【特集 ちくま文庫30周年記念】ちくま文庫の品切れ本を求めてブックオフに行く/坪内祐三

 古本屋好きな人間でありながら(いや、あればこそ?)私はブックオフをほとんど利用しないのだが、たまに入った時はまずちくま文庫のコーナーをチェックする。

 ちくま文庫について、よく人は、ラインナップは揃っているのだが品切れになるのが早過ぎる、と口にし、私自身そのような批判を持ったこともあったが、現代の出版情況を考えれば、それは御門違いだと思う。
 これだけ文庫本の種類が増えれば、書店でこれ以上、文庫本のコーナーを広げることは出来ない。
 となると、ちくま文庫もその限られたスペースの中で、シャッフルしていかなければならない。
 以前と比べて文庫のイメージは大きく変った。
 まず文庫といえば、岩波文庫そしてかつての新潮文庫すなわち古典としての文庫があった。
 それが一九七〇年代に入って変化して行き、もはや文庫とはひと言で定義出来ない。
 ちくま文庫のスタートはかつての中公文庫や文春文庫のスタート時のように、自社本の文庫化にあった。
 それが、ある時期から、古典もそのラインナップに加わった。
 これは凄いことである。
 たとえ初版売り切りでその後増刷されなくとも、つまり一度でも文庫本化してくれるのは、立派なことだ。
 ちくま文庫は本当に立派であると思う。
 ちくま文庫で、これは、と思える新刊が出た時、私はすぐに買うことにしている。
 そんな私であっても、新刊で買い逃し、気がつくと品切れになっている書目も多い。
 そんな時にありがたいのは、ちくま文庫(およびちくま学芸文庫)の解説目録だ。
 文庫本の目録は各社で刊行している。
 しかし、品切れ本まで表記してあるのは、ちくま文庫の目録と講談社文芸(と学術)文庫の目録ぐらいではないか。
 今私の手元に二〇一四年版の目録があって、その巻末近くの「品切れ一覧表」にはサマセット・モームの『アー・キン』からウィリアム・サローヤンの『ワンデイインニューヨーク』に至る品切れ本の一覧が載っている。
 モームと言えば、今『コスモポリタンズ』と『昔も今も』の二冊が生きているが、『アー・キン』や『アシェンデン』などの入っていたモームコレクション(何冊出たのだろう?)、いつか揃えようと思っている内に棚から消えた。
 そうそう、ちくま文庫のイギリス文学と言えばディケンズもだ。『骨董屋』上下巻や『ピクウィック・クラブ』全三巻や『マーティン・チャズルウィット』全三巻や『我らが共通の友』全三巻など。
 かつて三笠書房から出ていて(ただし『我らが共通の友』は新訳ではなかったか?)神保町の古本屋でとても高い値段(全三巻で二万円)のついていたこれらの作品がちくま文庫に入った時、これは有り難いと思っていたのだが、結局、買い逃してしまった。
「品切れ一覧表」中でシリーズ物は太字(ゴチック)になっている。
『田中小実昌エッセイ・コレクション』全六巻は新刊で買い揃えたはずだと思って、文庫本棚のコミマサさんコーナーをチェックしたら、アレッ、第六巻がないぞ。
『吉行淳之介エッセイ・コレクション』全四巻、一巻は二冊もあるのに二巻がない。
 それから、そうか、東海林さだお『新漫画文学全集』全八巻も出ていたのか(私は一冊も持っていない)。
 しかし、おかげでブックオフに行く楽しみが増えた(もちろん、目録を持ってなんてヤボはせずに――『吉行淳之介エッセイ・コレクション』の第一巻、三冊目も買ってしまうかもしれない)。

(つぼうち・ゆうぞう 評論家)

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