「特集・小川糸『食堂かたつむり』」


<小説ランキング>  (4/3~4/9 丸善日本橋店調べ)
 1位 小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)
 2位 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮社)
 3位 山本一力『菜種晴れ』(中央公論新社)
 4位 水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)
 5位 東野圭吾『流星の絆』(講談社)
 6位 川上弘美『風花』(集英社)
 7位 和田竜『のぼうの城』(小学館)
 8位 海堂尊『ジーン・ワルツ』(新潮社)
 9位 緒川怜『霧のソレア』(光文社)
10位 江上剛『愛、弁解せず。』(PHP研究所)


<特集・小川糸『食堂かたつむり』>
◎小川糸『食堂かたつむり』(ポプラ社)



<スタジオ>
英玲奈 今週のランキングでも堂々1位を飾り、ただいま、大ブレイク中です。『食堂かたつむり』の作者小川糸さんにお会いしてきました。


<VTR>
優香 久しぶりに号泣しました。もう、溢れて出てくるんですよ。(3月22日O.A.)
はしの 後半、涙をこらえるのが大変。閉じては上向いて(眼をパチパチ)、また開けて、閉じては上向いてというのを繰り返して……。(3月29日O.A.)
N そんな声が広がって、現在12万部突破の大ベストセラーになっているのが『食堂かたつむり』。ある日突然、何もかも失った主人公倫子は、故郷で食堂を始める。一日一組、その客だけに作られたメニューは、人びとを癒し、小さな奇跡を生んでいきます。>
英玲奈 あの方だと思います。
N とても気になる、この本の作者小川糸さんを訪ねました。>
英玲奈 英玲奈です。
小川 はじめまして、小川糸です。
N 新緑に映える黄色いワンピースがお似合いの小川糸さん。とても優しげ。>
英玲奈 小川さんと倫子ちゃんが一致してきました。
小川 いえー、どうなんでしょう。
英玲奈 ホンワカとした雰囲気で。すごく優しそうな方だなあという印象を受けました。
小川 ウフフフフ。わかんないです。
英玲奈 わかんないですか。
小川 わかんないです。……こちらになります。
英玲奈 こちらですか。
N そんな小川さんが案内してくれたのが……。>
小川 私にとっての「食堂かたつむり」なので……。
N 小川さんのお気に入りの場所、お友達の料理研究家が開いたというアトリエで、お話を伺うことにしました。>
英玲奈 『食堂かたつむり』を「王様のブランチ」で紹介した後、すごい反響があったという風に伺ったんですけども。
小川 はい。みなさんから、ああいうコメントいただいて、本当にうれしいと同時に、背筋が伸びるというか。物語を書こうと思ってから、10年経つので、その間に、辛いこととかもあって、それがお腹からにじみ出てくるというか、放送の後は、いろいろ思い出してボロボロ泣いてしまいました。
N これまで小川さんは、fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。>
小川 浜田省吾さんがメロディを作って、私が詞を書いて、水谷(公生)がアレンジをして……。
英玲奈 水谷さんとおっしゃる方は?
小川 私のパートナーというか夫です。
英玲奈 旦那さんで。じゃあ、ご結婚もされて……。
小川 はい。
N これまでに3枚のCDを発表して、その中には、ポルノグラフィティの岡野昭仁さんをはじめ、奥田民生さんやゴスペラーズら一流アーティストがゲストとして参加。しかし、小川さんの目標である作家にはなかなかたどり着けず、『食堂かたつむり』が世に出るまでには紆余曲折がありました。実は、この作品、2年前の「ポプラ社小説大賞」で、最終選考にも残らず落選。しかし、光る物を感じた編集者の目にとまり、2年の歳月をかけ、今年、出版がかなったのです。>
小川 私も、これがダメだったら、作家になるっていうことをあきらめようかなって思って出した作品なので……。
英玲奈 感謝ですね。
小川 本当に感謝です。
N そんな10年分の思いが詰まった『食堂かたつむり』では……。「リンゴちゃん、こんなカレー、はじめて食ったよ」……近所のオジサンへのお礼のザクロカレー。高校生カップルの恋をかなえるジュテームスープ。倫子の料理が人びとに幸せを運び、物語はファンタジックに進んでいくのですが、突然、倫子の前に重い現実が立ちふさがります。しかし、その現実の中にこそ、生きることの尊さが隠されているのです。>
小川 生きていると、きれいなこととか、いいこととか、楽しいことばっかりじゃなくて、時に、残酷なこともやらなければならなかったり、苦しかったり、辛いこともあるんですけども、そういうのから目をそらさないで、向き合った上で、でも、振り返ってみれば、いいことがたくさんあって、生きていることが愛おしく思えるような、そういう作品を書きたいなあと思って書きました。
N 声も、なにもかも失った倫子は、自分に残された唯一のもの、料理と向き合います。料理をしながら自分を見つめ、料理を通して人とふれあっていくうちに、倫子は生きる喜びを見つけていくのです。>
英玲奈 本当に、この中に出てくる料理が、どれをとっても美味しそうで、食材もいろんなものが出てきましたけれども、実際に小川さんは料理が得意なんですか。
小川 私も好きでよく料理はしてるんですけども。この本を出してから、「全部作ったんですか」って……。
英玲奈 気になりますよね。
N 物語で重要な役割を果たしている料理のメニューは、実際に小川さんが食べて感動したものや、自分でもふだんから作っているものだとか。その中でも英玲奈ちゃんのお気に入りは……。>
英玲奈 この中に出てくる「ジュテームスープ」というスープがありましたが、それは恋がかなうんですよね。
小川 はい。
英玲奈 ちょっ今、力が入ったんですけども。
小川 実際に作っているもので、よく知っているものを入れたいなというのがあって……。
英玲奈 じゃあ、ジュテームスープ、小川さんは作られたことがあるんですか。
小川 ジュテームスープという名前では作ってはいないんですけども……。
英玲奈 お野菜のスープ。
小川 はい。ポタージュはよく作りますね。
N もしかしたら、あなたの恋もかなうかも。春のジュテームスープの作り方を大公開。材料は旬にあわせて、クレソンや空豆など春野菜がいっぱい。まず、スープの味を決める煮汁を用意。豆をグツグツと1時間煮込みます。その間に、具材を下ごしらえ。>
英玲奈 糸さんは、料理するときに、その時の旬というものを大切にするんですか。
小川 そうですね。その時期時期で、八百屋さんに一番安く並んでいるものが旬なので、そういうのをよく使ってます。……(鍋で野菜を炒めながら)火の通りにくい野菜から入れるようにしています。
英玲奈 葉物は入っていませんものね。
小川 葉物はすぐ火が通るので、ギリギリにいれて。
N 野菜に火が通ったところで、煮豆、先ほどの豆の煮汁、ローリエ、タイムを加え、弱火でコトコト1時間。最後に葉物。クレソンとキャベツの葉を入れたら火を消して粗熱をとります。ここで、ローリエとタイムを取り除き、水を加えたら、塩とバターで味を調えます。ハンディミキサーで実を細かくして火が通れば、春をたっぷり詰め込んだ「食堂かたつむりジュテームスープ」のできあがり。>
英玲奈 (ひと匙口に入れて)あっ、美味しい! 辛みのあるクレソンがどうなっているかと思ったら、香りに変化して。
小川 まろやかになって。
英玲奈 これは、いろんな栄養があって、身体に良さそうですね。
小川 お豆のだしが出てて、それで本当に野菜だけなので、バターは入っていますけども、そういうのを入れるだけで、身体にスッとなじむ、美味しいものができると思います。
英玲奈 今後は、どういう作品を書きたいんですか。
小川 1作1作、心を込めて。『食堂かたつむり』もそうなんですけども、広い意味でも実用書のような物語、読んだ人が、読んでよかったなあって思えたり、何か、その人が生きていく上でプラスになれるような、そういう作品を書いていけたらいいなあって思っています。


