梅田望夫・茂木健一郎刊行記念対談「始まりとしての『フューチャリスト宣言』」

梅田望夫・茂木健一郎 刊行記念対談対談風景

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「知」とは何のためにあるのか

【茂木】 ネットが明らかにしたことは、ミクロなデシジョン・メイキング(意思決定)の積み重ねということだと思うんですよ。クリックするというのは意思決定ですから、あるものを選んだ瞬間に、選ばなかった方の人生のドアが閉じるというか。

【梅田】 能動的決定の連続ですよね。

【茂木】 そのときに、どういう意思決定をするのかということが、自分の人生を変えてしまう。

【梅田】 実人生にくらべて高速に可能性の選択をするわけですよね。1分間に10回とか。

【茂木】 今日なんて、仕事をしている最中に「エベレストで遭難した」というニュースを知って、それから30分くらいエベレスト登頂について調べてしまいました。それによって、私の人生が変わるかもしれない。ネットでのマイクロ・デシジョン・メイキングの積み重ねによって。

【梅田】 でもね、そこの意思決定をリアルにもどすことが大事。

【茂木】 わかります。僕も結論をそこにつなげようと思っていました。ネットのデシジョンとリアルのデシジョンを有機的に結び付けないと意味が無い。

【梅田】 ネットとリアルを創造的に行き来する。

【茂木】 おお。素晴らしい着地点が。

【梅田】 バーチャル経済圏の問題もそうで、アフィリエイトで5万円入ったというようなことだけでは、それは局所的だと思うんですよ。ネットで得た経験によって、リアルに帰ってきて職が変わったとか、そこまで行って初めて完結する。インターネットの空間というのは、無償の、触媒的な、リアルで生きるうえでのとんでもなく有効な道具なんだけれど、それ自体が生む経済的価値は比較的小さいままずっといくだろう。アフィリエイトやアドセンスは経済的価値がゼロでないから、それにわくわくするという気持ちもわかるんだけれど、実はもっと大きいのは、リアルの側にもどったときに、自分の実人生がどう充実してくるか。

【茂木】 情報を収集するというメタファーを超えたインターネットの意味をもっと伝えないといけない。

【梅田】 それを、『フューチャリスト宣言』に収録した中学生への講演では「もうひとつの地球」の創造という言い方で表現しました。その具体像と、リアルの地球と行ったり来たりしながら生きてねと言った意味を、もう少しきちんと言語化しないといけないなと思っています。

【茂木】 僕は「インターネット上に最高学府がある」と言ったけれど、それには「ただし」がついて、ネット上にいくらニーチェだとかフッサールのテキストが載っていたとしても、それを読んだときに、それを自分の生き方に反映させなければ意味が無くて、「おまえはどうやって生きるのか」ということを最後に担保するための情報として、インターネット情報を使わなくてはいけない。そうじゃないと単なる「物知りのおじさん」になってしまう。

【梅田】 「知とは何のためにあるのか」という問題は、本当に大きな問題ですよ。そういうふうに知をとらえていない人がすごく多いから。

【茂木】 倫理規則と結びつくようなかたちで知というものを考えると、インターネットの意味はまったく違ってきますね。  
(了)

2007年5月20日(日) 於:東京·日比谷

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