万城目学インタビュー 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』について話しましょう インタビュアー=松田哲夫

キラキラと何かを発見する女の子

―― 小さな女の子と猫の話というと、もうちょっと幼稚というか、おとぎばなしっぽくなりがちじゃないですか?

万城目 もっとまだるっこしい感じでね。

―― でも、なんで主人公を女の子にしたんですか?

万城目 最初から女の子の話を書きたいと思ってました。自分のなかで、子どもだけの世界を自然に書けるというイメージがたぶんあったと思うんです。小1の男の子だと、どうしても母親が頻繁に出てくる気がします。それが嫌やったんです。

―― 自立した世界というか。

万城目 そうです。いま井上靖の本を読んでるんですけど、幼少の頃のエッセイで、ひたすら親とおばあちゃんと親族のことばっかり書くんですよ。こういうのが嫌だったんだなって今、読みながら思いますね。女の子だと、そういう、じめじめした感じの話を書かなくてもすむ。最初から切り離せられる。『ちびまる子ちゃん』がいいのは、あれが女の子だからなんですよ。男の子だと、ああはならない。あ、でも、のび太くんがいるか。いや、あれは隣にドラえもんという、強烈な母性がいますからね(笑)。

―― 『ちびまる子ちゃん』だと、永沢くんというのが独立して漫画になってるけど、やたら暗い漫画ですよね(笑)。

万城目 永沢くんは不幸ですからね(笑)。全然、家庭環境とかの影響を受けずに男の子を書くのってちょっと難しいんじゃないですかね。だいたい、気持ち悪いと思うんですよ、学校へ行って、毎日キラキラと何か発見して帰ってくる男の子がおったら。嫌ですよ(笑)。


万城目少年の小学生時代

―― 万城目さん自身はどういう小学生だったんですか?

万城目 小学校のときは、楽しいことをしたいんですけど、どうしたらいいかわからない。そんな感じだったと思います。

―― かのこちゃんのように言葉遊びが楽しい、みたいな感覚はあったんですか。

万城目 いや、なかったですね。

―― もしくは見立てとか。『かのこちゃん……』を読んでいると、こういうことありそうだって思いますよね。

万城目 小学校のときは、僕はひとり私立に通っていて、まわりに友だちがいない環境だったんで、だいたい一人で遊んでましたけど、あんな知的なはずないですよね。

―― 一人遊びで何をしてたんですか。

万城目 僕はすごく凝った遊びをしたいんですけれども、同じ意欲ある人が周囲にいないので、仕方なく意欲のまったくない妹を連れてきて、ケンカになって終わるみたいな(笑)、そんな感じですよね。例えば、謎解きゲームとかをしたいんですよ。家のあちこちに暗号を隠して、順々に宝物にたどり着くみたいなゲームをしたいんです。十個ぐらい仕込んでからスタートするんですけど、妹はいちばん最初の暗号も解けない(笑)。

―― 今から考えてみると、そういうころから、何か物語を作ろうというような衝動があったということですよね。

万城目 まあ、文字を使うという発想はなかったですけど。

―― 遊びのなかにストーリー性みたいなものがある。

万城目 そうですね。ゲーム性というか。やればやるほど面白くなる、みたいなのを求めましたね。

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 万城目学 著

「ホルモー」「鹿男」「トヨトミ」の輪を飛び出して、万城目学が紡ぎ出す、新たな物語の世界!

元気な小学一年生・かのこちゃんと優雅な猫・マドレーヌ夫人。その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。書き下ろし長編小説。