「川上未映子」大特集


<大特集・芥川賞作家・川上未映子>
◎川上未映子『乳と卵』(文藝春秋)



<スタジオ>
谷原 こんなに話題になる新人作家さんの登場はないんじゃないかと思うんですが。美香ちゃん、よろしくお願いします。
金田 はい。実は昨日、その川上さんが注目を浴びた第138回芥川賞の贈呈式がありました。30社以上の報道陣が集まり、ここ数年では飛び抜けて多数の出席者でにぎわっていました。きょうは、その芥川賞作家川上未映子さんを「ブランチ」が独占インタビューします。お仕事場にもお邪魔してたくさんお話を伺ってきました。


<VTR>
金田 どうも、はじめまして。
川上 はじめまして。こんにちわ。
金田 「王様のブランチ」です。遅ればせながら、芥川賞受賞おめでとうございます。(と花束を渡す)
川上 おおきに、ありがとうございます。
N 川上さんと言えばミニスカ、この日は全身シックに統一。>
金田 かっこいいですね。足も細いし。靴は何ですか。
川上 これはプラダ……なんて言うと……。
金田 指輪もテントウムシが……。すごい、ファッション誌から出てきたような。
川上 それは言い過ぎですよ。恥ずかしいですね。
N 自ら「文筆歌手」と名乗る川上未映子さんは、1976年大阪生まれの31歳。実は、小説家としてデビューしてから1年足らず。初小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』がいきなり前回の芥川賞候補に。そして、このたび、第2作の『乳と卵』で見事芥川賞を受賞したシンデレラガール。>
金田 きょうは、川上さんがお好きな場所に。
川上 そうですね、来てみたかった場所というか。
N それは、川上さんが尊敬する明治の作家樋口一葉の記念館。わずか24年という激しくも短い一生を送った一葉。その名作の数々は、晩年の1年あまりの間に書かれ、「奇蹟の14ヵ月」と呼ばれています。ここには、そんな一葉の貴重な直筆原稿や遺品が展示されています。>
川上 「奇蹟の14ヵ月」……。
金田 1年ちょっとで、これだけの作品を……。川上さんも短い間に。
川上 まだ2作しかね、書いてないから。まだ14ヵ月もいってないみたいな感じなんですけども。
金田 まだ1年。
川上 9ヵ月。小説書き始めてからね。
金田 前作もノミネートされて。
川上 あれは、一番ビックリしましたね。
金田 今回、2作目で受賞されたということで。興奮しちゃいましたよ。それを見ていて。
川上 わたしも興奮しました。ありがとうございます。
N 若い一葉が家計を支えた逸話は有名ですが、川上さんは若くして歯科助手や書店員をして家計を助けていました。中には、こんなバイトも……。>
金田 ホステスなんかも経験がおありとか……。
川上 そうでございます。あれも壮絶な職場でしたね。
金田 でも、資料を読んだんですけども、No.1になれたという……。
川上 いやいや、そんなこと言ってない。
金田 でも、そう書いてありましたよ。
川上 こうやってね、話があれ……。でも、一所懸命頑張っていたんですよ。人と人とのつきあいのお仕事だから、どの現場でも基本は同じですよね。
N そんな川上さんが文学に目覚めたきっかけは、誰もが読んでいたあの本。>
金田 もともと文学少女だったんですか。
川上 全然。だって、家族で本を読む人、誰もいないんですよ。あたしの姉なんか、1冊読破したことがないんです。そう、教科書が始まりだったんですよ。国語の教科書、みんなつまらないって言うけど、あれはバリエーション豊かで、絶対読まないという本も入っているでしょう。だからね、結構、重宝してましたね。
N 作家デビューのきっかけは、自らのアルバム宣伝のために始めたブログでした。これが関係者の目にとまり、エッセイを依頼されたのです。>
金田 やっぱり、書くことが好きだったとか。
川上 書くのはね、自分がね、うまく書けるとか、ちゃんと書けるとかの自信はあったかといえば、なかったですね。むしろ、歌の方が「ちょっとうまいんじゃないか」みたいな気持ちでやったのが、あまりパッとしなかったから、もう、あまりそうこうことはどうでもいいんだということで、好きなものを一生懸命やってみようと思って。
N そして、このたび、2作目の『乳と卵』で見事芥川賞を受賞。
池澤夏樹(芥川賞選考委員) 声のある文体であるということ。つまり、目で読んでいて音が響いてくる、そういう仕掛けをちゃんと作り込んでいるという意味では、やはり歌手なのかなと思います。
N 樋口一葉にも似た、息の長いリズム感のある文体。それを生み出す、畳みかけるような大阪弁が特徴的な『乳と卵』。物語は、大阪から姉の巻子とその娘の緑子が東京のわたしのアパートへ訪ねてくるところから始まる。姉の上京の目的は豊胸手術を受けること。そんな母に反発して、小学校6年生の緑子は一切口をきかない。しかし、娘のノートには、思春期ならではの悩み、そして母への思いが書かれていた。母と娘、そしてわたし。女性3人の体と生理を巡り揺れる心。だれもがもつ体を題材に、女性の存在意味を問いかけます。>
川上 人間に興味があるんですよ。そして、たまたま人間について書こうと思ったら、わたしが女の属性をもっていて、で女の側からのアプローチになってしまった。人間の体と心みたいなもの、これも簡単に二つ分けれないんですけども、そのものを一個の角度から書いてみたいなという気持ちでスタートしているんですね。
金田 それが豊胸手術というものに繋がっていったんですか。
川上 そう。どういうわけか。
金田 川上さん自身も興味があって。
川上 ありましたね。
金田 すごく詳しく書かれていたから。
川上 わたしね、町を歩いていても、男には本当に興味がないんですよ。「好きな男性のタイプは」と言われても、ないです、タイプが。でもね、女の人は見てしまいますよね。だから、化粧品売り場なんて大好きなんですよ。女の人がキラキラしてるでしょう。ああいうのいいですよね。女の人……美しさの基準てどこにあるんでしょうね。


