『夏から夏へ』と「追悼・赤塚不二夫特集」


<今週の松田チョイス>
◎佐藤多佳子『夏から夏へ』(集英社)



谷原 まず今日は、松田さんもイチオシという、一冊の話題の本から紹介します。北京オリンピックで悲願のメダルを獲得したあの選手たちの珠玉のノンフィクションです!
N 北京オリンピック陸上男子、4×100リレー決勝。オリンピックにおいて、トラック競技で男子のメダルは未だかつてない。ついに悲願のメダル獲得。この日本代表リレー・チームを追いかけている作家がいた。小説『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さん。自身初のノンフィクション『夏から夏へ』。個人ではメダルに届かなかった4人のランナーが力をあわせてリレーで世界に挑む。去年夏の大阪世界陸上から、今年夏の北京へ。研究と努力を重ね、4人が心を一つにしていく舞台裏が克明に描かれる。>
松田 これは、北京オリンピックの感動シーンが鮮やかに残っている間に、是非読んでほしい作品です。本当に歴史的な偉業を成し遂げた塚原、末續、高平、朝原という4人のアスリートの姿が活き活きと立ち上がってくるんです。あの日の感動が何倍にもふくらんで感じられる、そういう作品なんですね。
谷原 結果は知っているじゃないですか、ぼくたち、銅メダルという。その裏側にはすごいストーリーが隠されていると思うんですよね。
松田 4人は当然ですけども、周辺のコーチとか控えの選手とかに、ていねいな取材をしているんですね。だから、4人の個性が一人一人わかりますし、それに4人の信頼関係がなければできないレースですし、それから、バトンミスがこわい競技ですから、バトンパスの練習をものすごくやるんですね。実は、日本の選手は一人一人はそれほど速くないのに、なんであれだけ速く走れるかというと、その辺に秘密がある。
谷原 技術が。
松田 技術があるんですね。だから、佐藤さんが4人と一緒に北京オリンピックに向かって走ったという感じの、すごく爽快感のある素晴らしい作品なんですよね。
谷原 そう、いまのうちに読まないとね。
優香 『一瞬の風になれ』の時も、佐藤さん、本当に空気感が伝わってくるんです。風が吹いている感じが。だから、今回楽しみですね。
松田 そうですね、4人のメンバーも、佐藤さんの『一瞬の風になれ』を読んでいるんで、だから、佐藤さんならということで、ほかの人には語らないことを語ってくれたりするんですね。本当に、今読むべき本だと思いますね。


<追悼・赤塚不二夫特集>
◎赤塚不二夫『天才バカボン』(竹書房文庫)ほか
◎赤塚不二夫『おそ松くん』(竹書房文庫)ほか

ギャグ漫画の巨匠・赤塚不二夫さんが今月2日、亡くなりました。『天才バカボン』、『おそ松くん』、『ひみつのアッコちゃん』などのギャグ漫画の大傑作を生み出した漫画家・赤塚不二夫とは一体どんな人物だったのでしょうか。手塚治虫に影響を受けた新人時代、藤子不二雄、石ノ森章太郎などと切磋琢磨したトキワ荘時代、そして大ヒット作を連発させ、漫画界に止まらず、その多才振りを発揮した晩年まで、赤塚さんの作品や交友関係を通して、その漫画家人生を振り返ります。トキワ荘時代を知っている鈴木伸一さんが、赤塚さんの人と作品について語ってくれました。
谷原 ぼくなんか、TVアニメで見ている世代なんですが、その前に原作で読んでいる世代なんですね、松田さんなんかは。
松田 そうですね。毎週、週刊誌二誌に強烈な連載が載っているという時代で、毎週毎週驚かされるんですよね。さっきも(VTRで)少女漫画のようなのがあったけど、全編セリフが漢字だけの回があったり、一つもセリフのない回があったり、ものすごく前衛的なんですよ。それまでの漫画をぶちこわしていく、アナーキーなんですけども、陽気で楽しいんですよ。それがたまらなく面白くて。たぶん、タモリさんなんかは赤塚さんがいなければ誕生していなかったですし、お笑いにしても、映画にしても、アートにしても、いろんなものにものすごく大きい影響を与えている人なんですね。
谷原 いろんな素晴らしい作品を生み、そして、いろんな人も発掘した……。
松田 本当に偉大な人だと思いますね。
谷原 これでいいのだ!