子ども達の「ウザい」を理解する/山脇由貴子

 私は、児童相談所というところで、毎日子どもに関する相談を受けている。基本的には、〇歳から一八歳までの子どもに関する相談なら何でも受ける。
 いろんな子どもに出会う。連れて来られた理由もさまざまである。何らかの問題を起こして親に連れて来られる子。警察につかまって連れて来られる子。虐待をされて保護されてきた子。自身が相談をしたくて来る子。
 だから毎日多くの子どもと話をする。心理の専門家であるが故に、そして子どもの心を正確に理解する為に、心理検査をすることも多いが、やはり圧倒的に話をしている時間の方が多い。
 私はお説教をしない大人である。悪いことをした子どもに、お説教をしてくれる大人はたくさんいると思うからだ。そして同じお説教を何度もたくさんの大人がしても効果はないと思っているからだ。私の仕事は、子どもの気持ちを知ることであり、子どもの行動や態度の原因を知ることだからだ。
 そんな風にお説教はせずに子どもと話をしていると、次第に子どもと親しくなってゆく。すると子どもは本音を話してくれるようになる。
 本音を話す時、子どもは言葉を選ばない。よりストレートに自分の思いが伝わる言葉を自然と口にする。そこで子ども達は、実に頻繁に「ウザい」という言葉を口にする。その対象は、ほとんど全て大人だ。子どもの周りの大人達。親であったり、先生であったり、テレビに出てくる大人であったり。
 子どもが大人を「ウザい」と思う。それはとても残念なことだ。けれど私達大人は、往々にして、それは子どもの反発からだとみなし、それ以上深く言葉の意味を考えようとはしない。
「ウザい」という言葉は、どうしてここまで子どもの世界に浸透したのだろう。それは間違いなく、子どもにとって感情を表すのにぴったりだったからだろう。そこには確かに反発があるが、一方で私は子どもと話していて感じるのだ。子どもは何の理由もなく大人を「ウザい」とは言わない、と。
 例えば、お父さんお母さんに対しては、話を聞いてくれない。一生懸命話したのに、分かってくれない。一方的に決め付ける。一緒に行くと言ったのに、行けなくなったと約束を破る。大好きな友達と付き合うな、と理由を説明もせずに言う。勉強しろ、とお酒を飲みながら言う。
 先生達に対しては、例えば、「お前」と呼ぶ。お説教ばかりする。何も知らないくせに「お前のことはちゃんと分かっている」と言う。「心配している」と言うけれど、「心配しているふり」にしか見えない。自分の間違いを認めない。
 子どもの勝手な理屈だと思われる方もいるかもしれない。けれど、子どもはお父さんお母さんだからこそ話を聞いて欲しい、分かって欲しいと思っているのだ。どこかに行くと約束すれば、楽しみにしているのだ。
 また、子ども達にとっては、どの先生も最初は多くの先生のうちの一人にすぎない。この先生は自分を見てくれていると感じ、個別性のある関係が出来ない限りは、心配しているという言葉も、理解しているという言葉も、子どもには届かない。
 子どもは子どもなりに大人に期待しているのだ。聞いて欲しい、分かって欲しい、ちゃんと見て欲しい。大人にはこうあって欲しい。その期待を裏切られた時、子どもは悲しみや落胆や怒りを込めて、大人を「ウザい」と言うのだ。
 この本には、たくさんの事例を書いた。少しでも子どもの「ウザい」という言葉に込められた思いが伝われば嬉しく思う。
 そして、では大人は子どもに対してどうあるべきなのか。大人はいつだって子どもを大切に思っているし、心配している。安全を守りたいから、幸せになって欲しいから、お説教をするのだし、危ないことを禁止するのだ。その大人の思いはどうしたら子どもに伝わるのだろう。
 そんな大人と子どものすれ違いの解決に、この本が役立ってくれたら、とても嬉しい。そして、この本を読む若い読者の方達に、大人も結構一生懸命、子どものことを思っているのだということを理解して欲しいと思う。(やまわき・ゆきこ 児童心理司)

『大人はウザい!』 詳細
山脇由貴子著

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