『ちくま評論文の論点21』編者の言葉

この小さな本には、21の「論点」を収めました。これらの「論点」は、この本を手に取ったあなたが「世界」と出会い、「世界」をよりよく知るためのとびらに他なりません。

「世界」ということばには、大きく二つの意味があります。ひとつには、人間が暮らすこの社会全体をさすもの。もうひとつは、個人としての「私」が見たり聞いたり手応えをもって感じたりできる現実の範囲のことです。つまり、「世界」にはマクロとミクロの二つの意味がある。「大きさ」「小ささ」をイメージさせる表現が適切でないのなら、外に向かっていく意味と、自分自身の内側を掘り下げていく意味がある、とも言えます。

そのように考えれば、人間のあらゆる「知」の営みが、この「私」にとっての「世界」から出発しつつ、全体としての「世界」を捉えようとする営みであることが理解できるはずです。実際にひとが経験できることは多くありません。現実の社会はあまりに複雑で、神ではない人間には、そのすべてを認識することはできません。未来を予測することはおろか、すでに起こった過去のすべてを知ることさえ難しい。ですが、人間には好奇心があります。自分を取りまくこの現実と、他ならぬ自分自身のことをよく知るために、自らの心と身体に問いたずねながら、自分が理解できる「世界」の範囲を押し拡げようとします。このようにして、二つの「世界」を結び合わせていく筋道のことを、私たちは一般に「学問」と呼んでいます。

この本の7つの章は、大まかに言って、あなたがこれから出会うだろう学問の領域に対応しています。各章ごとに掲げた3つの文章と「論点」は、そこから出発する旅の中でどんな経験と出会えるか、どんな困難や問題とぶつかるかを示すチェックポイントのようなものです。合わせて、その旅のルートを切り開いた先人たちや、旅を続ける上で役立つキーワードも紹介しています。「論点」どうし、各章どうしのつながりにも配慮しました。読み進めていく中で、前の部分で見知ったひとの名前や、別の学びの旅でも問われていたテーマと出会い直すこともあるはずです。それが学問である以上、入口こそ違えど、「世界」を知るという目的は共通しているからです。

この本が用意した21の関門すべてをくぐり抜けたとき、あなたは、それまでとは違うやり方で「世界」と向き合うことのできる、一枚の地図を手にしているはずです。まだまだ書き込むことのできる余白が多くあるその地図を使って、次はどんな旅に出るのか。それを決めるのは、あなた自身です。

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