梅田望夫インタビュー「ネットは書籍出版を変えるか」梅田望夫

■「本」を出すことへの思い

――今回、ブログや雑誌のコラムで言葉を発するのでなく、『ウェブ進化論』を「本」というまとまった形で出されたことの、梅田さんにとっての意味は。

 僕の父は作家(梅田晴夫)で、若い頃は小説を書いて賞を取り、その後はラジオドラマやテレビドラマのシナリオなどを書き、晩年はエッセイや趣味の本を書き、という人でした。僕が二十歳のときに父が死んでしまったということもあって、父については良い思い出ばかりが記憶に残っています。もの心ついたときから、本に囲まれて育ち、父が出した本が売れるとか売れないとか、いつも一緒に本屋に行って長い時間を過ごすとか、そういう育ち方をしてきた。それゆえ、本を書くというのはすごいことだ、という刷り込みがあるのです。本に対しての思い入れがある。だから逆に、なかなか本だけは書けなかったのです。

 前著『シリコンバレーは私をどう変えたか』(2001年、新潮社刊)は、『フォーサイト』誌(http://book.shinchosha.co.jp/foresight/)の連載「シリコンバレーからの手紙」をまとめてくださる、というのでやっと本になったのですが、それを除くと、これまで、書き下ろしの本というのは6回くらい書きかけて失敗している。序章だけ書いてもう書けなくなって、というようなことがあって、今回も本当に書きとおせるか心配だったのです。ただ、もともとの本に対するそういう思いがあり、年齢的にもちょうど四十代半ばで、一つ何か代表作のようなものを書きたいという気持ちが、ベースにありました。本を書くということは、僕の場合はそもそもの大きな目標の一つだったから、書き始めたら手抜きはできなくなって、全身全霊をかけてというか、本当に没頭して書きました。

 5週間、集中の糸を切らさずに書いた、と「あとがき」にも書きましたが、僕がまとまった時間をつくれるのは、長くて5週間なのです。だいたい2カ月に1度、日本に1週間くらい行く、という仕事の仕方をしているので、その前の1週間は準備にあて、その後の1週間は、日本でボロボロになって帰ってくるので少し休む、というペースになります。そうすると、インターバルは5、6週間です。

 そして、僕はメジャー・リーグの大ファンなのですが、この本を書いた9月の末から10月というのは、メジャー・リーグのポスト・シーズンで、もともと毎年、この時期にはあまり重要な仕事は入れないようにしているのです。ちょうどその5週間で、この本を書き上げることができました。

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