映画公開と読者からのメッセージ

 映画のロードショーが始まる9月15日がやってきました。土曜日なので「王様のブランチ」です。本のコーナーでは天童荒太さんのインタビューのVTRを流し、ぼくが短いコメントを付け加えました。出番が終わると、スタジオで映画の出演者たちの登場を待ちました。時間になると、柳楽優弥くん、石原さとみさん、貫地谷しほりさん、田中圭くん、関めぐみさん、佐藤千亜妃さんという出演者が揃って登場し、スタジオは一気に華やかな雰囲気に包まれました。各自が映画のこと、ロケのことなどを活き活きと語ってくれました。堤監督について語ったとき、田中くんが、妙に批判的なことを口にし、それに続いてVTRで話していたと思われた監督が、実はスタジオの外にいて乱入するというサプライズがありました。この仕掛けを知っていて、そういう役割を演じた田中くんは、「ぼくだけ悪者になって」とぼやいていました。
 映画コーナーが終わると、出演者たち、製作委員会メンバーとともにバスで丸の内東映へ。東映本社の屋上にある神社でヒット祈願をした後、第1回の上映後に出演者、監督、原作者による舞台挨拶がおこなわれました。ひとりひとりの挨拶は、心がこもった、思いがあふれているものでした。その後、会議室に集合し、乾杯をしました。「前売り券の販売が今ひとつ芳しくない」という情報もあり、一同、やや緊張気味に歓談していました。

 15日~17日の三連休があけたところで、製作委員会から興行成績の第一報が届きました。残念ながら、公開直後の成績は芳しくないとのこと。類似の映画と比較して予測した最終興行収入は、最低目標金額を下回っていました。その時のぼくの気持ちは、「いい映画ができたことをよろこばなくては」、でも「出演者たちの素晴らしい演技、そして、プロモーションでの八面六臂の大活躍に報いてあげたかった」というものでした。そのうちに、オフィスクレッシェンドの神さん、「ブランチ」の中野プロデューサーから「天童さんに申し訳ない」とのお詫びの言葉が届きました。それを天童さんに伝えると、次のようなメッセージが返ってきました。
「謝ることはないです。原作者が誇りに思える映画なんて、そうそう作られるものではありません。……価値観の変化を促すものを、多くの人が受け入れるのには時間がかかります。受け入れようと行動するには、宣伝だけでは無理です。やはり人です。人の心のこもった言葉です。映画を観た人々が、これから多くの人を動かします。それを楽しみに待っていましょう。……数字はもちろん大事ですが、数字でははかれないものもありますよね。大丈夫です。我々のクラブは、胸の張れる仕事をしました。」
 天童さんの言葉にとても励まされました。それでも、今ひとつ気は晴れませんでした。そこに、「週刊新潮」の「『包帯クラブ』大コケ」という記事が出ました。この記事は、「興行収入を15億と見込んでいた」と数字をふくらまして書いていました。この記事を見て、再び落ち込んでいましたが、あえて現実を見据えなければと思い、インターネットで「包帯クラブ 大コケ」と入れて検索してみました。すると、トップに「ホントに大コケ?『包帯クラブ』がランキング1位に」という「映画生活」というサイトが載っています。さっそく見に行くと、「満足度83点をマークしてランキングトップに」と書かれています。「ブランチ」の映画コーナーのスタッフに聞くと、このサイトはしっかりした情報源としてよく参考にしているとのことでした。また、「ぴあ」の満足度ランキングも参考になると教えてくれました。そこで、9月15日公開のランキングを見に行くと、「満足度89.3点」で『ポター』に次いで2位にランクインしていました。
 その頃、筑摩書房のHPで「読者からの感想」をUPしている係から、「映画公開前後から書き込みが増えてきている」との連絡をもらいました。さっそく、そのページを読んでみると、自分の傷と向き合った人たちの、それぞれに思いのこもったメッセージが並んでいました。ぼくは、一つ一つ読んでいくうちに、涙があふれてきました。そして、興行成績について思い悩んでいた自分が恥ずかしくなりました。素晴らしい映画作品ができ、それがきっかけとなって、これだけ深く広く『包帯クラブ』の世界は広がっていったのだ。だから、この映画化プロジェクトは、ぼくたちにとっては大成功だったと確信できました。
 天童さんに、読者のメッセージを伝えると、すぐに返事が返ってきました。「いやー、まいりました。読み進めている途中で、泣いてしまいました。こんなにもちゃんと届くのだなぁとあらためて感動します。人は、そして読者は、信用できますね。こちらが信頼すれば、きっと信頼を返してくれます。」そして、読者からの感想ページに掲載する天童さんの熱い思いがこもったメッセージを送ってくれました。
 映画化に向けて動き出してから1年余、いろんなことがありました。でも、大事なバトンは多くの人に手渡され、そして、それは再びぼくたちのもとにも戻りつつあります。この長い長い旅はまだ続いていくのでしょう。そのために、ぼくたちにはやるべきことがあるんだと気持ちを引き締めています。