万城目学インタビュー 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』について話しましょう インタビュアー=松田哲夫

歯が抜けることと親友との別れ

―― この『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』という作品は、とっても不思議なことも起きますし、いろんな楽しみがあるんですが、終わり方がしみじみとしていていいんですね。終わりのころに出てくる「歯が抜ける」ということがシンボリックだなと思いました。乳歯なわけですから、失うことでまた新しい歯が生えてくるわけですよね。親友との別れと歯の抜けるところが、喪失と成長みたいなものが、あの切ない終わりにこめられていると感じたんですが。

万城目 最後まで歯のことが話に絡んできたということは、無意識のうちにそういうニュアンスを入れようと思ったのかもしれません。そっちのほうが話として味わいが出るなあ、と無意識に書いただけの気もしますが。実際に、学校へ行ったとき、歯が抜けてる子がいっぱいいたんですよね。自分も、この頃は歯があちこち抜けていたなあとそれを見たらいろいろ思い出して。

―― 今までとずいぶん雰囲気の違う作品を書いてみて、どうでした?

万城目 書く期間が、一作につき今までは1年とかだったのに、この作品は4、5ヶ月くらいだったんで、まだどこかフワフワしてる感じがあります。不安なんですよね。「ええもん書いた」と思う反面、「それは自分だけじゃないのかな」って思うのもあって。


次回作は初期の感じに戻りたい

―― そろそろ、次の作品に取りかかっていますか。

万城目 もう書き始めてます。

―― このあと、どういう方向にいくんですか?

万城目 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』というのは、とても落ち着いている作品だと思うんですよ。静かな味わいのある雰囲気。『鴨川ホルモー』を書いていたころは、もっとムチャクチャな、あまり行儀よくない感じだったと思うんです。自分のなかではだんだん行儀よくなってるという感じがするんですよ。

―― そうですね。ある面、そういう感じはありますね。

万城目 今度はあまり行儀よくない感じに戻りたい……と言っても、むかしには戻れないですけれども。全部が変わってますから。でも、そういうのを意識しながら、書いてます。

―― 楽しみですね。いつごろ読めるんですか?

万城目 四月から「小説すばる」に連載して、今年中には本にまとめられたら、と考えています。

―― かなり長くなりそうなんですか?

万城目 最近どんどん長くなってるんで、これは『鴨川ホルモー』並みでやりたいです。

―― 『ホルモー』が原稿用紙400枚ぐらい?

万城目 はい、『鹿男』が600枚、『トヨトミ』が800枚。

―― そうすると1000枚になりますね(笑)。

万城目 いや、400枚台で終わらせます。そうしたら苦しむ時間が短くて済みますから(笑)。

(2010年1月13日 筑摩書房にて収録)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人 万城目学 著

「ホルモー」「鹿男」「トヨトミ」の輪を飛び出して、万城目学が紡ぎ出す、新たな物語の世界!

元気な小学一年生・かのこちゃんと優雅な猫・マドレーヌ夫人。その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。書き下ろし長編小説。