【第3章より】

茂木 僕はこれからの時代における個人と組織の関係は、所属というメタファーではなくてアフィリエイト(連携)というメタファーでとらえるべきだと思っています。そんなことをある時に思いついて、気が楽になったんですよ。日本人って所属が大事だと考えがちですが、いまは個人として屹立するためのインフラがネット上にちゃんとある。昔であれば、たとえば梅田さんがコンサルティング会社にいるなら、その組織をバックにものを書いていた。どこどこ会社の誰々です、と説明して初めて個人として信用してもらえる。ところがいまはURL、ブログがあればいい。ネット上でのプレゼンスがその個人を支えるインフラ。それを見てもらえばどういう人かわかるから。僕はいろいろな人に「これからは、個人の信用はネットで保証すれば良い。誰が最初にそれに気づくか。それに気づいた人がこれからは輝くよ」と言っています。つまり、ある組織に所属するということで完結している人は、これからは輝かない。

梅田 同感。一〇〇%同感(笑)。

茂木 個人が組織に所属しているという考えはもう古い。勤務規定とかがあるとして、人事の人たちの顔をつぶしてはいけないから、積極的に反逆することはしないほうがいい。でもそんなことで自分の行為をがんじがらめに縛ったら、これからのネット時代に輝けない。組織と個人の関係を皆がうまくやらなければ日本は活性化しない。組織が大事だと言うならば、シリコンバレーとは違う、日本的な表現があっても良いのです。七割は会社なんだけど三割は個人、そんな考え方もアリだと僕は思っている。

梅田 リアルとウェブの二つの別世界を創造的に行ったり来たりする生き方にも通じる考え方ですね。

茂木 七対三の三がウェブ世界の人格ということはあるんですよね。いま、誰かに会うときに、その人がどういう人かと調べようと思ったら、グーグル上に現れる時価総額みたいなものが、その人のヒット数がどれくらいあるかで、だいたいわかりますよね。肩書きよりも。

梅田 そうそう。そういう意味で、自分の分身をネットに置いてあると。分身がそこで表現活動をしていくみたいなことというのは、僕は組織に勤めている人が匿名でやってもいいと思うんですよ。実際にそうやっている人もけっこういるし。

茂木 日本型組織によくある妙な決まりごとだとか、そういった些事にリソースを使うというのは、ヘルシーじゃないですよね。

梅田 その点は日本特有の問題ではなくて、組織というものの持つ普遍性だと思うんですよね。日米の組織がどのぐらい違うかというと、アメリカの組織もとんでもないからなあ……。だから僕は、大学も含め、組織には絶対に属さない。自分で事業をやり始めてそろそろ一〇年になるので、もうそういう生活が染みついちゃった。

茂木 僕がアフィリエイションという言い方をしているのも、日本の組織風土のもとではアフィリエイションという言い方自体に、教育的というか示唆的な機能があると思うからなんです。
 ところで、ネットが消えてなくなることはありえない。では、人間とネットはこれからどう共生していくか。もう後戻りはできないと思うんだけど、でもときどきネットがなかった頃は平和だったなあと思うこともありますよ。梅田さんはないですか?

梅田 ありますよ。

茂木 それでももう絶対後戻りできないというか。

梅田 もう後戻りはしない。そこでリテラシーを持って生きのびる術をそれぞれの人が身につけなければいけない。

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