さらに成長していく物語

 映画「包帯クラブ」の製作委員会メンバーも確定していきました。映画製作全般とパブリシティを担う幹事社には電通、それに「王様のブランチ」のTBS、配給の東映、柳楽さんの所属するSDP、石原さんの所属するホリプロ、それにオフィス・クレッシェンドでした。製作費の出資配分も決まりかかったころ、「筑摩さんはどうしますか」と神さんから打診がありました。
 ぼくたちとしては、出版を通じて協力するのが本筋だと思い、当初は出資するつもりはまったくありませんでした。しかし、各方面に話を聞き、社内でも検討を重ねた結果、少額でもいいから出資しようということに決定しました。そこで、オフィス・クレッシェンドがもっていた出資枠から、一部を提供してもらうことにしました。
 この出資は、映画で儲けようということではなく、あくまでも、自社のコンテンツである原作『包帯クラブ』を大事にするためというのが第一の理由でした。つくられる映画、そして宣伝方法などが、この作品の世界を逸脱していないかどうかを、きちんと見つめていたいということです。
 天童さんの映画化に際しての注文はただ一つでした。それは、この小説の「現在」、高校生たちの物語は、いかように拡げてもらっても構わないけれど、「未来」は本に書いている以上にふくらまさないでほしいということです。彼としては、まず、いまの時代に、若者たちが包帯を巻くことの意味を大事に描いてほしいという思いがあるようでした。さらには、いずれ「現在」から「未来」に向かっていく物語を書きたいとも思っているようでした。最初に映像化のオファーをしてきた会社の多くは、大人になったワラやディノを中心に描こうとしていました。一方、植田さんプラン、神さんプランはともに青春映画として撮りたいというもので、そういう意味でも天童さんの意向に副ったものでした。
 こうした映画化の基本方針を踏まえて、森下さんは脚本執筆に取りかかりました。しばらくして、第一稿が届けられました。原作を忠実に再現しているところもあり、オリジナルな表現もありました。天童さんの感想は「ぼくの伝えたいメッセージはきちんと伝わっています。だから、あとは自由にしてもらっていいです」というものでした。そして、原作にはない場所に包帯を巻くシーンには「そうか、こういうイメージいいなあ。次の小説で使おうかな」とつぶやいていました。
 ぼくの読んだ印象も同じようなものでした。何よりも、小説から映画にバトンが渡ったという手応えをしっかり感じました。その感想を植田さんに宛てて書きました。
「植田さん、神さん、森下さんの熱い思いが行間から感じられました。どうしても原作と比べて読んでしまうので、最初は、その違いばかりが気になっていました。しかし、読み進むにつれて、しだいに独自の世界が見えてきて、読みながら、何度も目が潤ってきました。小説では、モノローグで心理描写がきめ細かく描かれていました。シナリオでは、セリフと身振りでそれを表現しようとしています。その努力はよくわかりました。柳楽優弥さんのような優れた役者さんが演じることで、より印象的な作品になるだろうと感じました。」
 出産を控えていた森下さんとはお目にかかることはできませんでしたが、この作品を通して、しっかりと絆が結ばれているという気持ちはありました。12月になって、森下さんが無事出産されたという情報がもたらされました。いのちをいつくしむ物語を世に送り出していこうとしているとき、新しいいのちが生まれ出てくる。それは、この作品が特別な祝福を受けているという風にも感じられました。
 一方、監督やプロデューサーは、すでに各地へロケハンに出かけていました。その中から、最適のロケ地として高崎が選ばれたという情報も入ってきました。高崎市も全面協力を約束してくれたということです。そして、堤監督から、クランクイン前に主要な出演者たちと現地で合宿をしたいという提案があり、12月もおしつまったころに実施されました。こういう合宿は、あまり例のないことだそうです。