さらに成長していく物語

 2月3日(土曜日)の朝、いつものようにTBSに向かう。「王様のブランチ」に出演するためです。今日、ぼくの「松田チョイス」で取り上げる本は、岸本佐知子さんの『ねにもつタイプ』。自分が編集した本のことを話すときは、少々気恥ずかしいのですが、読んでくれた優香さんも、楽しそうにコメントしてくれたのでホッとしました。実は、この本も「王様のブランチ」が縁でできたものです。2000年に『気になる部分』というエッセイ集を読んで、その類のない面白さに魅了され、番組で紹介しました。その後、お目にかかって仕事をお願いしました。2002年になって、ようやく「ちくま」の連載が始まりましたが、毎回4・5枚なので、なんと5年間の連載でやっと1冊にまとまったというわけです。
 ぼくの出番が終わると、スタジオの隅にいる中野プロデューサーと「包帯クラブ」について話します。ここ半年ぐらい、こういう立ち話が続いています。中野さんは植田プロデューサーの動き、TBSのスタンスなどを教えてくれます。ぼくは、天童さんの意向、筑摩書房の構え方などを話すのです。実は、こういうかたちでの情報交換から、映画化への道がスムーズに開けていったのでした。
 ぼくが、「これから『包帯』の撮影見てきます」と話すと、「いいなあ、ぼくは番組があるから行けないんだ」と残念そうです。彼は映画のエグゼクティブ・プロデューサーなのですが、順調に撮影が進行しているので安心して現地スタッフに任せているようでした。
 控え室に戻って、ロケ地用のラフで暖かい服装に着替えました。打ち合わせ中のLiLiCoさんに「高崎に行ってきます」と 声をかけると、「あっ、『包帯クラブ』ね。小森さんが行ってるんじゃない」と元気な声が返ってきます。映画コーナーの小森ディレクターは、この映画のメイキングを「ブランチ」で放送するので、カメラを回しているそうです。今回は1月29日から4日まで泊まり込んで撮影しているとのことでした。映画「包帯クラブ」に「ブランチ」が伴走している、それが、何とも頼もしい感じです。
 本のコーナーのディレクターと簡単な打ち合わせをした後、タクシーで東京駅に向かいました。きょうは、筑摩書房の販売促進部の小島君が同行してくれます。本の販促を含めて、映画のパブリシティをどのように展開するかという会議も始まっています。彼は、そこに参加していることもあり、「一度、現場を見たい」と話していたからです。

 この日の撮影は、まさにクライマックス・シーンになるとのことでした。天童さんは、前回のロケ地訪問がとっても楽しかったようで、「3日に行きますよ」と伝えると、行きたそうな素振りを示しました。現地スタッフの期待感は高まったのですが、ご本人は3日が近づくにしたがって、「原稿の締切があるので」とトーンダウンしていきました。「どうしてですか?」と聞くと、「あまり原作者がちょろちょろしない方がいい」という答が返ってきました。「映画のことは任せた。きっと素晴らしいものになるだろうから、見るのを楽しみにしている」というのが彼の本意なのだろうと推察しました。
 出かける前に堤監督の書いているブログを覗いてみると、撮影は順調に進んでいるようです。1月10日「今日から北関東のある都市で新作映画の撮影に入る。とても爽やかないい話だ。自然体でがんばりたい」、12日「なかなか新鮮な発見が多い。これもすばらしいキャストと土地(ロケ地)の魔力か……」と書いてあります。天童さんとロケ地を訪問した16日には「毎日美しい空の下、撮影快調です。爽やかで、でも存在感ある作品にしたいのです」。さらに、19日「若い俳優のみなさんは毎日違う表情を見せてくれて、とても新鮮で強烈で、その表情を見ているとアイデアが湧いてくる。それがこの作品の原動力だ。僕の仕事は監督というよりもクラブのおせっかいな顧問といったカンジだが、とにかく楽しんでいる」、22日「毎日『いい画』ゲットしてます」、26日「今日全てのカット割りを終える。なんだか先が見えた。どんどん楽しくなる!」とありました。
 ぼくたちは、高崎に着くと、徒歩で市庁舎に向かいました。きょうは快晴、風もなく暖かい天候です。市庁舎は21階なのですが、この町にはあまり高い建物がないのでそびえ立って見えます。近づくと、市庁舎前の公園に、堤監督がいる青テントがありました。製作委員会メンバーである電通の日枝さん、兵頭さん、TBS映像事業部の大岡さん、オフィス・クレッシェンドの神さんなどの顔が見えます。少し離れたところで「シーン141」の撮影がおこなわれています。このシナリオは全部でシーン177までですから、かなり終盤まできていることがわかります。