『こうふく あかの』と「特集・矢口敦子『償い』」


<文庫ランキング> (4/14~4/20 日販オープンネットワークWIN調べ)
 1位 佐伯泰英『白桐の夢 居眠り磐音江戸双紙』(双葉社)
 2位 佐伯泰英『上海 交代寄合伊那衆異聞』(講談社)
 3位 北方謙三『水滸伝 十九』(集英社)
 4位 平岩弓枝『小判商人 御宿かわせみ33』(文藝春秋)
 5位 横山秀夫『震度0』(朝日新聞出版)
 6位 矢口敦子『償い』(幻冬舎)
 7位 伊坂幸太郎『死神の精度』(文藝春秋)
 8位 栗本薫『旅立つマリア グイン・サーガ120』(早川書房)
 9位 北方謙三『替天行道 北方水滸伝読本』(集英社)
10位 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 40』(集英社)
谷原 松田さん、文庫ランキング3位の『水滸伝』なんですが、ぼくもはまっているんですが、読み始めると止まらないですよね。
松田 本当にぼくも止まらないで困っているんですけども。なんで、こんなに面白いのかというと、「水滸伝」という大ロマンを一回解体して、そこに、新しいキャラクターなり、迫力のある合戦場面なりをふんだんに入れて、何倍にも何十倍にして再構築してるんですね。だから、北方さんの並外れた筆力が生み出した一大エンタテインメントなんで、絶対に面白いこと間違いないですね。
谷原 キャラクターが本当に魅力的で、楊志というキャラクターがいて、その男の生き様、死に様が本当にかっこいいんですよ。皆さん、是非読んでいただきたいと思います。あと1位の佐伯さんの作品も面白いです。


<特集・矢口敦子『償い』>
◎矢口敦子『償い』(幻冬舎)



7年前の作品にもかかわらず、新宿の二つの書店(福家書店新宿サブナード店、紀伊國屋書店新宿本店)が、偶然、同時期にPOPを立てて、独自に展開したことから火が付き、いまや45万部のベストセラーになったという、感動の長編ミステリー。主人公は36歳の元医師・日高。彼は、子供の病死と妻の自殺によって絶望し、ホームレスになった。流れ着いた郊外の町で、社会的弱者を狙った連続殺人事件が起き、日高はある刑事の依頼で「探偵」となる。やがて彼は、かつて自分が命を救った15歳の少年が犯人ではないかと疑いはじめるが……。作者の矢口さんは、小学5年生の時に、病気で学校に行けなくなり、大学も通信教育で卒業しました。そういう過去をもっているせいでしょうか、彼女の作品は社会的弱者への優しい眼差しに満ちています。札幌在住の矢口さんを訪ね、この作品に託した思いをうかがいました。また、ヒットのきっかけになった書店も直撃しました。


<今週の松田チョイス>
◎西加奈子『こうふく あかの』(小学館)



松田 活きのいい作品を次々と発表しています西加奈子さんの最新作『こうふく あかの』という作品です。
 先日、『通天閣』で、織田作之助賞を受賞した西加奈子さん。その最新作は、『こうふく あかの』と『こうふく みどりの』という、どこかで繋がっている、まったく別々の物語。『こうふく みどりの』では、中学生緑の日常と淡い初恋が描かれます。そして、『こうふく あかの』では、2007年のサラリーマンの苦悩と2039年のプロレスラーの生き様が交互に語られ、やがて二つの話がリンクしていくのです。>
松田 『こうふく みどりの』と『こうふく あかの』というのは、それぞれ独立した波瀾万丈の物語として楽しめるんです。『こうふく あかの』の方を取り上げてみようと思うんですが、これは、ちょっと自意識過剰なサラリーマンが、奥さんから妊娠を告げられる。だけど、全然心当たりがないので、非常に衝撃を受けるという、深刻なお話が一方であって、そこに突然、未来の、約30年後のプロレスの試合の話が入ってくるんですね。そういう荒唐無稽な話なんですけども、西さんの独特の、活きのいい、コミカルな語り口でグイグイと読まされていくんです。で、あるところまでいくと、この二つの全然違うドラマが、「アントニオ猪木」というキーワードで結びつくっていうことがわかってくるんですね。なかなか不思議な展開になっているんです。最後まで読むと、ハッピーエンドとは言えないんですけども、ああ、こういう終わり方いいんだ、人生ってこういうもんだって思うんです。人生っていうリングの上で、みんな死にものぐるいで戦っている。それもいいじゃないかって、心が温かくなる、元気をもらえるという素敵な物語なんですね。