本の本 ─書評集1994−2007 斎藤 美奈子 著

1994〜2007の書評を集めたらこの厚さになりました。

本の本
─書評集1994−2007
斎藤 美奈子

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著者近影
斎藤 美奈子
サイトウ ミナコ

1956年新潟生まれ。児童書等の編集者を経て94年『妊娠小説』でデビュー。以後、雑誌新聞等で文芸評論家として活躍。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で第1回小林秀雄賞受賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』(ちくま文庫)、『読者は踊る』『モダンガール論』『あほらし屋の鐘が鳴る』『文壇アイドル論』(文春文庫)、『物は言いよう』(平凡社)、『冠婚葬祭のひみつ』(岩波新書)、『たまには、時事ネタ』(中央公論新社)、『それってどうなの主義』(白水社)など多数。

『本の本』発売記念斎藤美奈子特別講座 書評の読み方、書評の書き方

去る4月12日、朝日カルチャーセンター新宿校で、『本の本』発売記念として、
斎藤美奈子特別講座「書評の読み方、書評の書き方」が行われました。
ふだんから、斎藤さんの講座「読んで書く批評塾」が月1回行われているというその教室は、ノートを広げペンを持ち、学ぶ気満々の聴衆でいっぱいになりました。

    「書評っていうのは、割に合わない仕事なんです」

  • 講座風景/書評をした本は、折り込み(ドッグイヤー)だらけになる。 と、開口一番。私たちのやる気は、どうなる?な空気が教室を流れる。
     「ひとの本を、ひとのために紹介するんですよ。私のためじゃない。ほんと、費用対効果が悪いんです」
     「批評塾」では受講生に課題本の800字書評という宿題を出し、それに斎藤さんがコメントをつけて教材にしているそうだが、どんな本でも1冊は1冊。斎藤さん自身も、ときにはたった800字の書評を書くために、「本の本」のような分厚い、しかも専門書を何時間もかけて読んだりする。しかも「その本の著者と編集者を除けば、自分がいちばん読んだぞ、というくらい読む」のだそう。
     「だから、書評を書く人は少ないんです。メンバーが固定しちゃってる。席は空いてますよ」 うーん、励まされてるんだかなんだか、よくわからない展開になってきた。
  • 「書評の書き方には、基本とコツがあります」

  • 講座風景 書評を構成する大きな要素は3つ。内容紹介と評価とプラスαの芸(サービス情報)だという。
     「じつは大事なのは、内容紹介なんです。すごく面白い内容のはずなのに、何が書いてあるんだかよくわからない本というのが、たくさん存在するんですね。とくに学者さんの本。
    専門的な話が専門的な言葉で書かれている。まったくもう、せっかくいいこと言ってるのに、と長年思ってきましたが、彼らに、わかりやすくかみ砕いて書け、というのは無理なんです」
     専門家ですから、と斎藤さん。そこで書評家の出番となる。
     「せめて何が書いてあるか、一般人の言葉に訳してあげよう、と思うわけです。これが内容紹介。一生懸命下草を刈り、枝を払い、進んでいくと、鬱蒼と茂った藪の向こうにうっすらと何かが見えてくるんですね。それを書く」
    さらに、本の評価を2行ぐらいでコンパクトに書き、加えて時事ネタに引っかけたり他作品と比較したりといった読者サービス情報を入れば、書評の出来上がり。
    いや、言うは簡単、行うは難し、ですが。
     「そして、評者それぞれにスタイルがある。それを大事にする。これがコツですね」
    自分のスタイルを確立せよ、ということでしょうか。たしかに、斎藤さんならどう言うかな?どうまとめるかな?というところから、斎藤書評を読むことは多いはず。
  • 「書評は旅のガイドブックに似ていると思うんですよね」

  • 講座風景
  •  斎藤さんは、旅に出て、もう帰ろうという段になって観光案内所でパンフレットをもらい、汽車の中でじっくり眺めるのが好きなんだという。
     「だって、たった今、自分の目で見てきた現物と、その解釈を付き合わせられるわけでしょ。それをやると、旅の体験ががっちりとした記憶になります。ああ、あれはこういうことだったのね、と」
     同じように書評も、本をこれから読むためのガイドとしてだけでなく、復習として使うといい。
     「今はもうやっていませんが、昔は、書評に惹かれて本を買うと、本の後ろにその書評を張り付けておいたんです。で、読み終わったあとにもう一度、その書評を読む。そうすると、わからなかったことがわかったり、この書評、違うんじゃないかなーと思ったり、いろいろ見えてくる」
     読書が立体的になって面白いのだ、という。

    ほかにも、書評の掟5箇条とか、書評と似て非なるものとか、書評生産の舞台裏とか、盛りだくさんな特別講義は1時間半に及び、万雷の拍手のもとで幕を閉じました。

書評家・斎藤美奈子が、長年培ってきた書評の技術。その全てが詰まった「本の本」を、ぜひ、読書のガイドブックとして、そして復習教材として、役立ててください。