『みなさん、さようなら』と「桜庭一樹」


<総合ランキング>  (1/7~13 三省堂書店全店調べ) 
 1位 坂東真理子『女性の品格』(PHP研究所)
 2位 坂東真理子『親の品格』(PHP研究所)
 3位 阿川弘之『大人の見識』(新潮社)
 4位 田村裕『ホームレス中学生』(ワニブックス)
 5位 勝間和代『お金は銀行に預けるな』(光文社)
 6位 島田裕巳『日本の10大新宗教』(幻冬舎)
 7位 勝間和代『効率が10倍アップする新・知的生産術』(ダイヤモンド社)
 8位 上野千鶴子『おひとりさまの老後』(法研)
 9位 茂木健一郎『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)
10位 ロンダ・バーン『ザ・シークレット』(角川書店)


<特集・桜庭一樹>
◎桜庭一樹『私の男』(文藝春秋)



谷原 今週は、芥川賞・直木賞が発表されましたが。さて松田さん、見事当てましたね。
松田 はい。配当はないんですね(笑)。
谷原 配当は個人的に……(笑)。
<16日に第138回芥川賞・直木賞の選考会が行われ、芥川賞には川上未映子さん「乳と卵」、直木賞には桜庭一樹さん『私の男』が選ばれ、二人のシンデレラが誕生しました。「ブランチ」では、さっそく発表の翌日、金田美香ちゃんとぼくの二人で桜庭一樹さんをお訪ねしてインタビューしました。>
金田 桜庭さん、このたびはおめでとうございます。
松田 おめでとうございます。
桜庭 ありがとうございます。
金田 一夜明けて、改めて受賞の感想は。
桜庭 まだ実感が湧かない感じで。二回目の候補で受賞なんですけども、前回の落ちたときの方が「落ちたんだあ」ってきたんですけども……(笑)。
N 過酷な現実と闘う少女たちの物語を得意とするライトノベル作家として活躍してきた桜庭さん。ここ数年は、一般小説の世界に飛び出し、『赤朽葉家の伝説』では、前回の直木賞候補になるなど、いままさに注目の若手作家。>
金田 それでは、突然ですが、「桜庭一樹さんへの5の質問」(拍手)。まず、『私の男』を書くきっかけを教えてください。
桜庭 最初のきっかけの一つになったのが、男の子の友達の失恋話というのがあって。3、4年前に聞いたんですが、そん時はあまり深く考えなかったんですけど、その子は、女の子に振られた、そしたら、「もう、女性は信じられなくなった。他人の女性は、いま自分のことを好きでも、心変わりしたら離れていっちゃうと思ったら、怖くなっちゃった」と言っていて。「でも、お母さんとか妹とか、血の繋がりがある女性は、何か変化しても離れていくことはないから、血の繋がっている異性しか、もう信じられない」って言っていたことがあって。「どうしてしまったんだろう」って思って(笑)。後から考えてみて、それは極端な例だけど、他人では得られない一体感とか血の繋がりを大事に思う気持ちというのは、誰にでもあって、そういう意味では、血の繋がりって、家族の絆の美しさと怖さって、みんなが持っているもんだなあって思った時に、私はすごく普遍的なテーマだと思ったので……。
金田 続いて、第二問。
桜庭 クイズみたい(笑)。
金田 ヒロインの名前を「腐野花」というインパクトのある名前にした理由を教えてください。
桜庭 若いときは素敵だけども、うまく歳をとって成熟していけない人間というのが現代的なんじゃないかなと思ったので、腐っていく花束のイメージで「腐野花」って、そのままつけたんですね。
N そんな花の父が、荒んだ雰囲気を醸し出すキザな男・腐野淳悟。物語は、こんな1行から始まる。「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」>
松田 1行目から、ある種キザな男ですよね、淳悟というのは。ああいうのを書くときの気持ちというのは、どんなものでした。
桜庭 例えば、映画だったら、出てきた瞬間、どういう人かわかるから感情移入できるというのがあるので、ある種、映像的に、パッと見た瞬間、この人がどんな人かわかって、そのまま物語にもっていけるという風にしたかったので……。
N そこで、桜庭さんが考えたのが、傘を躊躇なく盗むという行為。>
桜庭 善悪の判断基準がゆるい人は怖いと思うんですね。私はよく自転車に乗っていて、駅から家まで自転車で通っていて、時々、盗まれるんですよ。「なんだよ」と思っていたら、もう10年来の友達の男の子が、みんなで飲んでいたときに、「飲んで遅くなったら、よく駅前で自転車を盗む」って言ったんですよ。「お前かっ!」って。傘も、盗んじゃうではなくて、スッと取っちゃう人って怖いと思ったんで。そういう善悪の判断基準を突きつけられる話だよということが最初のシーンでわかるということで、このシーンを思いついて、ようやく『私の男』が書けると思って、書き始めました。
松田 すごい「つかみ」だなあって思いました。
金田 第四問、趣味を教えてください。
桜庭 格闘技で、空手を少し習っているぐらいです。
金田 また、すごい真逆なものを……。
松田 試合とか出たことはあるんですか。
桜庭 私ね、全日本女子というのに2回出て、2回とも1回戦で負けて、それっきりです。
松田 でも、出たんですか。
金田 それでは、最後の質問です。いま、興味のあるテーマは。
桜庭 すごく暗くて怖いんだけども、誰にでもあるものとか、そういう人の暗い面とか悪意とかを、怖い話とかで終わるのではなくて、人の共感を得る話として書いていきたいというのがあります。


