2008年8月、天童さんから連絡がありました。「『悼む人』をやっと入稿することができました。この本を刊行するにあたって、PR誌とWEBで、この作品についての対談を掲載することになったのですが、その相手をお願いしたいと思って」ということでした。天童作品の読者としてだけではなく、『包帯クラブ』を通じて、天童さんの創作活動の伴走者になったと勝手に思っているぼくにとっては、この上ない嬉しい知らせでした。
9月18日、文藝春秋本社で対談は行われました。天童さんは、この『悼む人』の発想から執筆過程について、そして、作品の目指すものについて、熱く語ってくれました。その中で、ぼくが天童さんに送った感想から引用してくれたところもありました。気恥ずかしさとともに、自分の言葉が届くことの歓びを感じることができました。
「天童 松田さんが、単行本用の初稿を読んで、感想を書いてくださったなかにありましたよね。『静人を聖者にしてしまえば、美しい物語として昇華させることはできたでしょう。でも、それでは、人びとの地平を超えた存在に、大事なものを預けることになってしまう。どんなに重くても、担いきれないとしても、あくまで普通の人間として、大事な問題を引き受けていこう、そういう天童さんなりの覚悟が、ひしひしと感じ取れました』と。真意を受け取っていただいて、非常に嬉しかったです。」
刊行日が近づいてくると、「王様のブランチ」でも、「ぜひ、特集を組もう」という機運が盛り上がっていきました。天童さんに提案すると、出演を快諾してくれました。そこで、『悼む人』の刊行直後、11月29日に放送することにして、5日前の25日にロケが行われました。中野匡人プロデューサーや文春の担当編集者・荒俣勝利さんも現場に駆けつけ、インタビュアーには、映画「包帯クラブ」の時にもインタビューした英玲奈ちゃんがやってきました。担当の森隆志ディレクターも緊張の面持ちで撮影を続けていきました。

そして、この創作ノートとは別に、主人公の「悼む」という行為を身をもって感じられるようにと綴り始めた「静人日記」も見せてくれました。これは、毎日、新聞記事やテレビのニュースで見た死者の報道の中から、この人を悼もうと決め、静人になりきって、想像上で体験してみて、それをノートに綴るというものです。この「静人日記」は2005年12月から始めて3年間欠かさずに書き続け、執筆が終わり、本が刊行されたいまも続けているということでした。29日の放送日には、通常の特集ではなく、いつものぼくのコーナー「今週の松田チョイス」(略称・松チョイ)の拡大版「松チョイHYPER」として『悼む人』が取り上げられました。そこで、ぼくは前振りとして「ぼくが21世紀になって読んだ本のナンバーワンです。本当に感動的ですし、いろんなことを考えさせられます」と紹介し、優香さんが「私も読みまして、涙しました」とフォローしてくれました。 見応えのあるVTRが流れ、それを受けて、ぼくが感想を語り、優香さんも、思いのこもった感想を語ってくれました。
「7年かかった重みが、この1冊にあると感じました。私は、なかでも、お母さんの話がとてもジーンときて、お母さんが出てくるたびに、毎回毎回、涙しながら読んでいました。このお母さんはガンという重い病気に罹って、死んでしまうかもしれないのに、周りに対して感謝の気持ちとか、本当に温かくて大きい心を持っているんですね。素敵だなあ、こんな風になれたらいいなあと思いながら読みました。」
ぼくは、最後に、この作品の素晴らしさについて、こう語って締めくくりました。
「重い作品なんですけども、ひょうきんで明るい、面白いキャラクターも出てきますし、お母さんもしょっちゅう冗談を言ったり、明るいところがあります……。そして、最後までいくと、本当に激しくて美しいラブストーリーになる。圧巻です。スケールの大きい、読み応えのある作品です。」
放送後、天童さんからていねいなお礼のメッセージが届き、その後、「王様のブランチ」の出演者、スタッフに宛てて、サイン本と手紙が届きました。
そういえば、天童さんは、ぼくとの対談の終わりの頃に、『包帯クラブ』にふれて、こういう風に語ってくれました。
「発表の順番が逆にはなったけれど、『包帯クラブ』は実は『悼む人』から派生した作品です。人が心に負った傷に対し、重い軽いを安直に分けず、どんな傷もその人の大切な経験として尊重することで、すべての人、すべての生を公平に尊重していくことへもつながるんじゃないかという『包帯クラブ』のテーマは、『傷』を『死』に置き換えることで、そのまま『悼む人』のテーマにも通じています。『包帯クラブ』の方向性をさらに追いかけたいのと同様に、『悼む人』における『死』へのアプローチを見極めてゆく過程で、さらにどんな風景が現れてくるのか、僕自身見てみたいと思っています。」
天童さんは、すでに『包帯クラブ』と『悼む人』、それぞれの先の世界を考え始めていることがわかりました。ぼくも、及ばずながら、天童さんのこれからのチャレンジに伴走できるように、身を引き締めて待機しているところです。
<付記>
この(22)(23)の原稿を天童さんに送り、確認していただいたところ、こういう感想を書いてくれました。
「松田さんが書かれていた今回の対談に際して、事前に『悼む人』の初稿ゲラを読んでもらえたことで、松田さんから表現についての適切な助言をいただきました。その助言を活かす形で筆を加えることができて、『悼む人』は彩りを増したと感じています。自分にとっても、『悼む人』という作品にとっても、松田さんというすぐれた読み手を出版前に得られたことは、とても幸せなことでした。そうしたことも含めて、『悼む人』は、様々な人やタイミングに恵まれた作品と、感じ入っているところです。」
「王様のブランチ」出版情報ニュースへ
- 01「王様のブランチ」から始まった
- 02『永遠の仔』という作品の衝撃
- 03文庫版『家族狩り』が刊行される
- 04『包帯クラブ』が生まれた
- 05さらに成長していく物語
- 06映画化への道が開かれる
- 07製作委員会・ロケハン・脚本
- 08クランクインそしてロケ地訪問
- 09撮影はクライマックス(前)
- 10撮影はクライマックス(後)
- 11「初号試写」を観ることができた(1)
- 12「初号試写」を観ることができた(2)
- 13「初号試写」を観ることができた(3)
- 14堤監督からバトンが返ってきた
- 15コミック化も始動する(前)
- 16コミック化も始動する(後)
- 17完成会見・完成披露試写の日
- 18夜空の試写会 in 大磯高校
- 19映画公開へのカウントダウンが始まる
- 20映画公開と読者からのメッセージ
- 21DVDの発売、韓国での上映・出版などなど
- 227年がかりの大作『悼む人』が完成する(前)
- 237年がかりの大作『悼む人』が完成する(後)


