第25回太宰治賞

第25回太宰治賞受賞作が決定いたしました

2009年5月11日(月)午後6時30分から、第25回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の選考委員会が、三鷹市「みたか井心亭(せいしんてい)」で開かれ、選考委員三氏(加藤典洋、荒川洋治、三浦しをん)による厳正な選考の結果、以下のように受賞作が決定しましたので、お知らせいたします。※選考委員の小川洋子氏は事情により欠席されました


第25回太宰治賞受賞作
「だむかん」 柄澤 昌幸

【あらすじ】
電力会社の土木課に勤務する都宮は、ダム管理所への出向を命じられた。そこでは、非常事態に備えて、ただそこにいることが仕事である。仕事にやりがいを求めている大卒の都宮には、そこでの勤務は苦痛を伴うものであった。そこで働く中卒、高卒の他のメンバーは、その退屈さを受け入れて、うまくやりすごしている。都宮は、一向に仕事を教えてくれない同僚にいらだちながらも、ダム管理所での仕事を徐々に受け入れていく。
深夜の訪問者、ダムの鳴き声、そしてひとつの町を消しかねないダムの放流。圧倒的な自然を前にして、都宮は自分を知る。














著者略歴
柄澤 昌幸(からさわ・まさゆき)(40歳)
1969年生まれ、埼玉県在住。
受賞の言葉を読む


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第25回太宰治賞授賞式は2009年6月15日、東京會舘にて行われ、


受賞者には、記念品及び賞金100万円が贈られました。




【授賞式レポート】
 6月15日(月)、例年通り、東京丸の内の東京會舘で、第25回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の贈呈式が行われました。
 太宰治生誕100周年に当たる今年、まず挨拶に立った三鷹市の清原慶子市長は、「太宰が生きた町・三鷹」をテーマにしたさまざまな三鷹市の文化事業を紹介、太宰の文学が今に与える影響の大きさを思い、この太宰治賞から今後大いに活躍する作家が羽ばたいてくれることを望みたいと述べました。次に、筑摩書房代表取締役社長は、太宰治全集の復刊や関連出版を紹介し、出版界の厳しい状況の中でも、既刊を売りのばす試みが成功していることを紹介。まだまだやれる、太宰治賞を三鷹市と共に支え、新しい著者や作家を世に出していきたいと抱負を述べました。
 そして、今回の選考委員(加藤典洋、荒川洋治、三浦しをん氏)を代表して加藤典洋氏から選考過程と選評の発表がありました。
 最終選考に残った作品の4篇のうち、1篇は、まだもうすこし、物足りない、ということで3人の選考委員が一致し、3作品がおもに議論となった。ここからは、3人の選考委員が三者三様で意見は分かれた。しかし次第に、「ひょうたんのイヲ」は最後に難点があるという共通認識が生まれ、「だむかん」と「ヘラクレイトスの水」の2作となったが、それぞれを強く推す選考委員があり、かなり強い議論が戦わされた。それぞれが異質な作品で、立場を変えると見方が変わり、互いの意見は理解できるが譲れない、ということで議論がつくされたが、最終的には、両方に目配りをしていた委員が、これだけ議論を呼ぶのであれば、「だむかん」にはそういう力があるということではないかと述べ、「だむかん」の受賞となった。……
 以上のように、白熱の選考過程を明かし、満場一致とはならなかったが、太宰治という人は、生前どういう場所でも満場一致の支持を得ることがなかったであろうという気がするので、この賞にはふさわしいと思うし、受賞者にはここから頑張ってほしい。また、最終選考に残った他の作品にも大いに見るべきものがあると言うことを付け加えておきたい、とまとめました。
 そして、ここに自分が立っていることからみなさんおわかりのように、と、加藤氏こそが「だむかん」を強く推した選考委員であると述べ、この作品には、流されていく日常だけが描かれている、大きな惨事が起こる、そこから話は始まるのに、過失もどラマもなく、疲れちゃってめんどくさいなあという、ひたすら流されるふつうの日々の生活がある。この「無為」に、今の若い人の生存のありようにつながる、そういう現代性があると思うと、受賞理由を語りました。
 その後、津島園子さんより受賞者への花束贈呈が行われ、荒川洋治氏による乾杯の音頭で、パーティへと移りました。
*選評と受賞作、それに最終候補作品は『太宰賞2009』にて読むことが出来ます。