶴見 DJの選曲もよかった。あと、ダンスパフォーマンス集団が乱入してきたり別の車から音を出したり、いろいろ仕掛けがあったけど、DIYでアートな感じがする。旗やプラカードを全部自分たちで凝って描いてたり、変な物を作ってたり、そういうところがすごく文化色が高い。
松本 高円寺の連中も、結構いろいろなことをやっている人が多いから、その辺で、みんな勝手なことをやってそういう装飾をしたりするのも好きですね。
雨宮 鶴見さんは、いつからメーデーなどに参加してるんですか。
鶴見 去年ぐらいから。「素人の乱」のデモに出るのは今回が初めてで、おととしぐらいから、自分でも「世の中、これじゃまずい」と。経済とか、格差社会的な問題でヤバいと思って、自分でも友人とラジオやトークイベントをやったりし始めて、いろいろイベントにも行くようになっていったら、至る所に雨宮さんや松本君が出ていると。そういうのが去年ぐらいで、よく顔を合わせるようになった。
松本 高円寺の選挙(註)のときも、結構来てくれましたね。(註 松本氏は二〇〇七年四月杉並区議選に出馬。「革命後の世界を先に作る」と語り、「選挙活動」としてバンドのライブやDJイベント、舞踏などを行い、高円寺の駅頭は祭りの場と化した)
鶴見 そうそう。「素人の乱」がやった騒ぎで最初に行ったのは、高円寺の選挙。いきなりショックだった(笑)。
松本 あれは最高ですね。群衆がいっぱいいて。混乱をきたすのが気持ちいいですよ。秩序はよくないですよ。選挙制度自体もそうだし、予定調和というか「なんとなく、こんなものでしょう」という感じが世の中あまりにも多くて、それが一番の弊害だから、一回それを壊しながら、自分たちのやりたいことをやっていくというのがいいですね。
鶴見 ほんとに松本君とかやっぱり、敵がちゃんとわかってる。敵が金持ち連中だとか、その辺のヤツらをみんな商売道具として食い物にするようなヤツらだと俺が思い至ったのは最近だった。

 労働問題と、オルタナティブな生き方
雨宮 四月末から五月中旬まで全国各地でインディーズ系メーデーデモやイベントがありましたね。私は札幌、福岡、岐阜、新宿、大阪に行きました。
(webちくま連載参照。http://www.chikumashobo.co.jp/new_chikuma/
五月三日の新宿の「自由と生存のメーデー」デモ(主催は、フリーター全般労組ほか)の最終地点はアルタ前でしたが、アルタ前の場所で終わったデモは四十年ぶりだそうです。入らないほうが損ですよね、もしもあれに出くわしてしまったら。
松本 あれは行ったほうがいい。
鶴見 駅前はみんなのものだし、アルタ前もみんなのものだからね。なぜ、普通にやっていいことも、できないことだと思い込まされているのか。そういう意味では、「素人の乱」や「自由と生存のメーデー」はほんとによくやってくれてますよ、公共の場を取り戻す行為を。
雨宮 いかに普段は「自由にできない」と刷り込まれているかですよね。本当はできる。やってしまえば。
鶴見 『貧乏人の逆襲!』第五章の松本君と雨宮さんの対談で松本君が「好き勝手に生きる」と言ってることと、雨宮さんが「生きさせろ!」と要求することには少し違いがあってある意味、面白かった。松本君のほうは、企業に頼らないどころか、国にすら頼らない。恐慌が起きて国が破産しても生きられるような。一方で労働運動は、国や企業に要求していく。そういう違いが、「素人の乱」のデモと、フリーター労組[フリーター全般労組。非正規雇用者の労働問題に取り組んでいる]系のデモのカラーの違いみたいでもある。当然、後者は生存闘争なのだからマジだと思う。もちろんそれも大事だし、「素人の乱」のデモとか、『貧乏人の逆襲!』の明るい感じも、すごくホッとするものがあって、そこが面白いなと思った。
松本 五月四日の仙台メーデー(「生きる、働く、オルタナティブな生き方の可能性」)のときもそういう話になった。フリーター労組の人の「フリーターという立場の労働運動でどう要求していくか」という話と、その日のテーマのオルタナティブな(労働と消費のサイクル以外の)生き方はどうすれば心地よくできるのか、という両方の話ができるわけです。全然立ち位置が違う部分が両方あって、それが繋がっているあたりが相当強いんじゃないかという話がその時出ました。職場の問題だけをやっていても自分の生活が全然ダメだと窮屈になってくるし、あるいは、自分の好きなことだけやっていて生活できる人は少ないわけだし、その両方が繋がってやっていくのは、相当強いんじゃないかと。
雨宮 多いのは、フリーター労組と「素人の乱」の中間にいるような人たちだと思いますね。労働者とも括られないし、貧乏は貧乏だけど、あまり開き直れないし。その中間層が、その時々でどちらにも行けたり、一緒に何かやったりというのが一番いいですよね。
 廣瀬純さんという、ラテンアメリカ問題に詳しい人と話したら、ラテンアメリカの運動家は、道を閉鎖して、国に「自分たちはここでコミュニティをつくって生きているから、金よこせ」と要求して、自分たちが遊ぶための金、生きていくための金をよこせということをやっているそうです。「遊ぶから、金をよこせ」と国に言うなんて素晴らしい(笑)。
松本 「全部よこせ」というとんでもない要求はいいね。このあいだの高円寺のデモのテーマでもあった。ちょっと話は違うかもしれないけど、イスラム教では仲間がいたらどんどん相互扶助をやるでしょ。また、レバノンでは、イスラエルに攻撃されて街がめちゃくちゃになったら、レバノン政府よりもヒズボラという民兵組織のほうがどんどん金もくれるし、地域を復興してくれて頼りになる。だから日本で言っても、ひたすら政府に全部やってもらわなくても、「素人の乱」だったら、ちゃんと洗濯機を運んであげたり、壊れたFAXを直してあげたりしたほうが、信頼にも繋がるんじゃないかなと思う。まあ、うちらは民兵組織じゃないから、戦ったりはしないけど(笑)。でも、全部国に頼るというよりも、もうちょっと信頼できるものが……まあ、「素人の乱」に頼られても困るけれども、地域の中で頼るべきものが、友達であったり、そういうものがいるというのが一番生きやすいような気がします。
鶴見 少なくとも、いまはそういうものがなさすぎるよね。全部国とかに一括して管理されてしまっているから、そういう段階があってもいいんじゃないかと。コミュニティや地域の復活というのは大事だよね。でも人間関係、人付き合い能力が高くないとできないかもしれないから、引きこもり系の人は難しいかもしれない。
松本 いきなり地域コミュニティの中に入れと言っても、それは大変ですもんね。でもまあ、できる範囲で、例えば、飲み屋さんに行って知り合いになっているだけでも、何もないよりは心の持ちようは全然違いますよね。

