西加奈子さんインタビュー 脳みそつるつるエッセイ集のできるまで 聞き手・松田哲夫(担当編集者)
「うちの話聞いてよ」というノリ
松田 それから、「ミッキー」を書く前のエッセイは、もっとまじめというか普通に書いてましたよね。
西 「ミッキー」を書く前は、エッセイっていうのがどういうものかわからんくって……。でも、これをやりだして、これでええんやって思って、「ミッキー」を見て頼んでくれた人もいるから、最近は、もうこのノリでメチャクチャになってきている。絵もそうやけど、エッセイもご依頼いただくようになって、ああよかったって思って。
松田 芸域が広がった(笑)。
西 よかった、これでいけるのやって思って。
松田 それまでは、そんなにふざけちゃいけないとか、思ったまま書いちゃいけないとか……
西 エッセイってどんなやろうって思って、昔の人のエッセイとか読むと影響されちゃって、こういうもんなんやって思って書くところがあったけど。「ミッキー」でやってるのがエッセイで通じてるのやったら、できるんやないかと思って、いろいろやらしてもらって、うれしいです。
松田 ものすごくばかばかしい回と、西さんって、こういうことを考えてここまできたんだということが素直に伝わってくる回と、いろいろあって面白いですね。
西 いやあ。ほんまに、思いつくままに書いたので、小説よりも、その時の自分が出ますよね。こんときこうやったとか。書きたいことを書きたいだけ書いたから、ほんまにばかばかしい時は、脳みそつるつるで書いてたんやろなあとか。酒飲みながら書いた回なんかもあるし。自分のテンションがわかって面白い(笑)。
松田 そういう風に書いていても、後で、あれはやめようとか、書き直そうとかいうことはほとんどなかったですよね。
西 そうですね。それはなかったな。
松田 そういう意味では、ある安定したリズムがあって、とんでもなく変だというものってないですよね。
西 そうですね。やっぱり「ミッキー」を書くときは、「ミッキー」のリズムがあったのかなあ。とんとんとんって書くリズムがね。
松田 だから、エッセイだけど作品ですよね。
西 そうですね。山崎ナオコーラちゃんが、すごい読む人のことを意識して書いてるって書いてくれましたが、小説は読者の人の気持ちって、ほんま考えられないんですけど、エッセイはおしゃべりしているような感じやから、「うちの話聞いてよ」っていうようなノリやから、飲み屋で飲みながらしゃべっている時って、人の反応って気になるじゃないですか。笑わしたろうとか、ちょっとここ話を盛り上げとこうとか。そういうノリで書いたのかもしれん。それが安定感なのかなっていう感じ。