梅田望夫インタビュー「ネットは書籍出版を変えるか」梅田望夫

■ネットの世界からの反響

――一部の読者に、「梅田さんはネットの世界の人だと思っていたのに、ブログで書くのでなく、どうして本を出版したのだろう」という感想も、あるようですが。

 ネットの世界の人は僕のことを「ネットの世界の人」と思っているのですが、僕の本業は、日本の大手コンピュータ・メーカーのトップ・マネジメントに対するアドバイザーですから、もともとベタベタにリアルなんです。1999年から2002年まで「日経ビジネス」に長く連載を続けていたとか、1993年に「中央公論」に論文を書いてデビューしたとか、基本的にリアルのほうをずっとやっていたのですが、若い人はそれらを知らない。若い人の多くは、僕のことを「2003年からネットで書き始めた人」と思っている(CNET Japanでのブログ「梅田望夫・英語で読むITトレンド」http://blog.japan.cnet.com/umeda/は2003年3月〜2004年12月。以後、はてなブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/)。 

 四十代前半までの自分のキャリアをどうつくってきたか、なぜアメリカに行ったか、ということと関係するのですが、「日本のコンピュータ産業が国際競争力をどのようにつけるか」を考えるのが、僕の本業なのです。しかし、そうしたクライアントの人たち、リアル世界の人たちが、あるときから、ネットの世界のことを全然わからなくなってしまった。

 僕の場合は、この本にも書きましたが、(ある時期から)ネットの世界へバーンとふったので、ネットの世界の若い人たちとのつきあいができたのですが、それをやらない大人たちというのは、ネットの世界を知らないまま、リアルの世界に生きている。その溝がここ2、3年ものすごく深くなってきた、ということがあります。実際に出版してみると、最初にこの本を買ってくれたのは、ネットの世界の若い人たちだったわけですが、もともと、ちくま新書での執筆の提案を受けたときに、「新書のコアの読者層はリアル世界の四十代〜五十代の人たち」と聞いていたので、「その人たちにネットの世界をきちんと伝えよう」というモチベーションは、結構大きかったです。

 リアル世界の側に「なんだ、こんなもん」という、ネット世界への不信感をあらわにする人がいる一方で、「こんなもんじゃない、もっとすごいんだ」と思っている若い人たちがいる。僕がこの本の中で書いた以上にもっと激しく世の中が変わると思っている人たちがいる。「あちら側」「こちら側」とか本では書かれているけれど、自分の脳は全くそれを区別していない、要するに一つなんだ、両方リアルなんだというふうに思う若い人たちが一方にいる。

 「ネット原理主義」というと語弊があるけれど、リアルの世界の人と連携する必要なんてない、と思っている若い人たちも多い。リアルの側の人と話なんかしなくても、自分たちでビジネスできるし、どんどんカンファタブル(快適に)やっていけると思っているわけです。そういう人は、「なんで本を出すんだ、書いたものは全部ネットの上にのっけてくれればいいじゃないか」という。

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