さらに成長していく物語

『包帯クラブ』が完成した直後、映像化について天童さんの意見を伺いました。すると、「この作品には、映画化、ドラマ化の話がくると思いますが、どんな人が撮っても、このテーマやメッセージがきちんと伝わっていくだろうと確信しています」と語ってくれました。ちなみに、『永遠の仔』は、あの長大なストーリーを映画の上映時間に切りつめられるのは困るので、一切、映画化は断ったそうです。そして、鶴橋康夫演出、よみうりテレビ制作のTVドラマが作られました。このドラマは、重く暗い物語である原作のテイストを尊重しながら見事に映像化していて、小説の読者にも好評でした。
『包帯クラブ』が刊行されると、案の定、映像化のオファーが相次ぎました。最終的には十数社が名乗りを上げました。ぼくは、これまで担当した本が映画化、ドラマ化されたことも何回かありましたが、こんなにたくさんの会社からお話を一遍にいただくというのは前代未聞のことでした。映像化の窓口を任された筑摩書房としては、企画書を提出してくれた各社に誠実に対応していきました。しかし、時間とともに、さまざまな理由でおりる会社が増えていったのです。
 それぞれの会社から企画書などを出してもらっているとき、そのことを「王様のブランチ」の中野匡人プロデューサーに話しました。すると彼は「TBSも手を挙げさせてもらっていいでしょうか?」と尋ねてきました。「もちろん」と答えると、彼はさっそくドラマのプロデューサーである植田博樹さんに相談しました。
 しばらくすると、植田さんから「企画書」が届きました。その企画書は、オファーしているどの社のそれとも異なっていました。常識的に言えば、企画書と呼べるものかどうか疑問を抱かれかねないものでした。そこに書かれていたのは、ほとんど植田さん自身の少年時代の「心の傷」についての思い出でした。この型破りな企画書を読み終わったとき、天童さんは「映像化はこの人に任せてもいい」と断言しました。
 植田さんは、TVドラマの枠をすぐに押さえるのは難しいということで、「まず映画から」と考えました。監督の第一候補に、「TRICK」や「明日の記憶」を撮った堤幸彦さんをあげていました。熱心に映画化を進めている数社のなかでも、とりわけ熱心だったのがオフィス・クレッシェンドの神康幸さんでした。実は、堤監督がこの会社の所属だということがわかったので、この二つのプランをつなぎ合わせられないかと話し合ってもらいました。その結果、とんとん拍子に企画の一本化が進んでいったのでした。その後は、この二人が軸となって具体化に向けて走りだしたのです。
 具体的に制作にとりかかるためには、制作費を出資してリーダーシップを発揮する会社が必要です。神さんは、電通に相談したところ、「ぜひ、参加したい」との意向だったので、製作委員会の幹事社を引き受けてもらうことになりました。また、神さんは、脚本担当として森下佳子さんに白羽の矢を立てました。森下さんは、「世界の中心で、愛をさけぶ」、「白夜行」など青春ドラマの脚本家として、その力量が高く評価されている人でした。
 そうこうしているうちに、植田さんから朗報がもたらされました。彼と神さんは、ディノ役に、「誰も知らない」でカンヌ映画祭主演男優賞を最年少で受賞した柳楽優弥さんをイメージしたそうです。さっそく所属プロダクションに接触したところ、ご本人はすでに『包帯クラブ』を読んでいて、「ぜひ出演したい」と答えてくれたということでした。
監督、主演男優、脚本家と決まっていくと同時に、次々にキャストもかたまっていきました。ワラ役には石原さとみさん、タンシオ役には貫地谷しほりさん、ギモ役には田中圭さん、テンポ役には関めぐみさん、リスキ役には佐藤千亜妃さん。それに、ワラの母役に原田美枝子さん、テンポの母役に風吹ジュンさん。