『おそろし』と「特集・山本文緒『アカペラ』」


<総合ランキング> (有隣堂書店全店調べ・8/10~8/16)
① Jamais Jamais『A型自分の説明書』(文芸社)
② Jamais Jamais『B型自分の説明書』(文芸社)
③ J.K.ローリング『ハリーポッターと死の秘宝』(静山社)
④ Jamais Jamais『AB型自分の説明書』(文芸社)
⑤ 上地雄輔『上地雄輔物語』(ワニブックス)
⑥ 有川浩『別冊図書館戦争Ⅱ』(アスキー・メディアワークス)
⑦ 姜尚中『悩む力』(集英社)
⑧ つるの剛士『つるっつるの脳みそ』(ランダムハウス講談社)
⑨ 編集工房桃庵『おつまみ横丁』(池田書店)
⑩ 宮部みゆき『おそろし』(角川書店)


<特集・山本文緒『アカペラ』>
◎山本文緒『アカペラ』(新潮社)



『プラナリア』で直木賞を受賞、再婚し、すべてを手に入れたかに思えた時、重度の抑鬱状態に陥った山本文緒さん。望んだ再婚生活なのに、心と身体がついてゆけず、家族、友人、仕事のはざまで苦しみ抜いた日々。そこから再生を果たし、6年ぶりに新作が発売されました。病弱な弟と暮す50歳独身の姉。20年ぶりに実家に帰省したダメ男。じっちゃんと二人で生きる健気な中学生。人生がキラキラしないように、明日に期待し過ぎないように、静かにそーっと生きている彼らの人生を描き、温かな気持ちと深い共感を呼び起こす感動の物語。新作『アカペラ』の思い出の地である三浦半島でインタビュー。病気になる前後で、小説に対する思い、書き方などがどう変わったのかなどについて伺いました。


谷原 松田さん。6年ぶりの新作ということで、『アカペラ』どんな印象でした。
松田 そうですね。山本さんというのは、もともと小説の名手なんですけども、今度の作品を読んでいて、登場人物の人間描写とか物語とか、ひときわ彫りが深くなったような気がするんですね。やっぱり、ああいう経験が生きてきていると思います。癖のある、だけど愛すべき人物たちの演じるドラマから目が離せないですし、読み終わった後に、ホッコリと温かいものが残るという素敵な作品集なんです。これからもいい作品を読ませていただきたいなと思いますね。


<今週の松田チョイス>
◎宮部みゆき『おそろし』(角川書店)



松田 時代小説、ホラー、ファンタジー、宮部みゆきワールド全開の最新作『おそろし』です。
N 宮部みゆきさん待望の最新時代小説『おそろし』。ある事件を境に、他人に心を閉ざした17歳のおちかは、神田三島町に叔父夫婦に預けられた。そこへ訪ねてくる人びとが語る不思議な怪談の数々によって、おちかの心のわだかまりが少しずつ溶けていく。生きながら心を閉ざす者、心を残し命を落とした者。そして、心の闇に巣くう人外のもの。それは、長い長い「百物語」の始まりだった。>
松田 まず、主人公の「おちか」のたたずまいが素敵なんですね。彼女は、自分の身近に起こった悲惨な事件をきっかけにして心を閉ざしてしまって、それを、叔父さんが、何か心を開くきっかけになるんじゃないかっていうんで、人びとの怪談話を聞くように、怪談セラピーみたいなことを始めるんですね。人びとの血生臭い話を聞いていくうちに、犯罪だったら犯罪に関わる被害者も加害者も、みんな心に闇を抱えているんだということに気がつくんです。それで、「おちか」は自分の「弱さ」を「強さ」にかえて、心の隙間に忍び込んでくる邪悪なものに対して、毅然と戦いを挑んでいくんですね。その姿は素敵ですし、美しいし、「おちか」がかっこよく見えてくるんですよね。
谷原 ぼくも読ませていただいたんですけども、その「百物語」をしてくる人たちのなかに、「おたかさん」という人がいるんですね。その「おたかさん」は家族である家に住んだら百両あげるよ、という言葉にのせられて行くんですよ。で、「おたかさん」が身の上話をしていって、「でも、その家に住んで、何にもなかったのよ、百両貰って。とってもよかったの。あら、おちかさん、あなたもそこの家に似合うわよ、一緒に行かない」って誘うんですね。ところが、おたかが語っていたことは全部嘘で、本当は、おたかじゃなくて、一緒に住んでいる清太郎というのが来るはずだったんです。何か用事があって来れない隙に、おたかが抜け出して、勝手に語りに来ていたんですよ。で、清太郎はおたかを連れ去り、実は、どんなことがあったかというと、そこに住んで、1年経って、全員亡くなってしまっていて、最後生き残っていたのはおたか一人で、彼女はもう天涯孤独の身で、生ける屍になってしまった、というんです。そこを読んだときに、ぼくはゾクッとして……。おちかさんのたたずまいが素敵だって、松田さんがおっしゃったんですが、これは静かな心の冒険活劇だなと思いましたね。本当に面白いです。是非読んでいただきたいです。宮部みゆきさんファンに関わらず、ぜひ、ぜひ読んで下さい。