『3月のライオン』と「川上未映子『ヘヴン』」


<総合ランキング> (三省堂書店全店調べ・8/24~8/31)
① 香山リカ『しがみつかない生き方』(幻冬舎)
② 伊坂幸太郎『あるキング』(徳間書店)
③ 『私服だらけの中居正広増刊号~輝いて~』(扶桑社)
④ 蛇蔵・海野凪子『日本人の知らない日本語』(メディアファクトリー)
⑤ 野中広務・辛淑玉『差別と日本人』(角川書店)
⑥ 松本ぷりっつ『うちの3姉妹 10』(主婦の友社)
⑦ 磯﨑憲一郎『終の住処』(新潮社)
⑧ エリカ・アンギャル『世界一の美女になるダイエット』(幻冬舎)
⑨ 平子理沙『Little Secret』(講談社)
⑩ 野口敏『誰とでも15分以上会話がとぎれない!話し方66のルール』(すばる舎)


<特集・川上未映子『ヘヴン』>
◎川上未映子『ヘヴン』(講談社)



構想と執筆に2年かけた芥川賞受賞後初の長編小説『ヘヴン』。「わたしたちは仲間です」……14歳の僕に届いた1枚のメモ。それは、クラスメートの「コジマ」からのものだった。斜視の僕に日常的に暴力をふるう彼ら。コジマもまた、外見を不潔と罵られ、女子生徒から日常的に苛められていた。ひそやかに不器用に始まったコジマとの交流は、やがて、陰鬱でしかなかった僕の「世界」に輝きを与えていく。そうしたコジマとの友情は永遠に続くはずだった。もし彼らが僕たちを放っておいてくれたなら……。人は何のために生きるのか。僕の悲痛な問いが胸を打ち、涙がとめどなく流れる、魂を揺さぶる感動作です。今回は、川上未映子さんになぜいじめを題材にされたのか、長編小説と短編小説の違いはなどについてインタビューします。
優香 受賞後初の作品ということですが、松田さんは読んでいかがでした。
松田 オススメですね。素晴らしい作品ですね。暗くて重いテーマを扱っているんですが、いろんな意味で読者の心を鷲掴みにする魅力的な作品なんです。「いじめ」っていう問題ををギリギリと問い詰めていくんですけども、現代における「善と悪」の意味をとことん描いているんですね。ある意味では『1Q84』と肩を並べる力作・問題作だと思いますね。是非お読みになるといいと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎羽海野チカ『3月のライオン』1~3(白泉社)



松田 ついに3巻目が刊行されました羽海野チカさんの『3月のライオン』です。
N 厳しい勝負の世界に生きる天才少年棋士・桐山零。彼が負う心の傷。それは幼い頃、交通事故で家族を失ったこと。そんな零の前に、太陽のような三姉妹が現れた。『ハチミツとクローバー』の人気漫画家が描くハート・ウォーミング・ストーリー。彼女たちとの交流が零の心を優しく癒していく。>
谷原 「松田の一言」お願いします。
松田 「コントラストの美しさ!」(松田の一言)
これは、物語としても漫画表現としても、コントラストが鮮やかな作品ですね。少年漫画のもつ研ぎ澄まされた真剣さみたいなものがありますし、一方で、少女漫画のもっている柔らかく包み込むような優しさもありますし、その両面をもってる作品なんです。少年の孤独と将棋の世界を描くところでは、コントラストがクッキリした背景が印象的で、モノローグが強い字でガンガンと書かれています。一方、三姉妹の温かい家庭を描くところでは、猫や家具とか小物とかゴチャゴチャ描かれていて、独り言やつぶやきが溢れんばかりに書かれている。この対比が凄く見事で、この二つの世界を行き来しながら、少年は成長していくっていう物語なんですね。たくさんの伏線が引かれているんですが、まだまだ謎が多くて、物語の先行きから目が離せませんね。
優香 私も読みましたけども、その対比が凄く面白いですよね、陰と陽という感じで。そして三姉妹がとっても明るいんですよ。特に、一番下のモモちゃんがとっても可愛くって、モモちゃんが発する言葉が浮かんでくるっていう感じで。本当に癒されるんですよね。ご飯も美味しそうですよね。
松田 美味しそうですね。ただ、この三姉妹にも、どうも謎があるらしい。まだまだわかんないんですけどね。
優香 うーん。
谷原 これから先、どうなっていくのか、楽しみですね。
優香 本当に、男性も女性も楽しめる作品なので、是非読んでみてください。



<ごあいさつ>


いつも、「王様のブランチ」本コーナー及びコメンテーターの私に対してご支援、ご協力いただきありがとうございます。
突然の話で申し訳ありませんが、この9月末をもちまして、私は「王様のブランチ」から降板することになりました。スタッフから、視聴率アップのための番組リニューアルの一環として、本コーナーにはレギュラー・コメンテーターを置かないという方針になったとの通告があったのです。
この番組には、1996年4月の第1回から始まり、途中1年間のブランクはありましたが、通算12年半もの間、出演させていただきました。おかげさまで、たくさんの本を読み、紹介することができました。また、番組の出演者、スタッフ、さらには出版社、取次、書店、作家の方々とも本を通じて楽しくおつきあいすることができました。その上、『「王様のブランチ」のブックガイド200』(小学館101新書)という本までまとめることができました。そういう意味では、実りの多い時間を過ごさせていただけたことに深く感謝しています。
私は、番組開始当時から、出演者、スタッフ含めても最高齢でしたので、どんどん若返る番組の中では、一人場違いな年寄りが紛れ込んでいるという感じだったかもしれません。いつまでも出演し続けるわけにはいかないので、このあたりで一区切りつけるのも潮時かもしれないと個人的には思っています。
今後、私としては、「新刊ニュース」や「オリコンビズ」の連載エッセイなど、本を紹介し出版界の動向を報告する仕事は続けていくつもりです。また、来年にはラジオ番組へのレギュラー出演の打診も来ています。これからも引き続き、皆さまのお力添えを賜りたく、お願い申し上げます。
ところで、「本コーナー」そのものは10月以後も持続します。番組スタッフによりますと、レギュラー・コメンテーターにかわる魅力的な工夫を考えていくそうです。リニューアル後の本コーナーにも、是非ご注目いただければ幸いです。


2009年9月
松田哲夫