<スタジオ>
優香 うーん。ジュテームスープ、美味しそうでしたね。私も、この本、大好きなんですけども。なんか、そのままだなっていうか、ホンワカした雰囲気が、とてもピッタリだなって思ったんですが、えみちゃんどうでした。
はしの 私も、イメージ通りの感じで、本当に食堂とか作ってもらいたいですよね。
優香 ねえ、食べたいですよね。
はしの 優しいお料理を作ってくれそうな雰囲気の方ですよね。
優香 松田さん、いかがでしたか。
松田 ロケにおつきあいしたんですけども、本当に素敵な人で。あと、創作ノートを見せていただいたんですね。すると、想像力を刺激するような単語やフレーズが並んでて、あ、こういう言葉を繋げていって、ああいう物語ができるんだなあっていうことが面白かったですけどね。それと、「小川糸」ってペンネームですけども、糸って、それだけだと柔らかいですよね。でも、それを針に通して縫っていく、そうすると柔らかい縫い物ができる。だから、針があるんだ、要するに、堅いもの、鋭いものが優しさの中にあるんだというメッセージ、まさに『食堂かたつむり』のテーマだなあって思ったんですけどね。
谷原 ぼくも、実は、昨日の夜読んだんですけども。女性に受けているということで、読んでみたら、文体がとても簡潔で、男性にも決して読みづらい本ではなくて。光と影とか、喜びと悲しみとか、対照的なものがギュッと入って、さっきのジュテームスープみたいにグシャグシャグシャってなってる感じで……。ぼく、読み終わったのが1時ぐらいだったんですけども、一人でビールを飲みたくなって。何か、食べたり飲んだりしたくなるような……。
松田 ジュテームスープがあればよかったですね。美味しかったですよ、すごく。
谷原 次回作も期待したいと思います。