『食堂かたつむり』と「特集・向田邦子」


<特集・向田邦子>
◎向田和子『向田邦子の青春』(文春文庫)
◎向田和子『かけがえのない贈り物』(文春文庫)
◎向田和子『向田邦子の遺言』(文春文庫)
◎向田和子『向田邦子暮らしの愉しみ』(新潮社・トンボの本)
古き良き町並みを残しつつも、新しく生まれ変わろうとしている街・赤坂。この街には、作家・向田邦子さんが似合っていました。今から約40年前、若き日の向田邦子さんは、赤坂にあるTBSの旧社屋でテレビドラマの脚本作りに奮闘していました。そして、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」など、数々の名作を生み出し、高視聴率を獲得して「ゴールデンアワーのゴッドマザー」と呼ばれていました。その後、1980年に『思い出トランプ』に収録された短編三作で直木賞を受賞し、小説・エッセイともに髙い評価を受ける人気作家となりましたが、その翌年、飛行機事故で帰らぬ人となりました。そんな向田さんの仕事を支えていた妹の和子さんと共に、向田さんの仕事の数々を振り返り、とりわけTBSとの関わり、そしてその素顔などについて伺いました。
谷原 向田さんのホームドラマは、本当に血の通った人間と人間とのぶつかりあいとかやりとりとかがあったと思うのですが、今も愛される向田さんの作品の魅力といいいますと。
松田 作家としても、エッセイや小説は読み継がれていますが、いま読んでもみずみずしいんですね。書かれたばっかりみたいな感じで。ささやかな描写とか会話とか、一つ一つないがしろにしてなくて、それがぼくたちの胸に迫ってくるんだと思うんです。たぶんそれは、一つには、赤坂という街を媒介にして、才能豊かな放送人たちと交流して、美味しいものを食べて、仕事をしたということが、この世界をつくってきたんだと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



松田 最近、こんなに心を揺さぶられた本はありません! 小川糸さんの小説『食堂かたつむり』です。
N 作詞家として音楽制作に関わってきた小川糸さんのデビュー作『食堂かたつむり』。倫子が、勤めていた料理店から帰ると、恋人ごと部屋が空っぽ。あまりのショックに声を失った倫子は、ふるさとに帰って、小さな食堂を始める。お客は一日に一組だけ。いつしか、ここで食事をすると、願いが叶うという噂が広まり、店は軌道にのるのだが、倫子はある事実を知ることになる。>
松田 こういう風にお話を要約すると、料理をめぐる心温まるお話という感じなんです。本当に、主人公が心を込めてつくる料理が美味しそうなんですね。それだけでも、読んでいてとっても豊かな気持ちになれるんですけども、この物語はそれだけでは終わらないで、あることをきっかけにして、本当に衝撃的な出来事に直面するんですね。まあ、比喩的に言うと、メリーゴーラウンドか観覧車に乗っていたつもりが、突然、ジェットコースターに変わっているということになるんです。ただ、最後まで読むと、本当に深い感動があるし、生きてることとか、食べることの本質みたいなものをわからせてくれる、素晴らしい小説だっていうことがわかるんですね。まだ、3月で早いと思われるかもしれませんけども、今年の「ブランチBOOK大賞」の「新人賞」に決めちゃおうかと思っています。
谷原 はやっ。早いですよ。
優香 早いですよね。でも、それぐらい良かったですよ。
谷原 優香ちゃんも読んだんだよね。
優香 はい。先週、谷原さんも号泣したって言ってたじゃないですか、本(『のぼうの城』)を読んで。私も久しぶりに号泣しました。もう、溢れ出てくるんですよ。重松清さん(『その日のまえに』)も大好きで、家族ものってすごく好きで、いつも泣いてたんですけども、それ以来の感動でした。松田さんに、「この本、甘く見てると痛い目にあうよ」と紹介されたんですよ。で、どんなことがあるんだろうって読んでいて、表紙も可愛らしいし、名前も『食堂かたつむり』って可愛らしいし、でも、ほのぼのしてるから、えっ何なんだろう、松田さん、何だったんだろうって思いながら、それも忘れるぐらい入り込んで、どんどん見てったら、バアーって(涙を流すしぐさをして)。母と娘のお話なんで、私にはジーンとドンピシャにはまって……。
松田 読んだ人と話したいんですよ。さっきもね、優香ちゃんと話してて、もっともっと話したいって感じで……。
優香 はい。
松田 みんな読んで話したいなあって思いますね。
優香 えみちゃんにも是非読んでもらいたい。
はしの いま、すっごく読みたくなりました。読みますよ。
優香 谷原さんも、慶太くんも祥太くんも。
谷原 みんなで読んで、語り合いましょう。みなさんも一緒に語り合いましょう。号泣してください。