初号試写を見る事ができた2

 8月6日、午後5時、ぼくは東京駅から東海道線に乗り込み、大磯を目指して出発しました。今日、大磯高校で「王様のブランチ」のロケがあるのです。そもそも、この番組の映画コーナーで、「『包帯クラブ』の試写会を学校で開きませんか?」という告知をして、それに応募してきた全国の学校の中から、神奈川県立大磯高校が選ばれ、この日に試写会を中心としたロケが組まれたのです。
 前日に送ってもらったスケジュール表を見ると、スタッフはすでに午前7時にTBSを出発し、9時頃から作業を開始しているようです。谷原章介さんは昼頃に学校に到着して、先生や生徒たちと交流しながら、学内の様子を撮影していくようです。
 夕方5時過ぎぐらいから、谷原さんと生徒たちが「悩んでいること」などを話し合うことになっています。ぼくとしては、できれば、このあたりから見学したいと思っていました。この日は、あらかじめスケジュールがかたまっていました。午前中は筑摩書房の役員会、午後は新潮社で作家の島本理生さんと「波」の対談。その後、会社で短い打ち合わせがあって、やっと大磯に出発できることになったのです。
 大磯に到着すると、タクシーで高校まで向かいました。正門には、本コーナーの坂本ディレクターが待機していてくれて、本部へと案内してくれました。谷原さんと生徒たちのミーティングが続いているというので、その教室に行ってみました。この学校は、教室のすぐ横は海岸なので、窓から海原が見えるという素敵なロケーションにあります。谷原さんは、生徒たちの言葉に真剣に耳を傾け、自分の若いときの体験などをまじえながら、彼らの問いに答えていました。その様子が、まさに熱血教師ドラマの1シーンのようでなかなかいい絵になっていました。
 ぼくが、その様子をカメラに収めていると、本当の先生とおぼしき人から、「きょうのことは、松田さんが書いている『ブログ』というか連載にのるんですか?」と尋ねられました。こんなところで、ぼくの文章を読んでいる人に出会うとは予想していなかったので、慌てましたが、実はこの人が、今回、応募の手紙を書いた、理科を教えながら水泳部の顧問も務めている相川和俊先生だと分かりました。
 校舎の間にある中庭には、すでに鉄骨が組み上げられ、スクリーンが設置されています。しだいに夕闇が迫ってくる中、三々五々、生徒たちが集合してきました。その様子を眺めているスタッフの中に、TBSの植田プロデューサーの顔も見えました。彼は、随分前から「映写機担いで、高校行って映写して廻りたい」と話していましたので、こうして、学校試写会が実現して嬉しそうでした。声を掛けると、「本当は缶ビール片手に映画を見たいんですよ。でも、学校だから駄目って、言われちゃった」と苦笑いしていました。
「ブランチ」のスタッフはきびきびと動いています。映画の撮影もそうですが、作品を創りだす現場の緊張感というものは何度体験してもいいものです。相川先生をはじめ、学校側はあくまで裏方にまわり、現場の進行など一切を番組スタッフに任せているのも潔くて気持ちいいものでした。
 夕闇が迫る頃、中庭に集合した約300名の高校生の前に、まず映画コーナーのコメンテーターであるLiLiCoさんが登場しました。元気いっぱいの挨拶で場の雰囲気を盛り上げたところで谷原さんにバトンタッチし、彼が映画の紹介をしてくれました。映画に先立って、石原さとみさん、堤幸彦監督によるスペシャル・ビデオメッセージが流れました。石原さんが「大磯高校の皆さん……」と呼び掛けると、会場からは大きな歓声があがりました。約半世紀前、小学校の夏休みの行事として行われていた校庭での映画会を思い出しながら、芝生に腰掛けて映画を見ようとしていると、相川先生が「また泣くんですか?」と尋ねてきました。「ええ、なんだか我が子のような気がして、元気にしている姿をみるとホロッとくるんですよ」と答えました。
 今回で4回目になりますが、相川先生の予想通り、気持ちいい涙を流しながら映画を見ていました。時々、空を見上げると、遠くに飛行機が飛んでいたり、スクリーンの前に蛾が飛んでいたり、野趣に富んだ映画会を満喫できました。
 高校生たちは、真剣に画面を見つめ、ひょうきんな場面では声をあげて笑い、シーリアスなシーンでは目元が潤んでいる人もいるようでした。映写終了後、谷原さんやスタッフが生徒たちに感想を聞いていました。皆さん、一様に「良かった」「いい映画だった」「考えさせられた」と賞賛の声をあげてくれました。それらの声に耳を傾けていると、感想を言うポイントが一人一人違うということがわかりました。中でも、「自分たちの問題を親や先生に頼らないで自分たちで解決できないか、って思っていました」という意見には、まさにこの年代ならではの視点が感じられました。そして、「どこに包帯を巻きたいですか?」という質問に「中学校の廊下にあった消火栓。その前で、友達と仲違いして、まだ仲直りできていないから」とうっすら涙を浮かべていた女子生徒の姿が印象的でした。1本の映画が、この感受性豊かなハイティーンの心にどのように映り込んでいったのか、もっともっと知りたいと思いました。

 この日の様子は、9月1日の「王様のブランチ」で映画コーナーの特別バージョンとして20分余の番組として流されるそうです。「ブランチ」にとっても、これまでに例のないことですし、1本の映画を核に、こういう番組をつくるなんてそうそうあることではないでしょう。中野プロデューサーは「ここまでやっていいんでしょうかね。視聴率が心配だ」と笑っていました。