私がデモに通う理由/雨宮処凛

 鳥肌が立った。そして不意に、涙が溢れそうになった。
 それは2011年9月11日。「原発やめろデモ!!!!!」のあと、2万人ものデモ参加者が埋め尽くす新宿アルタ前広場に停められた街宣車の上で、いとうせいこう氏が言葉を発したあの瞬間。
「デモ隊の諸君、君たちは路上の花だ」「君たちは人工的な花だ」
「歩き、歩き、歩き、歩き、人類に歴史を刻むのだ」
「デモ隊の諸君、ならびにそれを囲む皆さん/我々は自分の未来を、我々の子孫の未来を変える権利と義務を持ちます」「だから、廃炉せよ、と我々は叫ぶのです」
 2011年3月11日以降、多くの人が、多くの言葉で、自分を、未来を、この国を、政治を、そして原発を語った。
 あの日以降、この国では何が「正解」なのか、誰もわからなくなった。「明確な答え」が、何ひとつないことを突きつけられた。
「毎日、毎日、否応無くせまられる決断。/逃げる、逃げない。/食べる、食べない。/洗濯物を外に干す、干さない。/子どもにマスクをさせる、させない。/畑をたがやす、たがやさない。/なにかに物申す……黙る」
「半年という月日の中で、次第に鮮明になってきたことは、/真実は隠されるのだ。/国は国民を守らないのだ。/(中略)私たちは棄てられたのだ」
 福島の武藤類子さんの言葉の前に、私はただただ深く息を吐くことしかできない。
 だから、私たちは語るのだ。言葉をぶつけ合い、確かめあわずにはいられないのだ。そして、政府の発表のような嘘で塗り固められた言葉ではなく、血の通った、ホンモノの言葉が聞きたくて仕方ないのだ。それ自体が、あの震災で失われた命や、原発事故によって奪われた多くの人の故郷への追悼であるかのような、言葉の洪水。
「この1年で、福島の女性は、人類創世から勉強し直したんです。すべてを学び直したんです。どれほど人間が愚かか、ということを学び直したんです」
「原発いらない福島の女たち」の言葉だ。
 本書に刻まれているのは、私たちの不安、怒り、悲しみ、そしてそれぞれの「脱原発」への決意だ。
 東日本大震災から1年7カ月。その間、この国では脱原発を掲げるデモや首相官邸前の抗議行動に数百万人単位の人が参加し、声を上げてきた。何かこの国で、「民主主義」を巡る大きな地殻変動が起きているのだ。私が初めて脱原発デモに参加したのは2011年4月10日。その時の一枚のプラカードとの出会いが、私に「脱原発デモに通い続ける」ことを決意させた。そこに書かれていたのは、「俺の双葉町を返せ!」という言葉。福島の男性が掲げていたそのプラカードに、ガンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
 この本を読んで、わかった。自分がデモに通い続けている理由。
 私は言葉と出会いたかったのだ。何が正しいのかまったくわからなくなったこの国で、「安全神話」に象徴されるすべてが崩壊した世界で、まっとうな言葉と出会い、そしてほんの少しでも社会をよりマシな方向に変える試みを繰り返すこと。それが壮大な民主主義の実践でなくてなんなのだろう。
 本書で語られ、綴られているのは、決して「脱原発」だけではない。私たちがどう生き、どんな未来を望み、そして何を大切にしていくのか。何を愛し、何を憎み、そして一人の人間として次の世代にどんな責任を果たしていくのか。
 言葉の持つ力に、ただただ圧倒された。
(あまみや・かりん 作家・活動家)

『脱原発とデモ――そして、民主主義』 詳細
瀬戸内寂聴、鎌田慧、柄谷行人ほか著

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