映画「包帯クラブ」の試写もエンディングにかかっています。町中のあちこちに巻かれた包帯のカット、それが世界各地の風景の中に巻かれた包帯のカットに連なっていきます。この場面では、天童さんのメッセージが端的に表現されていますし、なによりも、世界のいろんな場所に巻かれた包帯の白さと揺らめくさまを見て、「綺麗だなあ」と思いました。
すると、その横にエンドロールが流れはじめました。「企画」の中に「松田哲夫」の名前も並んでいます。その時、この素晴らしい映画に関われたことを誇らしいと思う気持ちがこみ上げてくるとともに、また涙が溢れてきました。
初号試写の上映が終わって会場が明るくなったとき、涙を拭いながら、まわりに眼をやると、天童さんはじめ試写を観ていた人たちみんなが、心底満足したような表情を浮かべていました。その場の空気が和み、温度が上がっているようにも感じました。そのうち、あちこちから、「よかったよ」、「泣いちゃったよ」という声も聞こえてきます。
あとで聞いたところでは、この初号試写で「あれっ」という感じだったり、「よくないなあ」という印象だったりするときには、雰囲気が一気に暗くなるそうです。そして、その後の製作委員会は責任のなすりつけあいになりがちだということです。そうでしょうねえ、もう後戻りできない所まで来ているのですから。
天童さんは、堤監督の姿を見つけると、近寄っていって感想を話しています。
「本当に素晴らしかった。押しつけがましくない感動が積み重なってきているので、全体としては、人が生きていくということの美しさが、大仰にではなく軽やかに、でも深く、誠実な感じで伝わってくる。こんな映画はちょっとないと思います。原作者である前に、一個人として、本当に素晴らしい映画を見せてもらったと、全身が熱くなってます。この映画の原作者であることが誇りだし、幸せです。」
出演者たちも二人のまわりに集まってきました。石原さんは「わたし、ラスト近くで泣いちゃいました」と上気した顔で語ってくれましたし、柳楽くんも感慨深げな表情をうかべていました。
エンディングテーマを歌っている高橋瞳さんが、さんざん泣きはらしたという感じの表情で「泣いていました」と呟くと、堤監督が「現役(高校生)に泣いてもらうのが何よりですね」と嬉しそうに応えていました。天童さんは彼女に、「元気の出るとってもいい歌です。さびの部分が耳のなかでずっとリフレインしています」と話しかけていました。
堤監督に、「いまは、どういう気持ちですか」と尋ねると、「色のことを気にしたり、『あ、ここちょっと編集早かったかな』と思いだすともうストーリーがわからなくなっちゃう。早く、一切のそういう呪縛から解き放されて客になって見たいんだけど、もしかしたらまだ直せるかもと思っていると、いけないところを発見する方にまわるんですね」との返事が返ってきました。なるほど、どこまでも作品の仕上がりにこだわり続けるんだなあと、その徹底した職人気質に感心しました。

現像所から外に出ると、雨はすっかり上がっていました。帰り道、「さあ、これからは我々の出番だな」と、自らを励ますように呟いた中野さんの言葉が印象的でした。そうなんです。多くの人たちに、この映画の素晴らしさをわかってもらいたい。そのためには、ぼくたちを含めて、製作委員会に参加している各社は、それぞれの得意領域をいかしながら努力していかなければならないと、あらためて思ったのでした。
その日は、家に帰って、さっそく感想を書いておこうとパソコンに向かったのですが、興奮醒めやらず、言葉がでてきません。こうして、文章にまとめることができたのは二日後のことでした。天童さんの感想をチェックしてもらおうとFAXしました。すると、返信の空白に、次のような言葉が書かれていました。
「読んでいて、あらためて余韻にひたりました。いっぱい人と話したくなる映画になっていますよね。『また観たい、すぐ観たい。何度でも観たい』と思い、『このつづきも観たい』と思って……アッ……それは自分か……と思い、微苦笑しました。この映画で、多くの観客にバトンが渡ってゆくでしょうが、その一方で、また第一走者のところへも、バトンが戻されてきた印象です。 荒太」
- 01「王様のブランチ」から始まった
- 02『永遠の仔』という作品の衝撃
- 03文庫版『家族狩り』が刊行される
- 04『包帯クラブ』が生まれた
- 05さらに成長していく物語
- 06映画化への道が開かれる
- 07製作委員会・ロケハン・脚本
- 08クランクインそしてロケ地訪問
- 09撮影はクライマックス(前)
- 10撮影はクライマックス(後)
- 11「初号試写」を観ることができた(1)
- 12「初号試写」を観ることができた(2)
- 13「初号試写」を観ることができた(3)
- 14堤監督からバトンが返ってきた
- 15コミック化も始動する(前)
- 16コミック化も始動する(後)
- 17完成会見・完成披露試写の日
- 18夜空の試写会 in 大磯高校
- 19映画公開へのカウントダウンが始まる
- 20映画公開と読者からのメッセージ
- 21DVDの発売、韓国での上映・出版などなど
- 227年がかりの大作『悼む人』が完成する(前)
- 237年がかりの大作『悼む人』が完成する(後)



