ぴんはらり 栗林佐知 メールインタビュー

 私は、「クールでポップ」の対極にいる「ヤボ天」なので、いい年こいて、もう必死になって「人生のコタエ」や「救い」なんかを求めて小説を読んでしまいます。それと、アタマ悪いので、難しいのはダメで、ストーリーが楽しいのが好きです。
 だから、人生の痛みや齟齬、恐怖を、他人にはマネのできないやり方で、おもしろく、温かく、しかも目をそらさず書く作家を尊敬しています。さらには、私のような「はずれ者」に理解を示してくれる作品だと、べらぼうに好きになります。
 中島敦、牧野信一、それにやっぱり太宰治が好きです。
 現代では、人物の観察眼が豊かな、故・白石一郎さん、佐藤多佳子さん、荻原浩さんが大好きです。スタイリッシュなセンスで人気の藤野千夜さん、伊坂幸太郎さんも、私はもっぱら、その主題と作者の人間性ゆえの大ファンです。
 文章は中島敦と井伏鱒二の音感が好きで、よく筆写します。
 スタイル的には、発想がぶっとんでいるものが好きです。ジョン・コリアやジェラルド・カーシュ、ジャンニ・ロダーリの、「どこから思いついたんだ!」というような設定や、とぼけたトーンで弱者の側から強者を笑う世界に、私淑しています。

 実は、空想(ファンタジー)に、こだわりを感じています。
 いま、世の中は息苦しく、家や職場や学校すべてで否定の視線に取り囲まれて苦しんでいる人は、決して少なくないと思います。けれど、頭の中さえ自由なら、人間はなんとか大丈夫だと思います。
 私は、登山をしていたので、人間が自然界の一部であり、今生きているのは決して自分の力だけではなく、いろいろなものの助けで生かされているのだから、どんなときも絶望してはダメ、という実感があります。
 目に見えない世界への空想を「バカみたい、逃避でしょ」と言ってもかまわないけど、それは損な考え方だと思います。
 そういうわけで、オリジナルなファンタジーの作法を築き上げるのが夢なのですが、まだまだ模索中です。

 初めて短篇で新人賞をいただき、文芸誌に作品が掲載されたのが4年半前。書いて書いて書いて、ようやく単行本を出していただけたと思うと、ほんとうにありがたいです。太宰治賞を続けてくださる三鷹市と筑摩書房の方々、チャンスをくださった選考委員の先生方、お世話になった編集者の方に厚くお礼申し上げます。
 しかし、実のところ、「不安が大きい」というのが本音です。
 買ってもらえるだろうか。これからもどんどん作品を発表したいけど、チャンスは来てくれるのだろうか、など。できるだけ、たくさんの方に手にとってもらえますよう、祈るばかりです。

栗林 佐知
クリバヤシ サチ

1963年札幌市生まれ。富山大学人文学部卒業。ガラス清掃、版下製作などを経て、小説を書き始める。2002年「券売機の恩返し」で第70回小説現代新人賞を受賞。2006年「峠の春は」で第22回太宰治賞を受賞。2007年、初の単行本『ぴんはらり』(「峠の春は」を改題)を上梓。