 世界中で起こる貧乏人の逆襲
松本 「素人の乱」は「家賃をタダにしろ」というデモをやってるけど、去年ドイツに行ったら向こうは勝手にビルを占拠して自分たちの場所を作って、「何が悪い。追い出すな」というデモをやっていた。似たようなことをやっていて、しかも、もっと先をいったことをやってたからすごく頼もしかったですね。
鶴見 世界的に、「素人の乱」的なことは起きてるよね。結局、貧乏人からカネを巻き上げて悪いことをしてるヤツらというのは、グローバルな世界規模でやってるから、当然、いためつけられているヤツらも世界規模でいる。だから、世界的に貧乏人の逆襲みたいなことが起きてるんじゃないかと思う。
松本 逆襲の仕方も、デモもありながら、一方で勝手に生きる自分たちの生活圏をつくるというやり方をみんなが取っていて、それがすごく有効に力となってると思う。
 日本だと、いまはそういう勝手に生きるやり方というのはなかなか少ないから、それで精神的に病んでしまったり死んじゃったりするけれど、ヨーロッパではプレカリアートというか、ろくに働いていないヤツらが、将来に対する不安もほとんどなさそうに昼間からウロウロしてる。向こうは普段からいろいろな遊びや活動をやってるから、貧乏なヤツらもいろんな意味で豊かになってるんだなと思います。
鶴見 何百年か前は、普通にそうやって生きてたはずなんだよね、江戸時代とか。いつの間にこんなになってしまったのか。
雨宮 今回日本の各地に行って思いましたけど、例えば、福岡の天神という狭い地域に八つもスタバ(スターバックス)があることに怒って、そこで抗議活動をしようということがメーデーのひとつのテーマでした。スタバは世界中で一万店舗ぐらいあって、街にたくさんスタバができていっても、どこも同じ風景になってすごくつまらないですね。マクドナルドもそう。それで、スタバのマークに×印をつけたタイコを持ったり、マクドナルドのドナルドの格好をしたりしてデモに出ようとしたら弾圧された。でも、世界中で同じ抗議行動をしているわけです。これはすごく面白いですね。
 ところで今後松本さんは何を目指して、どこに向かおうとしてるのか(笑)。
鶴見 世界でしょう。世界中にこういうヤツらがたくさんいるというのはチャンスですよ。雨宮さんもそうだけど、もっと世界の人たちを煽りまくって繋がって、もっとこの勢力を大きくする絶好のチャンスじゃないかな。
松本 とりあえず、七月二十八日から、八月は西日本各地(名古屋、京都、大阪、奈良、松山、広島、小倉、福岡、熊本)に行きます(「素人の乱」HP参照http://trio4.nobody.jp/keita/)。本の出版記念のツアーを勝手にやろうかなと。各地でデモ申請をしたり、駅前で何かやったり。メーデーもサミットも何もない平和な時に、わざわざ乱を起こしに行くという、迷惑極まりないことで ……。
(2008.5.9 高円寺、素人の乱セピアにて)

松本哉(まつもと・はじめ) 一九七四年東京生まれ。「素人の乱」五号店店主。法政大学在学中の一九九六年「法政の貧乏くささを守る会」結成。翌年「全日本貧乏学生総連合」(全貧連)結成。二〇〇一年「貧乏人大反乱集団」結成。〇五年リサイクルショップ「素人の乱」五号店を東京・高円寺にオープン。「素人の乱」等の名前で「三人デモ」「俺のチャリを返せデモ」など独自のデモを行う。〇七年杉並区議選落選(一〇六一票獲得)。

鶴見済(つるみ・わたる) 一九六四年東京生まれ。主な著書に『完全自殺マニュアル』『檻のなかのダンス』(いずれも太田出版)など。
ブログ “tsurumi’s text”http://tsurumitext.seesaa.net/

雨宮処凛(あまみや・かりん) 一九七五年北海道生まれ。主な著書に『生き地獄天国』(太田出版、ちくま文庫)、『生きさせろ!——難民化する若者たち』(太田出版)など(webちくまで「反撃タイムズ」連載中)。
*なお、この鼎談の別バージョン(後半部)が『貧乏人の逆襲!』特設ページ
http://www.chikumashobo.co.jp/special/binbouninnogyakushu/でお読みいただけま す。
ごらんください。

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