梅田望夫・茂木健一郎刊行記念対談「始まりとしての『フューチャリスト宣言』」

梅田望夫・茂木健一郎 刊行記念対談対談風景

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「茂木→ネットに引きこもる」「梅田→リアルに還る」!?

【梅田】 茂木さんとの対談を実際にやってみる前は、実は、「ウェブ」が話題の中心になるとは思っていませんでした。もっと脳の話や、創造性、理系・文系といった話になると思って対談の場所にやってくると、いつのまにかネットの話になっていて、あるときからは、茂木さんがそっちのほうに走り出し、僕もそれについていった、という感じです。

【茂木】 梅田さんとの対談は、大きく言うと、自分の生き方を変えるきっかけになったと思います。僕は「クオリア」ということを言っていたから、現実的でない男とずっとみなされてきました。その一方で、非常にプラクティカルなところもあって、新しい道具(ガジェット)は使いたいし、アップルやグーグルが代表するITに対してものすごく熱狂的だったけれど、ユーザーにとどまっていて、そういう志向性を自分の生き方にあまり反映させてきませんでした。それが、これからは少し変わるかもしれません。

【梅田】 僕の方は、あと1年くらい、どうしても今の延長線上でやらなければいけないことがあるんだけれど、そのあとはリアルに帰ってこようかなと思ってみたり。つまり、とりあえず今、ネットにこもるという実験が続いていて、この延長上でいくつかやらなければいけない仕事が自分の頭のなかにあるんですけど、それを終えたところで、自分のテーマ、専門をもうちょっと広げて遊んでみる。対談を通じて、茂木さんはこれだけお忙しいなかで、興味の発散の度合いが僕よりもうんとおありになる方だなということを感じました。

【茂木】 僕は逆に、これから「クオリア」と「偶有性」のテーマに集中しようという感じもあるんですよ。

【梅田】 集中したり、発散したりのサイクルがある。

【茂木】 僕と梅田さんが途中でクロスするかも(笑)。
『フューチャリスト宣言』で梅田さんと対談して、ネットの使い方をいろいろと考えた中で生まれてきたビジョンというのは、偶有性という概念を実証的にあとづけながら書く本をやってみたい、そこから意識の起源というものに至るようなものをつくってみたいということなんです。

【梅田】 それは、現代版「種の起原」の第一歩ということですか。

【茂木】 そうです。僕の課題は、そのために、日本でのいろいろなしがらみ、密度をいかに薄くしていくかということです。もう少し暇にならないと駄目だな。梅田さんとは逆に、リアルとの結びつきを小さくしていこうと思っています。ネット引きこもりをしないといけないかなと。今は本当にネット上の情報の質が高くなっているから、例えば偶有性の問題について、1日8時間本気で関連情報をあつめつづけて1年経てば、1年後には、凄い本ができる。そういうオポチュニティがある。それに一刻も早く気付いた人が勝ち。そういう情報を1万もあつめてきて、そこから見えてくることをパッととらえて論文なり本を書いたらとてつもないことができる。それが梅田メソッドですね。

【梅田】 僕の場合、少し前までは、インターネット空間で何が起きているかとか、グーグルとは何ぞやということをテーマとしてやっていて、それを終えて本(『ウェブ進化論』)を書いて、こんどはその本をアンカー(錨)として集まってくる情報を読むことに、この十数ヶ月没頭していました。あと半年くらいでその仕事を終えたら、リアルに帰ってこようかな、と。たとえば、ブログで知り合った人の住んでいる地方、全国をまわる。一県一人みたいな感じで。

【茂木】 梅田望夫の「ウェブの細道」(笑)。

【梅田】 そういうことをずっとやらないできたんですよ。この10年、効率を追求してきて、それで逆に、偶有性が足りないなと思ったんですよ。

【茂木】 実人生において。

【梅田】 ネットでも、テーマや自分の専門を先に決めたなかでの偶有性だった。

【茂木】 ある目的志向のレギュラーなものとそうでないものの配分比率が重要なのであり、梅田さんは、もうちょっとレギュラー以外のものの配分比率を増やそうと思っていらっしゃるわけですね。

【梅田】 そこから何か違う発想が生まれてくる。だから、行ったり来たりするというのは大事なんじゃないかな。
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