N 壁一面が本で埋め尽くされた部屋。ここが芥川賞作家川上未映子さんの仕事場。デスクの前にはメモがびっしり。>
金田 すごい貼ってある。これは歌詞ですか。ちょっと見ただけでは、どんな内容なのか……。<N 「署名添加」「未知と表面」「柔軟性の幸運」……果たしてこれは……。>
川上 全然意味はないんです。気に入ったフレーズみたいなのがパッと出てくるんですよ。それを書く時期があって、書いたのを前に貼っておくと、いい雰囲気になって、なんか作品書くときに、いい感じに出てくる。目にはいるようにしてると落ち着くんですよ。模様みたいな感じですね。好きな模様とか、柄とか。柄みたいな感じで書きます。
金田 言葉が柄。
N 小説を書き始めるまで、少なくとも数ヶ月の助走期間が必要だという川上さん。>
川上 別に、小説を書くから、これを考えようじゃなくて、たとえば、「好き」という気持ちはどういうことなんやろか。いいとか悪いとかね。善悪とかね。なんとなく、そういうことをご飯を食べながらとか考えるんですよ。そういうものが常にふわふわふわっと漂ってて、小説を書くときに、なんか、全部が同時にあるのが、なんとなくうまくまとまってくれる瞬間というのがあって、キターッと思った時にバーッと書く。
金田 降りてきたというか。
川上 そんな神々しいもんじゃなくて、なんとなくペロンと来てダッていう感じ。ペロリンと来て……。
金田 芥川賞受賞ですか。
川上 結果的にはね。
N そんな川上作品の特徴が、『わたくし率 イン 歯ー、または世界』など、一風変わった長いタイトル。>
川上 やっぱり、書き上がった内容を、タイトルは1行やわと、1行で表そうと思って欲張っちゃうんですよ。だから、よしんば中身を読んでくれなくても、タイトルで読んだ気持ちになって欲しいぐらいな気持ちがあるんですよ。
N 実は、今回も長いタイトルを考えていたそうです。>
川上 悪い癖が出て、長ったらしいタイトルを考えていたんですよ。
金田 ちなみに、どういう風に長いタイトルになってしまったんですか。
川上 それ言うんですか。「胸と卵と毛の会議」みたいなね。
金田 「毛」も入っていたんですか。
川上 「毛」も入っていたんですよね。まあ、「乳と卵」にしてよかったですよ。
N そんな『乳と卵』で、今回、高く評価されたリズム感のある大阪弁。>
川上 大阪生まれで大阪育ちで、自分で大阪弁をしゃべろうというのは、日本語と同じで選べなかったんですよね。なんとなく、自然にこのイントネーション。だから、今回、人間の体っていうのは、生まれたときから、もとからあって選べないことじゃないですか。そこで、選ばないものを同じ要素として、登場人物たちには大阪弁をしゃべらしてみた。もう、勝手な自己満足なんですけども。
N 大阪弁のリズムで、この文章を味わってみたい。そこで……。>
金田 大阪弁で読んでもらっていいですか。
川上 そうね。
N 芥川賞作家川上未映子さん自らが、受賞作の一節を大阪弁で朗読。>
川上 「あたしの手は動く、足も動く、動かしかたなんかわかってないのに、色々なところが動かせることは不思議。……(以下略)」。
金田 すごーい。なんだか日記を読んでもらっているような。
川上 心地よかったですか。
金田 はい。
川上 じゃあ、ズーッと読みましょうか。
金田 (笑)。
川上 それは迷惑で。
金田 これからも、たくさんの作品を書かれていくと思うんですけども……。
川上 (しょげて見せて)もうテンション低い。締め切りがパーンと浮かんで。
金田 これから、どんな作品を……。
川上 まったくわからないですね。
金田 まったくわからない。
川上 ちょっとはわかるけども。
金田 まだ、今は助走中ですか。
川上 うん。メモをいっぱい取ってる最中。
金田 あの、歌手としては……。
川上 ライブ。執筆とは全然違うので、ライブはこれまでと同じで、1年に4~5回やってるんですけども、それはやろうと思っています。3月にもやろうかなって思っていて。
金田 お子さんも。
川上 えっ。
金田 ご結婚されているということで。
川上 結婚とお子さんは別じゃないですか。三食ご飯を作り、部屋を掃除し、素敵な環境を整えて、1日6時間執筆みたいなのが、本当に憧れですね。
金田 それはできそうですか。
川上 たぶん無理。


