松岡正剛 編集工学者

 二冊は歴史を通観する。網野善彦の日本史ものはたくさんあるが、これは小さなセミナーで語ったもののせいか、きわめてわかりやすい。決して文章がお上手ではなかった網野さんの真骨頂が如実に伝わってくる。マッハの『力学史』はチョー古典。これを読まないではニュートンからの脱出はない。途中、アインシュタイン理論の先取りにさしかかるところが圧巻。
 次の二冊は時代のテキストや世の中の現象をどう裏読みするかというお手本。ソンタグのキャンプ論、丸山の古層論がみごとな裏読みの手口を見せてくれる。「意味の意味」をさぐるところに照準があたる。
 五冊目は極上だ。定家の『明月記』を堀田が淡々と読みすすむという恰好になっているのだが、その接しかたがたまらない。馥郁というか、愛玩というか。しかし決然たるものがある。「惜読」という言葉を進呈したいほどの名著だと思う。


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