ぼくは、これまでに400冊以上の本を企画してきました。その一冊一冊には、さまざまな思い出があり、色とりどりのストーリーがあります。それらの物語には、長いものもみじかいものもありますが、どれもぼくにはかけがいのないものです。これから紹介しようとしているのは、そういう物語のなかでも、ぼくにとっては特別な一つ。11年前から始まり、現在進行形で続いている、ぼくと「王様のブランチ」と天童荒太さんの物語です。

「王様のブランチ」から始まった

 この物語は、1996年春から始まります。3月はじめ、TBSのプロデューサー吉田映一郎さんが訪ねてきました。彼は、ニコニコ笑いながら「コメンテーターになりませんか?」と切り出しました。「毎週土曜日、生放送の情報番組『王様のブランチ』が始まります。ついては、映画、音楽、ファッション、旅、食、買い物とならんで、『本のコーナー』も考えているんです」と言うのです。当時、編集長をしていた雑誌「頓智」の売り上げが低迷していたこともあり、パブリシティの役に立てればという気持ちもあって、出演することにしました。
 こうして、現在まで11年近く続いている「王様のブランチ」という番組にレギュラー出演することになったのです。

 スタッフもまったく未経験の4時間半の生番組なので、はじめのころは試行錯誤の連続でした。毎週、それぞれのコーナーは、あっちにいったりこっちにいったり、ガラガラ変わりました。本のコーナーも、朝一番だったり、午後にまわったり、昼前になったり、無しになったり、目まぐるしかったのです。
 そうこうするうちに、「頓智」は休刊になり、ぼくがこの番組に出ている意味は薄れてきました。それと裏腹に、出演そのものは楽しくなってきたのです。番組のかたちも、しだいに整ってきて、本のコーナーは朝一番に定着しました。雰囲気がわかってきたぼくは、その場にあわせてしゃべれるようになってきました。
 そこで、「ぼくの推薦する本を紹介してもいいでしょうか?」とおずおずと提案してみると、思いがけずあっさり受け入れてくれたのです。そのかわりに、「哲っちゃんの気になる一冊!」という気恥ずかしいタイトルをつけられてしまいました。このコーナーは、「哲っちゃんのBOOKナビ!」、「今週の松田チョイス」とタイトルを変えて、現在まで続いています。

 このコーナーで取り上げる本を探すために、いろんな本を読むようになりました。「王様のブランチ」はF1(20歳〜35歳の女性)がメインターゲットの番組なので、この世代にうけている恋愛小説をはじめとする女性作家の作品を意識的に読むようにしたり、時々のベストセラーや話題作に目配りしたりと、それまでよりも読む本の範囲が広がっていきました。おかげさまで、ぼくの読書生活はどんどん充実していったのです。
 さらに、ここで取り上げる本を、司会者、出演者、アナウンサー、レポーターなどの皆さんにも読んでもらうようになりました。彼らと本の感想を語り合ううちに、親しくなることができました。また、取り上げた本の作者の方たちと、編集者として仕事をする機会もふえるようになりました。