<スタジオ>
谷原 とっても感覚的な方なんですけども、それをコントロールする理路整然とした部分をもってらっしゃって、独特ですね。
優香 素敵ですね。もう、座り方がずっと色っぽいですね。女性としても素敵だし、お話ししたくなる、一緒に相談して、いろんな話を聞いて、アドバイスをもらいたいなって。すごく面白い方だなあって思いましたし。やっぱり、感性が、バッと降りてくるとか、文章を書く人って素晴らしいなって思いますね。
谷原 そう、無から何かを生み出すんですからね。美香ちゃん、独特の雰囲気がある方で。
金田 VTRをご覧の通り、本当に気さくでさばさばしていて、会った瞬間からお友だちになったような気分にさせてくれる方で。また、本を読むと、これまた独特で、読んでいて会話しているかのようなリズム感があって。最初は慣れないんですけども、読み終わると、アッという間だったんですよね。やっぱり、文字が柄に見えるとか、鋭い感性をお持ちになっていて、終始、取材の間中、驚きの連続でした。
谷原 松田さんもこのロケの現場に行かれたそうですね。
松田 はい、とっても楽しかったですね。昨日、贈呈式でもお目にかかったんですが。会う度に魅力に圧倒されます。すごく哲学書もたくさん読んでまして、それがああいう風に、知的な会話に生きてくるんですね。本当に知的でチャーミングで素敵な女性だなって思いましたね。
谷原 作品についてはいかがですか。
松田 『乳と卵』という作品は、関西弁の、大阪弁の語りが気持ちいいんですけども、そして、ユニークなキャラクターがたくさん出てきて、そこに哲学的な、「人間の体ってなんだろう」というテーマを、面白く、笑いを絡めながら読ませてくれるという、非常に楽しい作品ですね。
谷原 なんか、優しく包み込んでくれる不思議な女性でしたね。「胸と卵と毛の会議」、ぼくも読んでみたいと思います。