谷原 美香ちゃん、実際にお会いして、桜庭さん、どうでした。
金田 小説のイメージとは、また違って、ファッションもすごく可愛らしいものがお好きで、本当に女性らしい一面もお持ちで、すごく魅力的な方だなあって思いました。
谷原 それでも、空手とかやったりしてるとか。
金田 そうなんです。いろんな面をお持ちですよね。
谷原 松田さん、桜庭さんの、どういうところに才能を感じますか。
松田 受賞作『私の男』というのは、選考委員のなかでも「反道徳的」だという声もあったぐらいで、なかなか強烈なストーリーなんですけども、ただ、時間をさかのぼっていくに従って、ある種の浄化がされていって、最後には光り輝くラストシーンに読者を連れて行くという。すごい筆力だと思いますね。選考委員もそれに圧倒されたんだと思いますけども。これだけ書ける人が、次にどういう作品を書いてくれるのか、楽しみだなあと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎久保寺健彦『みなさん、さようなら』(幻冬舎)



松田 新進気鋭の作家・久保寺健彦さんの長編小説『みなさん、さようなら』という作品です。
N 昨年、文芸誌の新人賞を受賞した久保寺健彦さんのデビュー作『みなさん、さようなら』。小学校の卒業式に起こったある事件がきっかけで、生まれ育った団地から外の世界に出ることができなくなった主人公・悟。しかし、団地の中には何でもあった。彼はここで友達をつくり、働き、恋愛をし、婚約にもこぎ着ける。時代とともに減っていく友人たち。果たして悟は団地から出て行くことはできるのか? 団地の中で生き続ける男のサバイバル・ストーリー。>
松田 小学校を卒業してから30歳まで、団地から一歩も出られなくなった男の話っていう、非常に奇抜なシチュエーションの物語なんです。団地に住んでいるからといって、引きこもっているわけではなくて、いつも体を鍛えているし、独学で勉強もするし、恋もするし、自分が憧れだった菓子職人にもなれるし。本当に、人の数倍も努力して、充実した人生を送っている。だけども、時代とともに団地がだんだん荒廃してくるんですね。その中で、生き抜いていかなければいけないというので、過酷な人生をたどるんです。団地という地味な場所を舞台にして、冒険小説というかサバイバルストーリーをつくっているという、非常に面白い小説でしたね。
優香 私も読みました。タイトルも暗い感じだし、最初から団地に籠もっているということもわかっているので、暗いお話なのかなと思ったら、そうではなくて、団地の中にいるみんなを心配している男の人で、とても前向きな方なんです。生きてるということがすごく伝わる、そういう18年間の人生を目撃しているような気持ちで読める、濃厚な人生だなという感じで読めるものでした。